先にアラウィリアへ
グレティアーナの式まで、リディオノーレはひたすらグレイザックの資料を読み漁って知識を詰め込み、フェルバールやバルデミアンと共に訓練も頑張る。
部屋の中では、魔力操作の練習をグレイザックに監督してもらいながら励む日々を送っていた。
そして、付き添い人の仕事があるため、リディオノーレとムナグレーク、グレイザックにサムエルと護衛騎士の2人は式の前日にアラウィリアへと向かう。
当日にはシャイリーネ、ザファムート、ジャンドバルト、シャーリネーヴェも訪れる。
アラウィリアに到着した瞬間、駆け出して行こうとしたリディオノーレをフェルバールとバルデミアンが慌てて止める。
「先に領主様に挨拶しないといけませんよ」
フェルバールに小声で咎められ、リディオノーレは唇を尖らせる。
彼女は大人しく数歩下がり、その代わりグレイザックが前に出る。
その時にグレイザックから少し睨まれたリディオノーレである。
「この度は誠におめでとうございます。グレティアーナ様とアブストール様のご多幸を祈り、アラウィリアのますますの繁栄を願っております。少しばかりですが、これらを祝いの印としてお納め下さい」
グレイザックがそう言って指示を出す。
領主の側近がサムエルから天馬車ひとつ分の土産の説明を受ける。
「礼を言う、グレイザック。そして、リディオノーレ。緊張するだろうが、付き添い人頼んだ。ムナグレークも励め」
領主はそれだけ言うとお決まりのように手をひらひらさせて城内へと入って行った。
「この度はおめでとうございます。グレティアーナ様」
グレイザックはグレティアーナへと視線を移し、祝福の言葉を述べる。
「ありがとうございます。グレイザック様」
グレティアーナが微笑む。
「アブストールも、祝福する」
グレイザックが言う。
「おい、言い方が全然違うじゃないか。それ祝福している顔なのか」
アブストールが苦笑しながら突っ込む。
「うるさい」
「今度はお前の結婚だな。楽しみにしている」
アブストールがそんなことを言うものだから、グレイザックがますます嫌な顔になる。
「俺が結婚できると思うのか」
グレイザックが苦い顔で話す。
「出来るだろう。リディオノーレ様、どう思われます?」
アブストールがリディオノーレに話しかける。
「え?出来ますよ。ね?グレイザック様」
リディオノーレがグレイザックの顔を覗き込む。
そんな2人の様子を見て、アブストールが目を瞬く。
「この国でグレイザックの相手ができるのは君だけだ」
アブストールが思わず口走った。
「ん???え?相手は私ですか!?そういう意味で私に話しかけたんですか!?」
リディオノーレが目を瞬く。
「そうだ。だって魔力が釣り合うのはあなたくらいしか思いつかない」
アブストールの言葉にリディオノーレはグレイザックを見る。
グレイザックはアブストールを睨みつけている。
「その話は良いか……。グレイザックが怖い。さあ、案内しよう」
アブストールは話題をそそくさと変えると城内へ案内した。
「こちらへいらして」
グレティアーナの部屋に向かうのはリディオノーレと護衛の2人。
護衛は部屋の隅に控えて立つ。
アブストールの部屋へは、その他の3人が向かう。
「付き添い人の件、グレイザック様から許可をもぎ取ってきてくれてありがとう」
「付き添い人ほど目立つ方が逆に襲われないだろう、という判断らしいです」
リディオノーレは苦笑いで答えた。
「あ、私が襲われてもティア様のことはきちんと守りきるので大丈夫ですからね」
リディオノーレは慌てて付け加える。
「………危ないときは逃げるのよ?」
グレティアーナは真剣な顔で告げる。
「大丈夫です。明日の衣装には防御魔法がたくさんかけられていますから問題ないですよ」
リディオノーレはにこりと安心させるように微笑む。
「それはグレイザック様が?」
「そうです。私は練習がてら、グレイザック様の衣装に防御魔法をかけてみました」
互いが互いの物に魔法をかけるとはそれはもう相思相愛なのではないだろうか、と思わずグレティアーナは言いそうになったが、ぐ、と堪えて、違う答えを返す。
「……グレイザック様は過保護ですね」
「そうなんです」
リディオノーレは苦笑いで答える。
「明日のリディの衣装が楽しみね。明日は朝早くに迎えを寄越すから、いつもよりは早めに起きて待っててちょうだいね」
「え、私も?ですか?」
「あなた、女性の側近がいないでしょう?お肌や髪のお手入れをしないと」
「もしかして、朝から湯浴みさせられるやつですか……?」
「そうよ」
