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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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壇上での対話




アラウィリア領主が新郎新婦に向かって、互いを守れるのか、何があっても互いを支えていけるのか、などを尋ねる。


拡声の魔法で大きくなった領主の声が響き渡る。


「大丈夫です」

お互いが真剣な顔で答えると、「では誓いを行う」と領主が告げる。


その声で全員が杖を抜き、上へ向ける。


「我、精霊王に誓う」

進行役の領主も杖を上に向け、言葉を紡ぐ。

「我、精霊王に誓う」

領主の言葉のあとに、新郎新婦と付き添い人が復唱する。

その後に参列者が同じ言葉を言う。


すると、空気が澄み渡る。

皆の呼びかけに応えるかのように、空気が変わる。

その空気の変わり様にリディオノーレは少し目を瞬いた。


そして、周囲がチカチカしてきているのは気のせいだろうか。そこまで目立つほどではないが、たまにチカチカが視界に入り、気になって思わずそちらに視線を向けてしまうリディオノーレ。


その視線と同じ方向を向いているグレイザック。

彼は見えている。

精霊が集まってきているのを。


リディオノーレの視線もそちらに向いているのを、グレイザックは気付いている。

(あれだけ集まれば、光が見えるわな)

グレイザックは内心、息を吐く。

仕方がない。


その間も誓いの言葉は続く。

精霊王にこの結婚を祝ってもらうため、皆が魔力を捧げる。

杖から魔石に応じた色んな光が飛び出す。


全員が精霊王へと魔力を捧げ終えると、王妃が立ち上がり杖を向ける。

「汝らに精霊王の祝福があらんことを」

その王妃の言葉のあとに新郎新婦以外の者が、「祝福があらんことを」と復唱し、新郎新婦に祝福の光を捧げる。


「………きれい」

リディオノーレは呟いた。

皆が出した光が新郎新婦に降り注ぐ。

色んな色が混じり合い、虹色だ。

チカチカと眩しいのは続いているが、我慢できる程度だ。


光が止むと、領主が式を進める。

そして、互いの色を模した装飾品の交換を行う。

それが終われば、領主が徐に口を開いた。


「昼食ののち天馬合戦と相成りますが、腕に自信がある者だけの参加をお願い致します。少し規格外な魔力の持ち主が今回の式に参加しておりますので、自分の身は自分で守れることを条件に参加をお願い致します」


その条件に、参加者全員が一斉にざわめく。


「どういうことだ、アラウィリア領主。前代未聞ではないか」

王子の1人が声を上げる。

歳はグレイザックやアブストール達より少し上くらいだろうか。

赤くて長い髪を首の後ろでくくっている。

もう1人の王子は、歳が大分離れている。1桁だろう。


「どのような試合になると思っているのだ」

その王子が顔をしかめながら領主を咎めるように拡声の魔法で話す。

「こちらの付き添い人とその師匠が少々規格外ですので、被害が甚大になる恐れがあります」

領主が苦笑しながらリディオノーレを一瞥して答えた。


「殿下も参加はよく考えた上でお願い致します。私は自分の身を守るのに精一杯になりますから」

「………領主が?」

赤髪王子が怪訝な顔をする。

「そうです。ですので、熟慮した上で結論をお願い致します」

領主はそれだけ言って数歩下がった。

そこで拡声魔法を解く。


この領主の発言にまたざわめきが起こる。


「………」

王子はほぼ金色に見える衣装のリディオノーレに視線を向ける。

リディオノーレはゆっくりと跪いた。

王子も拡声魔法を解き、口を開いた。


「リディルレーネ・リンド・カルムクライン」

赤髪王子が彼女の名を呼んだ。

その一瞬で、彼女の雰囲気が変わった。

しかも、カルムクラインと呼んだ。


舞台下では、壇上で彼らが何の話をしているのか拡声魔法でなければ、何も聞こえない。

だが、グレイザックは王子の発言だけは読唇できる。

グレイザックに背を向けているリディオノーレの発言は読めないが。



「………やばい」

グレイザックが呟く。

魔力が少し漏れている。


「何が起こっているのですか」

サムエルがこそりと尋ねる。

「………あの王子が、前の名前を呼びやがった」

グレイザックの答えにサムエルが息を呑む。

フェルバールも驚く。


前の名前で呼ばれることが好きではないのを知っているグレイザック達は成り行きを見守る。


(ふざけるなよ)

