付き添い人の話
「さて、付き添い人とはどういうことだ」
ムナグレークも揃ったところで、話し合いの場所はグレイザックの部屋に移った。
リディオノーレとムナグレークが、グレイザックから怖い顔で尋ねられる。
サムエルはお茶を用意したのち少し離れた所で座り、行く末を見守る。
「リディがグレティアーナの付き添い人でアブストールの付き添い人はお前か?」
「そうです」
ムナグレークがアブストールからの手紙を見せる。
「で、あの時話していた内容とはこれか」
グレイザックの眉間に皺が寄る。
アラウィリアへ視察へ行った際、グレティアーナが言っていたことはこれのことか。
「……そうです」
ムナグレークが静かに答える。
「リディ、付き添い人が何か分かってるのか」
グレイザックが尋ねる。
「知りません」
リディオノーレは堂々と言い放つ。
その堂々さにグレイザックは呆れを通り越す。
「結婚式に参加したことは?」
「ないです」
「なのに、付き添い人になると返事したのか」
グレイザックの顔が怖い。
「いえ、返事しておりません。グレティアーナには、グレイザック様の許可をもらうように伝えてあります」
ムナグレークがリディオノーレを庇うように発言してくれた。
「……分かった。俺は許可せん。アブストールの付き添い人としてムナグレークは許可する」
グレイザックが腕を組み、言い放った。
(そうでしょうね……)
サムエルは内心でグレイザックの言葉に同意する。
「ええええええっっ!!!!!」
リディオノーレが椅子から立ち上がって大声を出す。
「うるさい」
グレイザックが眉間に皺を寄せたまま手で追い払う仕草をする。
「ほら、言ったでしょう」
ムナグレークは苦い顔をしながらリディオノーレを見る。
「付き添い人が駄目なだけで、式の参加は許可する。それでいいだろう」
「では、駄目な理由を教えてください」
リディオノーレは頬を膨らませながら腰を下ろした。
「まず、結婚式の流れから説明せねばならんな。サムエル」
グレイザックはサムエルに丸投げする。
サムエルは面倒くさいのもおくびに出さず、説明を始めた。
「新郎と新婦が左右の舞台袖から入場して参ります。その際、付き添い人がエスコートしながら一緒に入場します。そして、結婚するにあたっての精霊への誓いを述べたあと、互いの色の装飾品を交換します。その際、付き添い人が装飾品を新郎新婦に渡してあげて下さい」
「エスコートと装飾品を渡す係ですね」
リディオノーレは頭に入れる。
「そうです。そして、新郎が本当に新婦を守れるのかを試すため、新郎の指揮のもと天馬合戦を行います。その際、新郎新婦の付き添い人がその他大勢と戦う羽目になります。式に参加する全員が襲ってくると思って下さい」
リディオノーレは目を見開いた。
「2対大勢ですので、相手方はある程度手加減してくれますが、ここで付き添い人が弱いと駄目です。新郎新婦にはこれ程強い友人がいるということを見せ付けるのです」
「その天馬合戦は何でもありですか?」
「殺さなければ大丈夫です」
その答えを聞いて、彼女は目を輝かす。
「やりたいです!是非、やりたいです!!!」
「……そう言うと思った」
グレイザックはため息をつく。
「お前たち2人で俺を止められるか?」
グレイザックが唇の端を上げた。
「………止めてみせますよ。妹のためなので」
ムナグレークは好戦的な顔をする。
サムエルは少し考えたのち、口を挟んだ。
「グレイザック様、グレティアーナ様はこれが目的なのでは?リディがグレイザック様とやり合っている所を見せつけるつもりなのではないでしょうか?」
「………」
グレイザックはリディオノーレを見る。
リディオノーレはまっすぐ見つめ返す。
目は逸らさない。
ここで折れたら負けである。
「リディ、俺とやり合うのか?」
「やってやれないことはないと思いますが」
「領主一族の結婚式のため、王族も訪れるぞ。目立つが、良いんだな?」
「グレイザック様がすごい術を仕掛けてこなければ大丈夫です」
