衣装決め
数日後、グレイザックはシャイリーネに頼み、針子たちを城に呼んでもらった。
広間を借りて、複数人の衣装を依頼する。
衝立の後ろで皆採寸してもらい、色や素材やさまざまなことを決めていく。
シャイリーネも招待されており、アインズビルの代表者として向かい、ライリルムントは今回留守番で代理としてザファムートが向かう。
ジャンドバルトもアラウィリアとの交流を兼ねて、母のエスコート役として同行する。
「私はこれで結構です」
サムエルが選んだのは、いつもの服装よりかっちりとした衣装だった。
色はいつもと同じ黒なのだが、袖や裾などに金色の刺繍を入れてもらうことにしたようだ。
長身のサムエルに合ったすらりとした執事然としたような衣装である。
「私はこれで」
ムナグレークがひとつの衣装を選ぶ。
「お前もどこか金の刺繍を入れてもらえ」
「では、襟に」
ムナグレークは襟を縁取るように金のラインを入れてもらうことになった。
彼の衣装は白を基調としたもので、少し騎士然としていて動きやすそうな感じだ。
肩に黒のマントを引っ掛けるらしい。
「さて、問題はお前だな」
グレイザックはリディオノーレを見る。
他の皆も口を挟まないようにして見守っている。
リディオノーレだけが早くしてくれ、といった雰囲気を出しているが、グレイザックはそんなもの無視である。
「これはどうだ」
グレイザックはひとつの衣装を見立てる。
彼の意見に針子たちが賛成する。
グレイザックは針子たちと勝手に話を詰めていく。正直リディオノーレのことなんてほったらかしである。
「髪飾りもこれで良さそうだな。先にもらっててもいいか。あと、靴は底が平らなやつで頼む」
「これ、私必要ですか?」
リディオノーレが思わずサムエルに尋ねる。
サムエルは苦笑いで答えた。
「グレイザック様の好きなようにさせてあげてください。その方がリディも見違えますよ」
「本当に、あなた可愛がられてるわね」
シャイリーネがリディオノーレに近付いてきて呟いた。
「そうなんですかね」
リディオノーレは苦笑しながら答える。
「あの子が女性の衣装を見立てるなんて想像もつかなかったもの」
シャイリーネは微笑む。
「グレイザック様が楽しそうなのでまあいいんですけど、私とグレーク様は白の衣装なのに他の方は何色でもいいのですか?」
リディオノーレは気になったことを尋ねる。
「新郎新婦は白の衣装で、付き添い人も分かりやすく白にするのよ。あと、新郎新婦と間違わないように黒の何かを纏うようにしないといけないの。ほら、ムナグレークなら黒のマントでしょう?」
「なるほど」
リディオノーレは頷く。
ほどなくして、グレイザックが満足気な顔をしてやってきた。
どことなく機嫌が良い。
「ひと月半ほどかかるらしいが、衣装は決まった」
「良かったです!」
リディオノーレは嬉しくなる。
これでやっと資料を漁れるからだ。
「グレイザック様の衣装は決めたんですか?」
リディオノーレの衣装を決めることに時間を費やしていたように見えたので、ムナグレークは尋ねる。
「ああ、俺は決まっている」
「……いつの間に」
リディオノーレは思わず呟く。
「ではでは、これで資料が読めるんですよね!?」
彼女は目を輝かせて尋ねた。
「………まあ許可しよう。執務も怠らないように。新しい術を試したいときは、必ず俺に声をかけること。常に誰かと共に行動すること。それが守れたら好きに行動してよい」
「え!本当ですか!」
リディオノーレは目を瞬く。
「俺の機嫌が良い内に動くことをすすめる」
「ぅわ!やった!フェルバール様に護衛頼んで資料読んできます!やったぁーーっ!!!」
リディオノーレは一目散に部屋を出て、廊下で控えていたフェルバールを引き連れ、去って行った。
ご機嫌なリディオノーレの足音が遠ざかり、完全に聞こえなくなった所でシャイリーネは口を開いた。
「本当に可愛いがっているのね」
「…………普通です」
グレイザックは視線を合わさず答える。
「シャーリネーヴェは元気ですか。彼女も招待されているとお聞きしていますが」
グレイザックは話題を逸らす。
あからさまな話題の変換だったので、シャイリーネはくすくすと笑いながらもそれに答えてやる。
「元気よ。卒院式では下級生で次席として表彰されたわ」
「!」
まさかの返答にグレイザックは驚いた。
あのシャーリネーヴェがそこまで優秀とは思っていなかったのだ。
「リディのために頑張らないといけないと張り切っていたもの」
シャイリーネは微笑む。
「彼女がここに来て、たくさんの人にいい影響を及ぼしているみたいでわたくしは嬉しいわ」
特にグレイザックに。
シャイリーネは最後の言葉は呑み込んだ。
「義姉上にそう言って頂けるとは、師匠冥利に尽きます」
「あの子の執務の腕は本当にいいのね。この間はとても驚いたけれども、あなたと過ごしていたら必然とあそこまで出来るようになるのかしら」
「……元々カルムクラインの執務をしていただけあって、適性はありました。まあ、あれほど堂々と義兄上たちに盾つくとは思いませんでしたが」
グレイザックは苦い顔になって、少し頭を下げた。
「弟子が図々しく意見してしまい、申し訳ありません」
グレイザックの謝罪にシャイリーネが今度は驚く番だった。
本当に彼は丸くなった。
「そんなことないわ。あれくらい本当はするべきことなのよね。わたくし達がグレイザックに甘えていたのが悪かったのよ」
「その言葉、リディに伝えておきます」
グレイザックは軽く微笑んだ。
「ねぇ、グレイザック」
シャイリーネは改めて名を呼んだ。
グレイザックは無言で続きを待つ。
「あの子を手放しては駄目よ。あの子はあなたに必要な存在だとわたくしは思うわ」
シャイリーネの言葉にグレイザックは少し目を瞬いた。
聞いていたサムエルとムナグレークは互いの顔を見合わせた。
「………ご忠告ありがとうございます」
グレイザックはそう言ってサムエル達を引き連れ、部屋を出た。




