届いた衣装
魔獣狩りから約1ヶ月。
依頼していた衣装が届いた。
グレイザックはそれぞれの衣装を彼の自室に運んでもらい、視認する。
「リディ、ゲリルを」
グレイザックに命じられ、ゲリルの根の粉末を渡す。
衣装全体に毒が付着していないか確認する。
流石の徹底ぶりである。
毒がないことを確認すると、グレイザックは洗浄魔法をかけて綺麗にする。
「では次に魔法陣を付与する。お前も手伝え」
グレイザックはリディオノーレにも命じる。
「何の魔法陣ですか」
「防御系だ。念の為」
「………それ、結婚式の試合のとき有利すぎませんか?いいんですか?」
「何でもありだからな。お前は俺の衣装の内側に魔法陣を描いておいてくれ。重ね掛けでも何でも不細工でもいい。お前の魔法陣の精度を確認したい」
「そう言われたら、腕が鳴りますね」
リディオノーレはにやりとする。
思わず腕まくりをしてしまう。
「………で、グレイザック様の衣装ってこれですか」
衣装決めのとき見ていなかったのでどんなやつか知らなかったのだが、これは完全にリディオノーレの色ではないだろうか。
くすぐったい気持ちに思わずなる。
「これはまた……」
サムエルも見て、思わず呟く。
黒のロングコートの内側が全面赤紫で、袖の折り返し部分も赤紫である。
その袖の折り返し部分と襟には、花の茎のような刺繍が金色で施してある。
中に着るベストも赤紫で、全体的に見ると黒と赤紫を基調にした衣装になっていた。
「リディ、あなたの衣装も見て下さい」
サムエルが指を差す。
「??」
自分の衣装は何か知っているので見る必要はないかと思うのだが、リディオノーレはそちらに視線をやる。
白を基調にした衣装で、後ろの腰部分には大きい黒いリボンがついている。
前方の裾の長さが膝の少し上くらいで短く、後方は足首まであり、動きやすさを考慮した結果こうなったらしい。
「見る方向を少し変えてみて下さい。光の当たり方によって色が変わります」
サムエルに言われ、彼女は見る位置を変えた。
「!!!」
驚いて目を見張り、一回目をこする。
再度見てみるが、金色である。
「え、金色?白ではなく?」
「元は白です。でも金色の素材も重ねているのか、光の当たり方によって全面金色ですね」
サムエルが苦笑する。
なんて衣装だ。
これはリディオノーレはグレイザックの所有物だと全面的に言っているようなものである。
これで恋慕していないつもりなのだろうか。
完全に独占欲の塊の衣装ではなかろうか。
サムエルは内心で呆れ果てる。
だが、リディオノーレがそんなことを思っているはずもなく、「どうやってつくってるんでしょう。すごい技術ですね」などと呑気に呟いている。
サムエルは式の当日を思い浮かべる。
これはすごい噂になりそうだ。
恐らく分かってやっているだけにタチが悪い。
「リディ、早くしろ」
グレイザックに声をかけられ、リディオノーレは慌てて魔法陣を描く。
グレイザックは彼女の衣装の内側に、リディオノーレも彼の衣装の内側に防御の魔法陣を描く。
リディオノーレは背中があたるところに魔法防御の陣を描く。グレイザックはいとも容易くやっているが、彼女にしたらそこそこ難しいものだ。
複雑なので思い出しながらゆっくりと描く。
その隣に物理防御の陣も描いていく。
彼女がグレイザックの衣装に陣を描いている間に、彼はムナグレークの衣装にも魔法陣を描き始めていた。サムエルの衣装にも手をつけ、あっという間に終わらせてしまう。
「……流石ですね」
リディオノーレは感嘆する。
相変わらず、グレイザックは規格外である。
「お前の腕輪見せてみろ」
グレイザックに言われ、リディオノーレは彼に貰った腕輪を見せた。
「アラウィリアでの天馬合戦で防御したから、少しひび割れてるな。何とか保ってる感じだが、不安だからつくり直す。髪飾りと首飾りは大丈夫そうだな」
