新しい杖
夜更け。
リディオノーレが熟睡していることを確認し、グレイザックは領主を部屋に招き入れた。
「……お前が甲斐甲斐しく世話をしているとはな」
リディオノーレから離れないグレイザックを見て、領主は目を瞬いた。
まさか会いに来いと言われると思っていなかった。
「体調は?」
領主は尋ねながら、すすめられた椅子に座った。
「大丈夫です。回復魔法もかけていますので」
グレイザックの言葉に領主は目を丸くした。
「………優しいじゃないか」
領主は思わず呟く。
「それで、首尾を聞かせて下さい」
グレイザックは早速本題に入る。
領主は、リディオノーレが王族の目にとまったことを告げる。
そして、壇上での会話や試合中の会話の内容を話す。
「俺と一緒に召し上げる、と?」
グレイザックが不敵な微笑みを見せた。
(これは怒らせたな)
領主は苦い顔になる。
「俺とリディを扱えるような奴は、この国にはいない」
グレイザックは吐き捨てた。
「………そうだろうな」
領主は何も知らずに寝ている彼女をちらと見る。
「グレイザック、あの両手杖は教えたのか?」
「いや」
グレイザックは唇の端を上げる。
「魔力操作自体は練習していたので、その応用ですね」
「………前代未聞だぞ。お前は出来るのか?……出来るわな」
領主はため息をつく。
「今であれほどとは、学院でかなり注目されるぞ。この式のことは語り継がれるだろう」
「そのつもりで披露したので覚悟は出来ています」
グレイザックは答える。
「これで、近付いてこないでしょう」
グレイザックは息を吐いた。
「………未婚でこの娘と釣り合う者はいないだろうからな。だから、次は第二夫人や第三夫人としての縁談が来るぞ」
「………俺が許すとでもお思いですか」
グレイザックは嘲笑する。
第二や第三夫人の地位に自分の弟子をやるものか。
「まあとりあえず、王族が娶ろうと考えてないだけでマシですね」
グレイザックは言う。
「あの王子なら、魔力が釣り合うのではないのか」
「そう思われますか?」
グレイザックはにやりと笑う。
「………いや、何でもない。とりあえず、お前もゆっくり休め。明日はお前たちが忙しくなるだろう」
領主はそう言って立ち上がる。
「此度の試合、見事だった。お前たち、似合いだぞ」
領主は部屋を出る寸前、それだけ告げると去って行った。
アブストールにも同じ類のことを言われた。
グレイザックは長い長い息を吐き、椅子に座ったまま眠りについた。
翌朝。
何と珍しくリディオノーレの方が先に目覚めた。
「………」
グレイザックの寝ている姿なんて見ることないので、リディオノーレは思わず目を瞬いた。
思わずじっくり見つめてしまう。
「………何だ」
急に目を開けて、グレイザックは睨みつけた。
「!!」
リディオノーレは思わずびく、となる。
「そんな視線を感じれば、普通の奴は気付く」
グレイザックは息を吐きながら言うと、伸びをした。
座ったまま寝ると体のあちこちが痛い。
体をほぐすと、リディオノーレの額に手を当てる。
「大丈夫そうだな」
グレイザックは告げる。
「回復魔法ももしかしてかけました?体が軽いです」
リディオノーレはぴょんぴょん飛び跳ねながら言う。
「ああ」
グレイザックは立ち上がって伸びをすると、「リディ」と呼びかけた。
「?」
「手を出せ」
グレイザックにそう言われ、彼女は素直に手を出した。
グレイザックは懐から一本の杖を取り出すと、その彼女の手に置いた。
「!!!!!!」
リディオノーレは驚愕を露わにし、杖とグレイザックを交互に何回も見る。
そして、少し落ち着いたところでリディオノーレは徐に口を開いた。
「わ、私の、杖、ですか?」
リディオノーレは恐る恐る尋ねる。
「見れば分かるだろう」
当たり前のことを聞くな、と顔に書いてある。
「〜〜〜っ」
リディオノーレは感極まり、目が潤む。
「え、おい、何で泣く」
グレイザックが慌てる。
「じじょ〜〜〜っ」
リディオノーレはぐず、と鼻をすすりながら飛びついた。
「!!」
ぎゅ、と首に腕を回すものだから、全体重がのしかかるグレイザック。
それに身長差もあり、しがみつくと彼女の足が浮いた。
彼は慌てて、抱きかかえるように腕を回す。
「急に何だ」
グレイザックは困った顔で話しかける。
リディオノーレは彼の肩にすりすりと頬擦りしながら、嬉しそうに答えた。
「大好きです、師匠」
「!!………何だ、急に。何の告白だ」
グレイザックは一瞬固まったが、我を取り戻し、尋ねる。
「杖、ありがとうございます。私のために色々してくれて感謝してます。本当に。大好きです。尊敬してます」
リディオノーレは力を込めてぎゅーーーっと抱きつく。
この貰った杖、かなり意匠を凝らしてある。
魔石が埋め込まれているのではなく、液体状態にした魔石を細長く蔓のように杖に巻きつけてある。
杖の持ち手側の端には、鎖がついていてその先に金色の魔石がある。その魔石にはアインズビルの紋章が刻まれていた。
一体いくつ魔石を使ったのだろうか。
「金色ですから、師匠と同じ魔石ですね」
リディオノーレは嬉しそうに話しかける。
「魔石、何個分ですか」
「4個だ。とりあえず、学院にいる間は保つと思うのだが」
グレイザックは答える。
「自慢、してきてもいいですか」
リディオノーレは顔を上げ、近距離でグレイザックに尋ねる。
「サムエル達が来るまで待ってろ。魔石の数は言うなよ」
グレイザックは顔を逸らしながら答えた。
「はーい!」
リディオノーレは嬉しそうに返事をして、もう一度彼の首に縋りついた。
グレイザックは内心で息を吐く。
だが、不思議と不快感はない。
少しの間好きにさせておくことにした。
耳元で感謝をずっと言われ、グレイザックがどれだけすごいか語られている内に部屋の扉を叩く音が聞こえた。
グレイザックは彼女をゆっくりと下ろす。
「入りますね」
サムエルが声をかけ入室すると、リディオノーレは一目散に杖を見せに駆け寄ったのだった。




