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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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内通者への牽制




「……いっ!!!」

あまりの痛さに額を押さえて唸るリディオノーレ。

痛さに気が行ったので、魔力漏れが一瞬で掻き消えた。


グレイザックは安堵して、長い息を吐く。


「義兄上、リディを煽らないで下さい」

グレイザックはライリルムントに進言した。

「……リディオノーレは、どうしてほしいんだ」

ライリルムントは苦い顔をしながら尋ねる。


「まずは一人一人の能力の底上げをお願いしたいです。ザファムート様も厳しくお願いします。本日一緒に仕事をしていて思ったのは、ザファムート様は優しすぎます」

リディオノーレはぴしりと指を差す。


「分からないなら分かるまで教えるか、少しずつでいいから教えていくか、せめてどちらかにして下さい。こちらでやっておくから大丈夫、という台詞はやめて下さい。だから後進が育たないんですよ」

リディオノーレは真っ向から言い放った。


「……リディ」

グレイザックが嗜めるように彼女の名を呼ぶ。

「上に立つ者がその姿勢でないと駄目です。それは勿論、グレイザック様もです。教えることが面倒くさいのは重々承知しています。なので、私が代わりに教えます」

「それなら良い」

グレイザックは引き下がる。


「待て。それは不公平だろう。こちらに尋ねてくる奴らもお前が処理せよ」

ライリルムントが不機嫌丸出しになる。

「ある程度は受け付けますが、そちらはザファムート様もいらっしゃいますし、シャイリーネ様もいらっしゃいます。何なら、ジャンドバルト様にもお手伝いして頂いてはどうでしょう」

むしろ邪魔になるだろうが、とグレイザックからの圧を感じたが彼女は無視する。


「こちらは少数精鋭なのです」

「護衛騎士の2人も執務が出来るようになって増えただろう」

ライリルムントがまだ反論する。

「彼らですらまだまだです。グレイザック様の迷惑になるような執務の手伝いをするようでしたら、こてんぱんに怒ります」


「お前の基準はグレイザックなのか」

ライリルムントは呆れ果てる。

「当たり前です」

リディオノーレは食い気味に答え、そして続ける。


「私を拾ってくれたのは誰ですか。領主様ですか?違うじゃないですか。私を拾いあげてくれて、勉強も見てくれていろんなことを教えてくれているのはグレイザック様です。グレイザック様に恩を感じて何が悪いんですか」

リディオノーレが少し怒る。

またほんのり魔力が高まってきている。


「そんな敬愛する人に迷惑をかけている人たちを許すはずがないじゃないですか」

「………落ち着け」

グレイザックがまた彼女の腕を引っ張る。


「………グレイザック、えらく好かれているじゃないか」

ライリルムントが苦い顔で息を吐いた。

「………物好きなんですよ」

グレイザックは苦笑する。

悪い気はしないので、好きにさせているが。


「リディ、もうそこまでにしておけ。もう良い」

グレイザックはまた腕を引っ張る。

「ですが」

「良い」

グレイザックがまっすぐ彼女を見つめる。


「義兄上も承知したはずだ。……ですよね?」

グレイザックはライリルムントを見つめる。

「………リディオノーレの思いは伝わった」

ライリルムントはそれはもう嫌そうに答えた。


「だそうだ、リディ。もう充分だ。俺のために怒らなくて良い」

グレイザックは落ち着かせるように机の下で彼女の手をゆっくり撫でる。

「………分かりました」

リディオノーレは少し落ち着いたのか、素直に引き下がった。


魔力の昂りが収まったのを感じ、グレイザックは手を離した。


「リディの仕事を増やしすぎたら、今度は俺が出ますのでご容赦を」

その言葉にリディオノーレとサムエル以外が息を呑んだ。

リディオノーレが倒れてしまったとき、グレイザックがどれほど威圧で失神させたか有名だからだ。


「互いへ頼み事をするときは、互いの許可がいるということか。………難儀な」

ライリルムントが愚痴をこぼす。


「それほど互いが大事な存在なのでしょう」

ザファムートが苦笑したのち、微笑んだ。

「……そうだ」

グレイザックがまさかの言葉を漏らす。

その言葉にまた周囲が驚きを露わにする。


リディオノーレも驚いて目を瞬きながら、グレイザックを見る。


「だからこそ、リディに手を出したらどうなるか、覚悟した上での行動を願います」

グレイザックはぐるりと周囲を見渡しながら言い放った。


グレイザックはその言葉で釘を刺す。

この場にいる全員に。

1人1人をジッと見つめながら、とある人だけ少し長く見つめてから視線を外した。

そこまで長く見つめたわけではないが、分かる人には分かるだろう。


サムエルは勘付いた。

リディオノーレもほんの少しだが、引っ掛かった。

何故、そこでその人をそんなに見つめるのか。


まさか。

リディオノーレは少し目を瞬いた。

そんなまさか。

驚きを出さないよう、リディオノーレは机の下でぎゅ、とグレイザックの手を掴んだ。


彼は驚いて手をぴくりとさせたが、彼女の好きにさせてくれた。


「戻ってもよろしいですか」

話は終わった、とグレイザックは立ち上がる。

「行くぞ」

リディオノーレも慌てて立ち上がり、グレイザックの袖を掴む。


「ここにこれ以上いる必要性がない。戻るぞ」

グレイザックは袖を掴むリディオノーレの手を取り、背中を押す。


廊下に出た瞬間、グレイザックはツカツカと早足で先に歩き始める。

そんなグレイザックの手をリディオノーレは慌てて掴んだ。

後ろからサムエルと、廊下で護衛していたフェルバールがついてくる。


「なんだ」

グレイザックは立ち止まり、振り返って尋ねた。

「………あの人、なんですか?」

リディオノーレは怖い顔で尋ねる。

「まだ分からん」

グレイザックは無表情で答えた。

数秒、2人は見つめ合う。


先に折れたのはリディオノーレだった。

グレイザックは考えを読ませないよう、無表情を装った。

作り笑いや意地の悪い笑みや唇の端を上げたり、眉を上げたりもしなかった。

本当に無表情だった。


「………分かりました」

リディオノーレは引き下がった。


そして、無言で彼らは部屋に戻った。




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