グレイザックとアブストールの約束
「もう一度問う。お前がやらないといけないことなのか」
アブストールが尋ねる。
「逆にお前が出来るのか?俺なら出来る」
グレイザックはそう答え、そして続ける。
「誰かが出来るのであれば、俺は手を出さん」
「………お前である必要はないだろうが」
アブストールは息を吐く。
「それより、だ。お前はあの娘の元から離れるつもりなのか」
何も語らないグレイザックだが、旧知の仲だけあって何かを察しているアブストール。
「そして、あの娘をどこかにやるつもりなのか」
「出来るだけ、アインズビルで囲っておくつもりだ。勝手に出て行ったら知らんがな」
その答えにアブストールはサムエルとムナグレークを見つめる。
グレイザックの見据える先は、流石に読み取れない。
側近である2人から何か情報を探ろうとする。
サムエルとムナグレークは静かに首を振った。
「………分かった。何かあれば言えよ。一応お前の友人だからな」
アブストールのその言葉にグレイザックは思わず鼻で笑った。
「知っている」
グレイザックはそう答えた。
その答えにアブストールが驚く。
「分かっているなら何よりだ。実際、お前はあの娘のことをどう思ってるんだ?」
アブストールはからりと笑い、突っ込んで尋ねてみた。
その答えには興味があるのか、サムエルとムナグレークが少し身を乗り出す。
「……」
3人からの圧に、グレイザックは顔を歪めた。
「何なんだ、お前たちは」
「いいから、本音を言ってみろ」
アブストールが促す。
「将来有望な愛弟子だ」
「そうじゃなくて」
アブストールがすぐさま突っ込む。
「可愛いだろう?」
「……見た目のことか?外見は普通だろう?」
「すっとぼけるな」
アブストールはまた突っ込む。
「じゃあ、逆に聞く。グレティアーナ様の好きな所を言ってみろ」
グレイザックが仕返す。
その質問にムナグレークがアブストールを見つめる。
「……ぐっ。そりゃ、まず美人だろう」
アブストールが耳を赤くしながら答える。
「当たり前だ。その次は?」
ムナグレークが問う。
「優しい。誰にでも」
「当たり前だ。他は?」
ムナグレークが手厳しい。
「優しくておっとりしてるかと思いきや、しっかりと芯を持っている」
その言葉にムナグレークがうんうんと頷く。
「だから、俺の話はいいから、グレイザックの話を聞かせてくれ。お前は彼女のことをどう思ってるんだ」
アブストールは耳が赤いままグレイザックに話を戻す。
「あいつが成人し、互いに相手がいなければ良いが、その時には俺はここにいないだろう」
グレイザックはそう答えた。
「!!!」
アブストールは思わず腰を浮かす。
どういうことだ、それは。
「俺は、俺の身内を害する者を絶対に許さない」
グレイザックは怖い顔で答えた。
「待て!何をするつもりなんだ」
アブストールが慌てる。
彼の慌てぶりにグレイザックは嘲笑する。
「俺の身内を害した者にはそれ相応の報いを」
グレイザックは嘲った笑みを見せた。
「……聞きたいんだが、お前の身内とは誰だ」
血のつながりで言えばアインズビル領主家族だが、恐らく違うのだろう。
「俺の身内はここにいるサムエル、グレーク、義兄のライリルムント。そして、リディだ」
「領主夫人や姪は入ってないのか」
アブストールはため息をつく。
「勿論だ。他所から来た者だからな」
「まさかムナグレークも入っているとは」
アブストールが目を丸くする。
「当たり前だろう。俺が連れて来たんだから。リディも師匠と仰いでいる」
ムナグレークはその言葉に破顔した。
「リディは身内認定なんだな。となると、彼女の存在はお前の中でかなり大きいのではないか?彼女自身からしてもお前の存在はかなり大きいと思うのだが」
その言葉にサムエルがこくりと頷く。
「お前がもし離れるとなったとき、絶対についていくと言うぞ」
アブストールが忠告する。
あの娘は絶対そうだ。何が何でもついていきそうだ。
「そうならんようにお前も引き止めてくれよ」
そのグレイザックの言葉にアブストールが顔を歪めた。
「俺が引き止めろと?無茶言うな。お前がきちんと納得させた上で行けよ。だって、今ここにいる奴は皆お前についていくだろう?誰があの子を止められる?それならあの護衛騎士2人に頼め」
アブストールはグレイザックを睨む。
「あいつらだけでは無理だ。剣の腕は優秀でも魔法が全然だろう。リディに杖を持たせたらあいつらだけでは止められん。お前ら夫婦も加勢して全力で止めてやってくれ」
「………一体、お前は何をするつもりなんだ」
アブストールがますます顔を歪めながら呟いた。
「お前はリディを死ぬ気で止めろ。もし、あいつが壊れることがあれば助けてやってくれ。約束してくれるか」
「………大役だな」
アブストールは息を吐く。
「よろしく頼む」
「……お前が頼みごとをするとはな」
アブストールは長い息を吐くと「了承した」と一言発した。
「お前がいなくなる時のリディの面倒を見ればいいんだな。グレティアーナにも伝えておく。その代わり、明日の式当日は頼むぞ」
「ああ、任せておけ。盛大に祝ってやる」
グレイザックはにやりと笑った。
そして、翌朝。
早朝にグレイザックに叩き起こされたリディオノーレ。
「……眠すぎます……」
リディオノーレは目をこする。
「いいから、早く用意しろ。迎えが来るぞ。衣装と靴だけ持って行け。装飾品が俺が後から持って行く。髪の毛は俺がするから待ってろ」
リディオノーレは座っているが、うつらうつらしている。
グレイザックは呆れて、額を弾くとこう告げた。
「俺とやり合うんだろう。楽しみにしてるからな」
「!!!」
リディオノーレは一気に覚醒する。
目を少し瞬くと杖を抜いて、彼に向けた。
「ぎゃふんと言わせますからね」
「言わせてみせろ」
師弟2人はにやりと笑った。
リディオノーレは迎えに来た側近と共に護衛としてバルデミアンを連れて、グレティアーナの部屋へと向かったのだった。




