勉強の確認
あれからリディオノーレは色々聞きたいのを我慢して日々を過ごしていた。
だって、何も教えてくれないのを分かっているからだ。
それに聞く暇もないくらい執務のことを皆に教える日々で忙しくなったのもある。
ザファムートがあまりにも優しすぎるので、もう少し厳しくお願いしますと言ったり、書類はきちんと仕上げてから持ってくるように言ったり、本当に基礎基本の底上げを行う。
グレイザックに頼ることがないよう、リディオノーレが防波堤になる。
おかげでグレイザックの捌く書類が減ったので、彼女は嬉しくなる。
グレイザックの自由時間が増えれば、訓練もできるし、座学の勉強も教えてもらえるので、リディオノーレはそちらの方が嬉しい。
入学まで1年を切ったので、本格的に勉強を詰めていく。
「お前に教えてないのはあと何だったか……」
グレイザックは学院時代の教科書を漁りながら呟く。
「素材はもう大丈夫だろう?」
「……何となくですが」
リディオノーレは頷く。
「歴史も覚えているだろう?」
グレイザックは1つ1つ確認していく。
「大体は」
「本さえ読めばお前ならいける。……あとは、天馬の扱いも大丈夫だろう?」
「そうですね。あれで問題無ければ」
リディオノーレは答える。
「……ふむ。魔力の流し方も分かるだろう?各部位にも流せるよな」
「そうですね。体に流すのは簡単ですね」
次々と答えていく。
「基礎呪文も分かっているだろう?」
「バニヴィアンとかですよね。大丈夫です」
「なら、下級生は問題ないな」
グレイザックは次の教科書を手に取る。
「魔獣も分かるな?」
「粗方は分かります」
「この魔獣にはどの術が効果が高いか、どんな攻撃をしてくるか、など分かっているな?」
「あ、でも大型の魔獣しか狩ったことがないので、小型の魔獣はそこまで詳しくないかもしれないです」
リディオノーレは嬉しそうに進言する。
「お前、それ魔獣狩りに行きたいだけだろう」
グレイザックがため息をつく。
「………何で分かるんですか」
リディオノーレは唇を尖らせた。
同じ部屋で話を聞いているサムエルが思わず苦笑する。
「分かった。どこかで鳥の魔獣狩りに行くか。そういや、鳥の狩りはしてないな」
グレイザックが記憶を辿る。
「そうですね。私の記憶違いでなければ、一回も出遭ってないですね」
サムエルも同意する。
「では、決定ですね!!」
リディオノーレは嬉しそうに笑う。
「魔獣狩りを喜ぶ女性はどうかと思いますが……」
サムエルは苦笑しながら突っ込む。
「まあ、魔力操作ができるから余裕で倒せるだろう。それか弓矢を練習するか」
グレイザックは顎に手をやり、少し考える。
「お前はどっちがいい?」
グレイザックに尋ねられ、リディオノーレは少し首を傾げた。
「どちらもやっておいた方がいいですよね?」
「………そうだな」
彼女の答えにグレイザックは笑った。
普通はどっちもしようなんて思わない。
「師匠が出来て、弟子が出来ないのは笑われちゃいます」
リディオノーレは答える。
「よし。ではそれは決まりだ。で、あとは………兵法はやったか?」
グレイザックは彼女を見つめる。
「兵法ですか?あの、戦で使う兵法ですか?やってないです」
リディオノーレは目を瞬きながら答えた。
「天馬合戦に使ったりするから基礎の基礎を学ぶだけだから、お前ならすぐに分かるだろう」
グレイザックは答える。
「ほら、こんなところだ」
グレイザックは兵法が載っている部分を彼女に見せる。
「例えば、1対複数ならどう相手取るか。こういう状況では何が有効か。作戦はどんなのがあるか」
グレイザックは指し示す。
「すんごい基本のことなんですね」
リディオノーレは目を見張った。
「お前に教えるほどでもない。お前は自分で何が最善手か何となく分かっているからな」
「本当ですか?」
リディオノーレは聞き返す。
「ああ。風を起こして痺れ薬を霧散させたり、光の魔法陣で目眩し。闇の魔法陣で一帯を暗闇に、などの考えが出来る時点で充分だ」
グレイザックはにやりとする。
「あと、偽の鈴を複数用意し、爆散させる方法は特に面白い。相手の裏の裏をかくのは重要だ」
グレイザックの褒め言葉にリディオノーレは、えへへ、と笑う。