グレイザックは装飾品を覗き込み、確かめる。
「式のときはまた、別の装飾品だからそれにまた魔法をかけておく」
「ありがとうございます」
リディオノーレは礼を言う。
「何か色々やって頂いてすいません」
「構わん。これくらいしとかんと俺に負けるだろう?」
グレイザックが唇の端を上げながら言った。
「負けませんよ。絶対ぎゃふんと言わせます」
リディオノーレは彼を睨みつけた。
「いい度胸だ」
グレイザックはにやりとする。
「衣装も出来たことですし、グレイザック様の資料を読ませて下さい」
「………いいだろう」
嫌そうな顔をしているが許可を出してくれたので、彼女は嬉々として彼の本棚に向かった。
もうこうなれば話が聞こえないので、グレイザックはムナグレークとサムエルに向かって話を始める。
「改めて妹の結婚、祝福する」
「ありがとうございます」
ムナグレークが頭を下げる。
「式当日はアインズビルに構わなくて良い。きちんとアブストールと妹を守れ。リディのことも気にせんで良い」
「それは」
「目一杯の魔法陣を組み込んでいるから大丈夫だ」
グレイザックは彼女の衣装をめくり、内側を見せる。
「何ですかこれは」
ムナグレークは眉間に皺が寄る。
魔法防御、物理攻撃防御までは理解できる。
「これは盾の魔法陣ですよね?」
サムエルが尋ねる。
「そうだ。防御が何回保つか分からんからな、盾が展開するようにしている」
「これは?」
ムナグレークが尋ねた。
「回復の魔法陣だ。体力回復ができるようにしている。魔力回復は薬で事足りるからな」
「では、これは?」
今度はサムエルが尋ねる。
「これは反撃だ」
「反撃?」
ムナグレークとサムエルの声が重なる。
「何ですかそれは」
「反撃は反撃だ。威力をそのまま返す魔法陣だ」
すごい当たり前のように答えるグレイザックだが、反撃の魔法陣など聞いたことがない。
「………つくったのですか?」
ムナグレークが恐る恐る尋ねる。
「つくったも何も、盾が展開し、跳弾させるような想像をしてもらったら分かりやすいだろう」
「………これ、金貨10枚くらいでも買ってくれますよ」
ムナグレークが進言する。
「想像さえできれば、仕組みを考えるだけだから、誰でもつくれる」
グレイザックの答えにムナグレークとサムエルは息を吐く。
なんてものをつくっているのか。
そんな簡単に新種の魔法陣が出来てしまったら、一大事すぎる。
そして、そんな新種の魔法を容易につくれるわけがない。
ムナグレークは本棚で資料を漁るリディオノーレを見た。
その視線に気付いたグレイザックが口を開く。
「あいつは恐らくできるぞ」
「そこまで彼女は才能があるのですか」
ムナグレークは内心怖くなる。
「ある。目の付け所が他と違うからな。俺を越えることはないだろうが、俺と同等くらいにはなる」
そうグレイザックから言ってもらえる能力の持ち主であるリディオノーレに羨望してしまうムナグレーク。
「だが、天馬と使役獣を教えたのはお前だ。それに関しての師匠はお前だと言っていた。誇ってよい。お前に任せて良かった」
その言葉にムナグレークは何だかむず痒さを感じた。
何だろうか。何故こんなにも優しいのか。
少し違和感があるのは気のせいだろうか。
「……グレイザック様?」
ムナグレークが思わず名前を呼ぶ。
流石に学院時代からの付き合いだから、何かを感じ取ったようだ。
サムエルは彼の肩に手を置いて首をゆっくりと振った。
「何も聞いてはいけません。ムナグレーク様なら、この意味お分かりでしょう」
サムエルが真剣な顔で告げた。
ムナグレークは怖い顔でグレイザックを一瞥したのち、俯いた。
将来、何かが起こるのだろう。
何かは分からないが、グレイザックは何か先を見据えていることは確かだった。