「その台詞、そっくりそのままお前に返す」
「付き添い人は守り抜けばいいのですよね?できないことはないと思うのですが。流石に時間制限ありますよね?」
リディオノーレはサムエルを見る。
「ええ。ございます。式自体は昼からですので、誓いが終わり、昼食を取ってから、天馬合戦の用意ができ次第始まり、夕の鐘が鳴るまでです」
サムエルは説明してくれる。
「………」
リディオノーレは少し考え込む。
色々思考したのち、ゆっくりと口を開いた。
「出来ます」
リディオノーレはきっぱりと断言した。
「目立ってもいいんだな?」
「グレティアーナ様の意図が私の実力を見せつけることなんでしたら、思う存分やります」
「………」
グレイザックは少し黙りこむ。
リディオノーレの実力を見せつけた場合の弊害を考える。
1番は王族に目を付けられることくらいだろうか。
前回の領主会議で粛清された汚点をもつ一族を召し抱えるのは良くないと進言したし、恐らく大丈夫だとは思うのだが。
「この際、グレイザック様とやりあえるほどの実力があることを見せつけた方が牽制できるかもしれませんよ」
サムエルが口を開いた。
「……確かに、その可能性は高い」
グレイザックは頷く。
「だが、目立つが故に攻撃されやすい」
「………それは敵に、ですか」
ムナグレークが尋ねる。
敵とは、内通者のことである。
「目立つが故に、守りやすいのもあるかと思いますが。護衛対象が群衆に紛れるよりは良いかと」
サムエルは進言する。
「……そうだな。群衆にいるよりは守りやすいか」
「攻撃されやすいのも分かりますが、そこまで目立つ者を攻撃する者もいませんよ」
サムエルは頷く。
「………分かった」
グレイザックは仕方なさそうにリディオノーレを見た。
「付き添い人の件、許可する」
「やったーーーーーっ!!!!!」
リディオノーレは両手を挙げて、全力で喜ぶ。
「二言はないですよね?あとで撤回とかしないでくださいよ」
リディオノーレは確認しておく。
「ああ」
グレイザックはため息をつきながら肯定した。
「なら早速、図書室行ってきます!」
リディオノーレは立ち上がり、部屋を出ようとする。
「待て待て待て待て」
グレイザックは慌てて呼び止める。
「式は3ヶ月後だ。何をそんなに慌てる必要がある」
「グレイザック様とやり合うならぎゃふんと言わせたいです」
「………」
その言葉にグレイザックは苦い顔をしながら、彼女の前に立ち塞がる。
「それより先にすることがある」
「なんですか?」
リディオノーレは首を傾げる。
術を調べること以外に今優先すべきことなんてない。
「衣装をつくってもらわねばならん」
グレイザックが腕を組みながら彼女を上から下まで見る。
「シャーリネーヴェの衣装も悪くないんだが、きちんと自分に合った衣装をつくらねば王族たちの前には出せん」
「……グレイザック様が適当に見繕ってくれていいですよ」
リディオノーレは唇を尖らせながら言う。
衣装合わせがめんどくさいことは経験済みである。
「俺も立ち会う。義姉上に針子たちを呼んでもらってつくるぞ。グレークもだ。サムエルもこれを機に1着くらいは見繕え」
「ありがとうございます」
ムナグレークとサムエルが礼を述べる。
「……グレイザック様が見繕ってくれたやつでいいんですけど」
リディオノーレはまだそんなことを言う。
「お前は女のくせに俺らより無頓着でどうする」
「だって、グレイザック様の見立てが変だったことはないじゃないですか。この飾り然り」
リディオノーレは彼からもらった装飾品を触る。
「当たり前だろう」
「だからグレイザック様のお好きにしてもらっていいですよ」
「今の装飾品は普段使いだから、晴れの衣装に合わせた装飾品も見繕いたい」
「……じゃあそれが終わったら、グレイザック様の本棚見せてくれますか?」
「交換条件を出してくるとはな。まあ、良い。見せてやろう。それで仕立てに付き合ってくれるなら良い」
グレイザックの許可が出て、リディオノーレは更に喜んだ。




