師弟2人の戦闘
「いきますよっ」
リディオノーレはにやりと笑って、風を回転させて竜巻を起こす。
大きい竜巻を3つも出現させた。
竜巻の呪文を唱えるのではなく、風を操ってだ。
審判をしている領主はライムグートのように思わず笑ってしまう。
何だ、あの魔力操作は。
隣にいる王妃なんて、目を見開いたり、瞬いたり、呆けてしまったり、もう王族としての威厳を保っていられないほど驚愕していた。
「アラウィリア領主。………あの娘は……」
王妃はリディオノーレから目を離すことなく話しかける。
「規格外なのです」
領主はそれだけ答える。
「あの魔力量と奇策。………あれで入学前だとは」
王妃がごくりと唾を飲み込んだ。
王族として、あの魔力量は欲しい。
「初めて見る者は皆、驚きます」
領主は苦笑しながら答えた。
「!!!」
リディオノーレの竜巻にフェルバールとバルデミアンが驚いた。
「初めて見ました」
バルデミアンが声を上げる。
「いつの間に」
フェルバールは感心する。
「素晴らしい魔力操作ですね」
サムエルも褒める。
「3つなら、まだまだだ」
グレイザックはそう答え、盾の形を変える。
皆を囲うような半円の盾をつくり出す。
その盾を展開した直後、竜巻が皆を襲う。
流石のアラウィリア騎士団たちも逃げ惑うしかなかった。
盾で防いでも、竜巻が盾の一点だけを狙って打ち破るのだ。
いつぞやのグレイザックがしていた技である。
一回見ただけでやれるのは本当に才能があるとしか言いようがない。
グレイザックは思わず唇の端を上げて笑っていた。
リディオノーレの攻撃で激減した敵で残っている者と言えば、彼女と交戦したり共闘した者たちだけである。
ジャンドバルトとザファムートは自分の身が危険だと感じ、大人しく降参して引き下がった。
これは死んでしまう。
「では、ここからは」
ムナグレークが剣を握る。
「援護します」
リディオノーレはそう言うと、石を浮遊させた。
ムナグレークが特攻していく。
その彼を迎えうったのは、ライムグート率いるアラウィリアの騎士たちだ。
ムナグレークの負担が少しでも減るように、リディオノーレは周囲の騎士たちを排除していく。
いつぞやの鳥の魔獣狩りでは、小刀を6本操るのが限界だった。
だが、あれから数ヶ月。
彼女が操作できる量が増えていた。
いつの間にか4個増え、10個に。
彼女は石を10個操り、周囲の騎士を正確に1人ずつ排除していく。
「……いつの間に」
様子を見ているバルデミアンが思わず呟いた。
「くくく」
グレイザックは思わず笑う。
なんて奴だ。この人数差にそんな緻密な魔力操作を見せるのか。
自分に近付きつつある魔力操作の精度に驚き、笑ってしまうグレイザック。
本当にいつの間にここまで出来るようになっていたのか。
「流石、俺の弟子」
グレイザックは思わず呟いた。
その間にも次々とアラウィリアの騎士たちが落ちていく。
グレイザックは笑顔が止められない。
弟子なぞ面倒くさいと初めは思っていたが、ここまで成長されると感慨深い。
「サムエル、フェル、バルデ、行ってもいいか?」
グレイザックは3人に尋ねた。
彼の笑顔に3人も思わず笑顔になる。
「行ってらっしゃいませ」
サムエルは笑顔で送り出す。
「盾、ありがとうございました」
フェルバールとバルデミアンが礼を述べる。
グレイザックは皆を守る盾を解除すると、天馬を駆けて、アラウィリア騎士団たちより前に出る。
「………」
ライムグートが思わず引き下がった。
ここからは、この師弟2人の戦いだ。
師弟2人以外が盾を展開したまま、距離を取る。
自分たちは完全にこの2人の邪魔になると、何となく分かっているのだ。
「……あれほど楽しそうなグレイザック様を見たのはいつぶりでしょうか」
サムエルが思わず呟く。
「あの笑顔、初めて見ました」
バルデミアンも呟く。
「何が来ると思いますか?」
フェルバールは警戒しながら2人を見る。
「それはもちろん………」
「トルドゥルッ!!!!!!」
リディオノーレとグレイザックのほぼ一騎打ちとなり、2人はにやりと笑うと同じ呪文を唱えた。
「ぐぅっ!!!」
衝撃の余波でフェルバールが呻く。
盾に全力で魔力を注いでおかないと、自分たちが危ない。
雷撃に雷撃で相殺するが、やはりグレイザックの魔力が強いため、完全に相殺はしきれない。
相殺しきれなかった雷撃は、彼女に当たることなく、衣装に施した魔法防御の魔法陣のおかげで防がれる。
「ヴァンクリンゲ!」
グレイザックが風刃を放つ。
増幅は組み込んでおらず、僅か7つほどだ。
ならば。
「ヴァンクリンゲ!」
リディオノーレも風刃を出し、それを操って相殺させる。
「ははっ!!!」
グレイザックは思わず声を出して笑った。
なんて奴だ。
師弟2人は楽しそうにしているが、周囲はそんな様子ではない。
完全に呆けている。
「え?あれは、どういう……」
誰かが呟く。
観客がざわめく。
何なんだ、あの異次元の魔法の扱いは。
遠くから見ているアブストールとグレティアーナも驚きを隠せない。
「グレイザックとまともにやり合っているじゃないか……」
アブストールは呟く。
「将来が怖すぎます」
グレティアーナが答える。
勿論、アインズビル一行もかなり驚いている。
ジャンドバルトは自分がどこまで弱いのか思い知らされる。
ザファムートも目を見張る。
いつの間にこんなに魔法を扱えるようになったのだろうか。
才能がありすぎる。
サムエルも思わず呟いてしまう。
「魔力操作に磨きがかかってますね」
「かなり。暇さえあれば、城内を歩きながらも練習していましたから」
フェルバールが答える。
「これは、武器の扱いまで身につけてしまったら、彼女に敵う者なんていませんよ。本当にそれこそ、グレイザック様しか」
バルデミアンは師弟を見つめながら口を開いた。
早々に脱落した王子、セラフィリオンは今の光景を信じられない目で見つめていた。
「何なんだ、あの魔法は……」
攻撃魔法自体は知っている。
だが、風刃を風刃で相殺しただと?
「意味が分からん……」
セラフィリオンは呟く。
次元が違いすぎるのか。
魔力量だけで言えば、変わらないはずなのに。
セラフィリオンの杖は、犀だ。
彼女の杖も犀だったはずだ。
金色に光っていた。
なのに、この魔法の扱いは何だ?
あんなことが出来るものなのか?
セラフィリオンは呆然と成り行きを見ていた。