グレイザックの纏う空気も少し変わる。

近くに控えるサムエルとフェルバールが目を見張った。

魔力漏れはしていないが、空気が一段と冷え込む。

傍に控えるサムエルとフェルバールは鳥肌が立つのを感じた。



「………何でしょうか、殿下」

リディオノーレは低頭したまま尋ねた。

思っているより冷たい声音が出て、自分でびっくりした。


「まだ学院に入学していないのだろう?なのにアラウィリア領主が恐れるほどの魔法を知っているのか」

赤髪王子は鋭く尋ねる。

リディオノーレは顔を上げない。

顔を見てしまうと殴りかかってしまいそうだ。


「………学院の予習は上級生まで済ませております」

リディオノーレは答えた。


「ほぉ。だが、それで領主が恐れるほどなのか」

アラウィリア領主の腕前がそれほど落ちているのか、と暗に告げている言葉だった。


その言葉を読唇できたグレイザックは、唇の端を上げた。

あの領主を煽るとは。


当の領主は少し手がぴくりと動いただけで、流石に表情には見せなかった。

リディオノーレはそこで初めて顔を上げた。


「私と師匠が規格外なのでございます。それで、ここはご容赦下さい」

彼女はまっすぐ見つめて言い放つ。

彼女はアラウィリア領主と然程仲が良いというわけではないが、別に嫌いでもない。

好きでもないが、お世話にはなっている。


そして、アラウィリア領主が弱くないことも知っている。

一戦を交えたことはないが、グレイザックが敬意を払うくらいなのだから弱いわけではないはずだ。

それに、アラウィリア騎士団の腕は国一番だと聞いている。

そこの領主が弱いわけがない。


「………」

赤髪王子はまっすぐ彼女を見つめ返す。

そのまま少し魔力の威圧をおこなった。

威圧をしているのが遠目でも分かったグレイザックは「馬鹿か」と呟いた。

誰に威圧をしている。



軽い威圧を感じ、リディオノーレも魔力の威圧を仕返した。

相手が威圧をするのだから、こちらだってする。

やられないと思ったら大間違いだ。

赤髪王子は少し驚き、威圧の魔力を強める。


だが、リディオノーレがそれで怖気づくわけがない。

全力を叩きこまないよう、同程度より少し上くらいの威圧を返す。

彼女の魔力の威圧の余波をもろに受けたのが、舞台上にいる面々である。

ムナグレークが慌ててリディオノーレの衣装を掴み、引っ張った。

このままでは良くない。


アブストールがグレティアーナを庇うように位置取る。


「……っ」

王子は思わずたたらを踏んだ。

その王子の様子にサムエルとフェルバールはグレイザックを見る。

そんなグレイザックは、嘲った笑みをしていた。

自業自得だとでも思っているのだろう。



アラウィリア領主はリディオノーレが不敬で罰せられないよう、彼女と王子の間に少し体を入れた。

おかげで、彼女の威圧をもろに受けるのだが。

その領主の行動にグレイザックは感心した。


「く……っ」

領主は小さい声で呻く。

思っていたより、彼女の魔力が強い。


「リディ」

グレティアーナが静かに彼女の名を呼んだ。

「その怒り、全て天馬合戦においておきなさい」

グレティアーナの言葉にリディオノーレは唇を引き結ぶ。

あっちが先に仕掛けてきたのに?と顔が訴えている。


「リディ、あなたの実力を見せつけるためにここに呼んだのよ。後で思う存分やればいいわ」

グレティアーナの諭すような優しい声音にリディオノーレは落ち着いた。

少しずつ威圧を弱める。

威圧がなくなった瞬間、皆の顔が安堵に包まれたのが分かった。



何事もなく解決した様子を見て、グレイザックはまた感心する。

「……終わったようですね」

フェルバールが思わず呟いた。

「ああ。グレティアーナのおかげだな」

グレイザックは答える。

やはり、同性の者の意見は素直に聞く傾向がある。




「……っ」

壇上の王子は悔しそうに唇を引き結んだ。

そして何かを発する前に、間に入っている領主が先に口を開いた。


「殿下、お分かりになったのでは?ここで喚くのは得策ではありません」

領主が諭す。

「………セラフィリオン。下がりなさい」

王妃が静かに口を開いた。


赤髪王子、セラフィリオンは悔しそうな顔をして引き下がった。


「アラウィリア領主。そこの生き残りの魔力が多いのは分かりました。ですが、この参加者の人数相手に敵うようなものなのですか」

王妃が尋ねる。

「敵います」

領主は断言した。

まさかの断言に、壇上にいるリディオノーレだけが驚いた。

他の皆は軽く頷く。


「実際に戦ったことはあるのですか」

「私はございませんが、騎士団が悉く負けております。奇想天外な策を弄するため、予測がつきません。ですが、この才能は埋もれさせてはなりません。彼女の策は、最終的にこの国の底上げに尽力できるかと」


「………大きく出ましたね」

王妃は扇を手の平に打ちつけながら、領主とリディオノーレを見た。

「………名は、何と言う」

王妃はリディオノーレを見つめて問うた。


「リディオノーレ、でございます」

「リディオノーレ……。覚えておきましょう」

王妃はにこりと微笑んだ。

「恐悦至極に存じます」

リディオノーレは低頭した。


王妃は自身に拡声魔法をかけると、ゆっくりと立ち上がり、参加者に向かって語り始めた。


「この度の試合、前代未聞の被害が出ると予想されましょう。皆、熟慮した上での参加を。無様な試合は許しません」


王妃の言葉に少しざわめきが起こる。

この結婚式の後の天馬合戦、大体はおふざけでからかうような試合になることが多い。

本気の試合ということだろうか。

一体何があるというのか。


でもこれで、被害が最小限に抑えられただろう。


リディオノーレとグレイザックは安堵した。




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