リディオノーレは一瞬嫌そうな顔をしそうになったが、ならないよう努力した。
「……苦手なのね?」
グレティアーナはくす、と笑う。
「……はい。日頃、自分でやってるものですから」
「それでも綺麗にした方がいいわ。グレイザック様とやり合うのだから、バッチリきめておかないと」
「やります」
とても食い気味にリディオノーレは答えた。
その返答にグレティアーナはくすくすと笑う。
とても単純で分かりやすい。
「では、明日の流れを説明するわね」
「アブストール、あそこへは潜入させたままか?」
グレイザックがお茶を飲みながら尋ねた。
「ああ」
「進展は?」
「今国務を仕切っているのが、王女と王子らしいとの噂だ」
その言葉にムナグレークとサムエルが息を呑んだ。
グレイザックは夜市で既に聞いているため、驚かない。
「……知っていたのか。相変わらずだな」
アブストールは息を吐く。
「ロームリュートはどうしている」
「ロームリュート?」
アブストールは思わず聞き返す。
「次期宰相と言われる頭脳の奴だ。父親が現宰相で、その後を継ぐのがそいつだと言われている」
「………2週間だけ、学院に留学してきた方では?」
サムエルが口を開く。
「ロームリュート……」
ムナグレークとアブストールが記憶を辿る。
結局アブストールは思い出さず、ムナグレークは朧気ながら顔を思い出した。
「あの時既に成人していたはずだ。あいつと連絡取れたらいいのだが」
「仲良かったのか?」
まさかお前が?とは言わなかったアブストールだが、顔に出ていたらしい。
ギロリとグレイザックに睨まれ、アブストールは肩をすくめた。
「難しいだろうな。現宰相の息子なんだろう?ということは、王宮勤めの可能性が高い。王宮関係は情報が入りづらい」
アブストールは顔をしかめた。
「だろうな。まあ良い。その名前だけ覚えておいてくれ」
グレイザックはお茶を一杯飲み干す。
「………お前、そのお茶気に入ってるな」
アブストールが目を丸くしながら言う。
「あの娘が好きなだけだと思っていたが」
「うるさい。第一、お前が学院時代からこうやってお茶を淹れてくれれば、このお茶が美味しいことを早く知れただろうに」
グレイザックが責める。
「俺と俺の側近がそんな気配りできるわけないだろう。それにサムエルがさっさといつもお茶淹れてたろ」
アブストールが言い返す。
「それはお前の側近が脳筋だからだろう。お前と会えば、いつも天馬合戦の話ししかしてこなかっただろうが」
「本当にな」
ムナグレークも同意する。
アブストールは少し膨れっ面をして、お茶を一気に飲み干した。
「お前、明日はそこまで張り切るなよ?ほどほどに頼むぞ」
「それはあいつ次第だ。あいつの放つ術によって、対応が変わる」
「頼むから死人を出すなよ。お前ら規格外なんだから」
「あいつと一緒にするな」
グレイザックは顔をしかめて言う。
「お前が教えた弟子なんだから、お前がきちんと責任取れよ」
「………分かってる。あいつの相手をできるのは俺くらいだろう」
グレイザックは息を吐きながら頬杖をつく。
「王族に目をつけられるほどだろう?大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。明日の衣装を見れば分かる」
グレイザックの答えに、サムエルが苦笑しながら口を挟んだ。
「あんな衣装を着ているリディに誰も手を出しませんよ。手を出すのは、グレイザック様のことを知らない方だけですね」
「なるほど。この国で、グレイザックを知らない奴はいないだろうしな」
アブストールは納得する。
「明日の衣装が楽しみだ」
にやりと笑うアブストール。
「で、お前は実のところどうなんだ」
アブストールが質問する。
「どういう意味だ」
グレイザックは片眉を上げる。
「リディオノーレ様とだ」
アブストールは答える。
「???一体、何の話だ?」
臆することなく私的な質問をするアブストールに、ムナグレークは顔をしかめた。
「さっきも言ったが、お前と釣り合う魔力を持っているのはあの娘だけだろう」
「………ああ。明日の衣装で分かるだろう。誰の弟子に手を出したか」
グレイザックはそう答えた。
「……そういう意味じゃないんだが」
アブストールが眉間に皺を寄せた。
わざとそう答えているんだろうが、アブストールは単刀直入に尋ねることにした。
「お前は、あの娘とどうにかなる気はないのか」
数拍無言ののち、グレイザックは答える。
「無理だな。俺はやることがある」
「やることって何だ。それはお前がやらないといけないことなのか」
その質問にムナグレークは思わず感心した。




