暫しの休憩
昼食は庭にて各領地ごとに座り、談笑しながら摂り、新郎新婦の元に順番に皆が挨拶に向かう。
これもまた上位の者からと決まっており、まずは王族である。
「アブストールと言いましたか。この後の試合、楽しみにしていますよ」
王妃がにこりと微笑んだ。
「ええ。楽しみにしておいて下さいませ。王妃殿下も驚くことと思います」
アブストールも挑戦的に微笑んだ。
「グレティアーナと言いましたか。あなたはアラウィリアの次期領主。大変でしょうが、しっかりつとめなさい」
「勿体無いお言葉、誠にありがとうございます」
グレティアーナは頭を下げた。
赤髪の王子、セラフィリオンとその弟が今度は新郎新婦に話しかける。
そして王族の挨拶が終われば、次はアインズビルの番である。
「この度は誠におめでとうございます。お似合いのお二人ですね」
シャイリーネが微笑みかける。
「ありがとうございます、アインズビル領主夫人」
グレティアーナが微笑みながら答えた。
「領主が留守番のため、代理で来ましたザファムートでございます。以後、お見知り置き下さいませ。アブストール様、グレティアーナ様」
ザファムートも挨拶を交わす。
「ザファムート様は領主様の側近の方ですよね?こちらこそ、よろしくお願い致します」
グレティアーナが答える。
「この後の天馬合戦には参加の予定ですか?」
アブストールがザファムートに尋ねた。
「そうですね……。少し迷っている所なのです。師弟2人の本気を客として見たいのもありますし」
ザファムートの答えにアブストールが苦笑する。
「2人が実際やり合っているのを見たことはないのですが、グレイザック様相手に本当に通用するのか疑問なのです」
ザファムートが続けて言う。
「魔力が豊富なのは知っているのですが、相手はあのグレイザック様ですからね」
ザファムートは皆がここまで警戒する理由がまだ少し信じられないようである。
「座学も実技も首席。天馬合戦では百戦錬磨。騎士たちより武器の扱いと攻撃魔法に優れている、かの有名なグレイザック様ですよ?」
ザファムートが述べる。
その言葉に周囲は苦笑いだ。
グレイザックとリディオノーレだけが少し苦い顔をしている。
「私も信じられません。リディが魔力が豊富なのは認めます。発想も規格外なのも知っています。ですが、グレイザック様は実績を持つお方です」
ジャンドバルトが口を挟んだ。
「お兄様がそう言うのも分かるわ。わたくしの中でもリディは可愛い妹だもの」
シャーリネーヴェも言う。
可愛い妹、という発言にリディオノーレは少し照れる。
そんな彼女を小突くグレイザック。
「………だそうだぞ、グレイザック」
アブストールは義兄家族の挨拶が終わるまで静かに待っているグレイザックに声をかけた。
「だそうだぞ、リディ」
グレイザックはそのまんま隣のリディオノーレに声をかける。
リディオノーレは少し頬を膨らませた。
「皆さんの記憶に残るよう、頑張ります」
その言葉に不安を覚えたのが数人。
「リディオノーレ様、昼食を摂りましたら作戦会議をしますので、後ほどまたこちらにお願いします」
アブストールは彼女に声をかける。
「はい」
「お兄様もよろしくお願いしますね」
グレティアーナはムナグレークに話しかける。
「ああ」
ムナグレークは頷いた。
そして、アインズビル一行はまた自分たちの机へと下がる。
その次に身内のアラウィリアが改めて挨拶へと向かう。
そののち、ウィスナビアとラルシャークが順番に挨拶に行き、他にもアラウィリアと懇意にしている商人の方や一般の人たちも次々と訪れていた。
「グレイザック様、お酒引っ掛けますか?」
リディオノーレが食事にありつきながら、右隣にいるグレイザックに話しかける。
「それは何だ。少しでも酔わそうという作戦か?」
グレイザックが唇の端を上げて尋ねる。
「……何でバレるんですか」
リディオノーレは唇を尖らせる。
「それは流石にバレますよ」
グレイザックの右隣にいるサムエルがくすりと笑いながら口を挟んだ。
グレイザックはため息をつくと、「杖を見せてみろ」と言う。
リディオノーレは大人しく杖を渡すと、グレイザックは検分してから返却した。
「この試合で割れるかもな」
2年くらい保っただろうか。
象の魔石1つじゃ、そろそろ限界だろう。
「じゃあ割れる前に全力でいきますね」
リディオノーレは唇の端を上げた。
「いくらでも来い。恐らくお前と本気でやり合えるのは今しかないだろう。全力で来い」
グレイザックはにやりと笑った。
「それでは、学院に入学していればもっと術を知っていたかもしれませんね。惜しい」
ジャンドバルトが呟く。
その言葉にサムエルとムナグレークが苦笑した。
彼女の知識量は、学院で習うものを今ですら既に超えているし、学院の予習はもう終わっているのだ。
それを知らないジャンドバルトは惜しい、と口にしたのだ。
「ですよね。学院の図書室で本を漁れたら良かったのですが」
リディオノーレは悔しそうな顔をする。
そんな彼女の言葉にサムエルとムナグレークが顔を見合わせ、フェルバールとバルデミアンも顔を見合わせる。
彼女自身が分かっていないだけで、彼女の発想や策は想定外のものが多く、魔力操作もグレイザックに準ずるほどであり、攻撃魔法の威力は元々魔力が高いのと術に増幅などを組み込む為、騎士団長以上である。
比較する人物がグレイザックだから、まだまだだと思うだけで、今の時点で既に彼女に敵う者はグレイザックくらいしかいないだろうと思う。
先程顔を見合わせた4人は生温かい視線をリディオノーレに向ける。
「リディ」
グレイザックが名を呼ぶ。
「何ですか」
リディオノーレはまだ少し悔しそうな顔をしている。
「お前が分かってないだけで、お前は俺の弟子に相応しい魔力と知識を持っている。だから、今のままでも何処に行っても通用する。心配しなくても大丈夫だ」
グレイザックが少し微笑みながら声をかけた。
彼が微笑みを見せるなんて青天の霹靂だろうか。
全員が驚く。
リディオノーレだけ、少し照れくさそうにしながら微笑み返した。




