天馬合戦開始
作戦会議ののち、天馬合戦が始まる。
結局、ジャンドバルトとザファムートは参加することにしたらしい。
赤髪王子のセラフィリオンも参加を決めた。
アラウィリアは、副団長ライムグートを筆頭に騎士団全員が参加と言っても過言ではない。
ウィスナビアもラルシャークも前回の視察の際にリディオノーレにこてんぱんにやられたこともあり、今回こそはと張り切っている。
正直100人ほど相手する形である。
アブストール、グレティアーナ、ムナグレークの3人は思わず顔が引き攣った。
「何だ、この人数は」
アブストールが呟く。
「こんな人数の試合、見たことないぞ」
アブストールは頬がぴくぴくと引き攣る。
「………やるしかないな」
ムナグレークは頭を掻きながら苦い顔で答えた。
「……作戦変更だ」
アブストールは苦い顔で告げる。
「リディ」
これを機にアブストールは彼女のことを愛称で呼ぶことにした。その方が試合中、呼びかけやすいからだ。
「何でしょう?」
リディオノーレはウキウキ感がダダ漏れで尋ねる。
その様子にアブストールは少し引きながら、作戦を告げる。
「この人数は流石に予想していなかった。はじめの内に一気に人数を減らすぞ。大規模な攻撃魔法で半分以上減らしてくれ」
その言葉にリディオノーレは目を輝かせた。
「いいんですか!?強めでも?」
「はじめに減らしておいた方がやりやすいだろう?」
アブストールが告げる。
「分かりました!」
リディオノーレは嬉しそうに答えた。
彼女が言われていた作戦は、グレイザックを牽制することだけである。
この試合のために、かなりの魔法陣の紙を用意している。
リディオノーレは天馬に跨り、何枚も紙を取り出した。
他3人も天馬に跨る。
「容赦しなくていい。必要な物は持ったか?」
アブストールが最終確認する。
その質問に皆が頷く。
審判はアラウィリア領主と王妃である。
互いの準備ができたことを確認する。
今回は逃げる側と追う側に分かれる。夕の鐘が鳴るまで逃げ切れば新郎新婦側の勝利だ。
大体2時間くらいだろうか。
「では、先に新郎新婦側、距離を取れ」
領主の指示で、アブストールとグレティアーナが遠く離れる。
ムナグレークとリディオノーレは少し上空に上がり、杖を構える。
追う側の先頭にはセラフィリオン。
その後ろにグレイザック。その彼の周囲にサムエルとフェルバールとバルデミアン。
護衛騎士の2人は仕方なしの参加に少し嫌そうな顔をしている。
サムエルのまさかの参加にリディオノーレは驚いた。
そして、その近くにジャンドバルトとザファムート、アラウィリア騎士団たちが並ぶ。
「………では、始めっ!!!!!」
領主の号令に追う側が一気に上空へと駆け上がる。
グレイザックとサムエルと騎士の2人だけが、呪文の準備をする。
「トルドゥル!!!!!」
リディオノーレは拡大を組み込んだ雷撃の魔法陣を力一杯放つ。容赦なく。
グレイザック達は予想通りの攻撃が来たのか、慌てることなく盾を展開した。
まさかの雷撃に一斉に皆が怯む。
直撃した何人かが地上に落ちていく。
それを拾い上げる回復班。
天馬に乗ったまま失神した者も何人かいる。
「トルドゥル!!!」
リディオノーレは間髪入れず、もう一度雷撃を落とす。
更にもう一度。
参加者たちが雷に当たらないように散開していく。
散開されると更に拡大しないといけなくなるのでやりにくい。
リディオノーレは術を変える。
グレイザックがやっていた技だ。
「フランヴェロギッタ!!!!」
増幅を組み込んだ炎の矢を敵を散開させないように放つ。
初めて唱えたのだが、上手く行った。
「!!!!!」
雷撃3度に炎の矢。
彼女の攻撃魔法を初めて見る者たちは驚きを隠せない。
そして、怯む。
何だ、この少女は。
ラルシャークやウィスナビア、セラフィリオンの動きが鈍くなる。
殺しに来ているかのような術の連続だ。
グレイザック達は思わず苦笑いである。
皆が驚く理由も怯む訳もよく分かる。
まさか入学前の娘がこんな攻撃を放つとは誰もが思っていないだろう。
怯んだ瞬間がリディオノーレの好機である。
彼女はにやりと笑うともう一度、雷撃を叩き込んだ。
散開してなければ、当てやすい。
「ぐ!!!」
「かはっ!」
次々と落ちていく参加者たち。
死人が出ないよう、回復班が受け止める。
その様子を遠くから見ているアブストールは、グレティアーナと顔を合わせて苦笑いになる。
リディオノーレの少し後ろに控えるムナグレークは、たまに飛んでくる遠距離攻撃を盾で防ぐくらいだ。
彼女の雷撃に怯んでなかなか誰も寄ってこないので、楽なものである。
でも、じりじりと少しずつ近付いてくる。
「ふふんっ」
リディオノーレは思わず笑う。
腰にかけている1つの薬の蓋を開けてばら撒く。
「ヴァンビエ!!!」
リディオノーレの得意の1つである風魔法を放ち、薬の粉末を敵に流す。
見たことがある戦法なのでグレイザック達やアラウィリアの騎士たちは防御する。
「っっ!!!!」
「うっ!」
「……がはっ」
「ん!!」
痺れ薬だ。
リディオノーレは風を巧みに操り、邪魔になる人たちを一気に減らす。
次々と地上に落ちていき、セラフィリオンも痺れ薬にやられて倒れた。
赤髪王子の無様な様子に、グレイザックは「馬鹿王子が」と呟いた。
「グレイザック様!」
サムエルが思わず小声で咎める。
グレイザック達4人から少し離れたところで、ザファムートとジャンドバルトが苦戦していた。
リディオノーレの攻撃が凄すぎて、なかなか近付けない。
アラウィリアの騎士団たちもそれぞれが盾を張っているが、何人かは痺れ薬にやられた者もいる。
ライムグートは、彼女の相変わらずの規格外さに思わず笑いが出てしまった。