「まあ、あとは雨天のときどうするかは考えておくべきだな」
「雨ですか……」
リディオノーレは考え込む。
雨に濡れると武器も体も重くなる。
なので、身体強化をする腕の部分に特に多めに魔力を流したり、弓矢などの長距離武器を使う者は剣で戦うなど、あとは撥水魔法を自身にかけるかなどが一般的な答えである。
グレイザックは彼女の答えを待つ。
何を思いつくのか。
「そうですね………そこだけ晴れにすればいいのでしょう?」
リディオノーレは首を傾げた。
「???」
サムエルも少し首を傾げる。
「雨雲があるから雨が降るんですよね?なら、雲をのければいいのでは?」
「…………そう来たか」
グレイザックは思わず笑う。
サムエルは眉間に皺を寄せている。
「お前ならではの発想だな」
「雨雲を風で動かせば晴れますよ」
リディオノーレは微笑んだ。
「確かに。相手の頭上に雲を持って行けば、こちらはやりやすくなるな」
「でしょう?」
「採用だな」
グレイザックは唇の端を上げる。
「………あの、雲を動かせるほどの風を起こすには、魔力が多い方ではないと駄目ですよ。なので、お二人のみが出来る作戦ですね」
サムエルは常識を教えておかないと、と慌てて口を挟む。
「なるほど。まあ攻撃魔法が許可されるなら、雷撃落とせば一発なのですが」
リディオノーレはにこりと微笑む。
考えがえぐい。
「お前は本当に攻撃魔法が好きだな。まあ良いが。知っておいた方が役に立つ。学院で使うときはないだろうが」
グレイザックはそう言って、教科書の頁をめくる。
「使役獣のことはグレークに教わってるから大丈夫だろうし、天馬合戦は余裕でできるだろ」
グレイザックは次の教科書を開く。
「魔法陣は粗方分かってるだろ」
「大体は」
「授業で範囲拡大や増幅、省略を組み込んだ陣を杖で描かないこと。これは約束してくれ」
「………どうしても、ですか」
リディオノーレは唇を少し尖らせる。
「紙に描くのは許す。だが、誰にも見られないようにすること」
「省略した方が絶対に使いやすいのに、それでもですか?」
「ああ。教科書通りにしておけ。目立つと厄介だぞ。試験も済ませたのち、教授たちに改良した魔法陣を売るのはありだが」
「……分かりました。小遣い稼ぎ用にとっておきます」
リディオノーレは渋々了解した。
「素直でよろしい。あとは、杖と薬の調合はできるな」
「できます」
「学院の素材を使って、好きなだけ調合してこい。研究結果はきちんと書き留めておくように」
「分かりました!」
リディオノーレは元気良く返事する。
「………それ、グレイザック様が参考にしようとしているでしょう」
サムエルが苦笑しながら突っ込む。
「何が悪い。さて、あと教えてないのは、これだけか」
グレイザックは教科書を見て、その後リディオノーレを見やる。
「これは教えるほどでもないというか。本を読むだけだから大丈夫だと思うのだが」
グレイザックは言う。
「どういった内容なんですか?」
リディオノーレは首を傾げた。
「………精霊師についてだ」
グレイザックはゆっくりと答えた。
「精霊師、ですか」
リディオノーレは聞き返す。
「お前はそれについて何処まで知っている?」
「そうですね……」
リディオノーレは記憶を辿る。
グレイザックとサムエルは彼女を見つめて答えを待つ。
「1番最近出現した精霊師は50年前くらいですよね?覚醒したのも結構お年を召されてからだった記憶が…。覚醒されてから20年ほどでお亡くなりになったのではなかったでしたっけ?最後は病死だったはずです」
リディオノーレは記憶を辿りながら話す。
「そうだ。精霊師はどういった存在だ?」
「確か、1人いればその国が繁栄すると言われていますよね?その方はこの国で出現しましたから、またこの国で出現するのではないかと思われている節があります」
「そうだな。そいつ以外の情報は?」
グレイザックは質問を重ねる。
「えーと、その方より30年ほど前だったのでは?その方は別の国でしたよね?その前の方はこの国でした。私、よく分からないのですが、何故精霊師がいれば繁栄すると言われるのですか?」
リディオノーレはまっすぐグレイザックを見つめて尋ねた。




