結婚式の始まり
全員が準備できると、新郎新婦と付き添い人、そして護衛以外は控室へと下がった。
「お久しぶりです、グレイザック様」
シャイリーネ達も到着し、シャーリネーヴェが声をかける。
そして、彼の衣装を見て、少し顔を引き攣らせた。
「久しぶりだな」
グレイザックは答える。
「その衣装、かなりリディの色が入ってますね……」
シャーリネーヴェの口端がぴくぴくしている。
「思い切ったわね……」
シャイリーネも少し呆れたように言う。
「………そういう仲なのですか」
ジャンドバルトも静かに口を開いた。
「そんなわけがなかろう」
グレイザックは嫌そうに顔をしかめる。
「ですが、その衣装は完全にそういうことだと仰っているようなものですが……」
領主代理として来ているザファムートも意見を述べる。
「どう思われようが別に良い」
グレイザックはそう吐き捨てる。
「……リディの衣装を見る方が驚くと思います」
ムナグレークがぼそりと呟いた。
その呟きは、グレイザックの咳払いに掻き消された。
「では、義姉上、王族が到着されるまで他領へ挨拶に行きましょうか」
グレイザックはシャイリーネをエスコートする。
「リディは良いの?」
「大丈夫でしょう。今は、何の術をかけようか必死に考えている所だと思います」
グレイザックが苦笑いで答える。
「それにバルデミアンもいるので大丈夫です」
「………そういうことを言っているのではないのだけど」
シャイリーネが苦笑いになる。
付き添い人という大役にリディオノーレが怖気づいていないか、緊張していないか尋ねているのだが。
「グレイザックが心配していないのならいいわ」
シャイリーネはそう答え、グレイザックの手を取る。
彼らを筆頭にザファムートとシャーリネーヴェとジャンドバルトが後ろにつく。
そして最後にサムエルとフェルバールだ。
アラウィリア領主の所へ行き、この度の結婚に対しての祝福を述べるシャイリーネとザファムート。
その次にジャンドバルトとシャーリネーヴェがぎこちなく挨拶を交わす。
「お前の弟子は大丈夫なんだろうな」
アラウィリア領主がグレイザックに眉を上げながら尋ねる。
「何の心配でしょうか」
「誓いのあとの天馬合戦だ。人殺しは勘弁だぞ」
「一応、自分の身は自分でお守り下さい」
グレイザックがにこりと答えた。
「王族も来るんだぞ」
「だからこそ、記憶に残る良い式にしましょう」
グレイザックが唇の端を上げた。
領主は思わずため息をつく。
「女、子どもに被害がないように頼むぞ」
「でしたら、腕に覚えがある者だけの参加にして下さい」
グレイザックは言い返す。
その言葉に領主は顔を歪めた。
「前代未聞だろう」
「お任せ致します」
グレイザックは堂々と言い返す。
「………はぁ」
領主は長い息を吐く。
予測がつかないからこそ、怖いのだ。
「分かった。こちらでどうにかする」
領主は苦い顔で答えた。
「………一体、どうなると思っているのですか」
シャーリネーヴェはこそっと兄に尋ねる。
ジャンドバルトは顔をしかめた。
リディオノーレの魔力操作がえげつないのは知っているが、どこまで魔法を知っているかまでは詳しく知らない。
ジャンドバルトは無言でサムエルの方を向いた。
1番詳しいのはサムエルとフェルバールだろう。
「………そうですね。皆様はご自分の身を守ることに集中して下さい。私も、私の身を守るので精一杯になりますので」
サムエルはにこりと微笑んだ。
「私も自分の身を守るのに精一杯になると思います。盾をずっと展開する形になるでしょう」
フェルバールもにこりと微笑んだ。
他者まで気を配れるか微妙な所である。
リディオノーレの攻撃をどれだけグレイザックが凌ぐかによって変わってくるのだ。
衝撃波や術の余波までをグレイザックが庇ってくれるとは思わない。
リディオノーレの本気がどこまでなのか、サムエルもフェルバールも未知数である。
この2人が防戦一方になるとは、シャーリネーヴェは参加しない方が良さそうな気がしてきた。
「では、頼んだぞ、グレイザック」
領主は締めくくり、他の客の対応に向かう。
アインズビル一行も、王族が到着するまで他領へ挨拶まわりをする。
基本はアインズビルの元に他領が来てくれるのだが。
ラルシャーク領にウィスナビア領が来て、リディオノーレの天馬合戦を楽しみにしていると述べていく。
それほど期待されている腕に、シャーリネーヴェとジャンドバルトはとても驚く。
シャイリーネとザファムートも実際見たことがないので、挨拶に来る者全員がそう述べていく状況に驚いていた。
ラルシャークとウィスナビアは騎士団長まで来ていて、その2人がとても楽しみにしている状況に更に驚いたのだ。
「リディオノーレは一体どんな試合を繰り広げてきたのでしょうか……」
シャイリーネは思わず呟いた。
その呟きに苦笑いでしか返せないサムエルとフェルバールだった。
昼の鐘が鳴る少し前、王族が到着した。
今回の見届け役は、王妃と王子2人である。
到着した瞬間、全員がその場に跪く。
1番前にはアラウィリア領主夫妻が跪き、礼を述べた。
王妃が代表して答え、そして、昼の鐘が鳴り響いた。
王族は壇上にある豪華な誂えの椅子に座る。
そして、進行役のアラウィリア領主が中央に。
楽師の音に合わせ、舞台向かって右側からアブストールとムナグレークが。
左側からグレティアーナとリディオノーレが入場してきた。
そして、登場したリディオノーレの衣装を見てあらゆる人が息を呑んだ。
正直、新郎新婦よりリディオノーレの衣装に目がいく。
「……ちょっと、あれは……」
シャーリネーヴェが思わず声を漏らす。
「何だ、あれは」
ジャンドバルトも思わず呟く。
「グレイザック、いくら何でもあれは……」
シャイリーネも苦言を呈す。
「………やりすぎでは……」
ザファムートも思わず言う。
グレイザックとリディオノーレを実際見たことがある者たちは、思わずグレイザックを見る。
あれは金色ではないか、と。
金色はグレイザックの色ではないのか、と。
多数の視線に晒されるグレイザックだが、何も気にすることなく、にこりと微笑んだ。
これは後が怖い。
質問攻めに遭いそうだ。
サムエルとフェルバールは少し苦い顔で周囲の視線に微笑み返した。
そうして、結婚式が始まった。




