意見するリディオノーレ
「グレイザック様、ひとつ聞いて欲しいことがあるのですが、いいですか?」
リディオノーレはグレイザックの執務机に手を置いて、身を乗り出しながら言う。
「仕事の邪魔をするな」
グレイザックは仰け反りながら、眉間に皺を寄せて彼女を見る。
「領主様も帰ってきました。執務について領主様とお話ししたいのですが、駄目ですか?」
その意見にグレイザックは更に眉間に皺が寄った。
「何の話をするんだ?」
「リディ、落ち着きましょう」
身を乗り出してグレイザックに迫る彼女の肩にサムエルが手を置く。
「落ち着いてられますか?この領主会議中、皆の執務能力の低さに辟易しました」
今回の領主会議は5日という短期間で終了したが、これ以上続くものなら発狂していただろう。
少しはマシになったものの、皆が皆、能力が低すぎる。
最近執務をし始めたフェルバールやバルデミアンがものすごく仕事できる人のように思えたくらいだ。
彼らは慣れてきてある程度はこなせるようになったが、その程度だ。
まだまだには変わりない。
「義兄上に話してどうするつもりだ?何をどう改善させる?」
グレイザックは睨みながら尋ね、そして続ける。
「それはお前の仕事なのか?」
「……グレイザック様の側近という立場から言わせてもらうと、少しでも仕事を楽にさせる為ならすべきことだと思います」
リディオノーレはまっすぐ見つめ返す。
その度胸にグレイザックは唇の端を上げた。
本当に言うようになった。
「お前の策を聞こう」
グレイザックは腕を組む。
「策という策ではないですが、どれだけの能力なのかを把握してもらう必要があると思います。領主様達が戻ってくれば、彼らはザファムート様に尋ねると思うのです。どういう風に執務を教えているのかは知りませんが、分からなければグレイザック様に任せておけばいい、なんてこと言っているのかもしれません」
あながち間違いではないだろう。
話を聞いているサムエルは唇を引き結んだ。
「それで、どうする?」
「領主様とザファムート様とお仕事させてください」
突拍子もない提案にサムエルは目を見開いた。
「………1人では行かせられん。フェルとバルデを連れて行け。でもまずは、義兄上に許可を得てこい」
「分かりました。今日、許可をもらってきます」
リディオノーレはそう答え、引き下がった。
彼女は宣言通り、昼休憩中に領主に取り次ぎ、彼らと仕事をする許可をもぎ取ってきた。
許可が本当におりると思っていなかったサムエルはかなり驚いた。
グレイザックも半信半疑だったのだが、もう許可を得たのなら仕方がない。
「今から?なのか?フェルとバルデの同行の許可も得たんだろうな?」
「もちろんです」
「なら良い。ほどほどにしてやれよ」
グレイザックは呆れた風に先に注意しておく。
「何故ですか?」
リディオノーレの顔が不機嫌になる。
「何故、遠慮しないといけないのですか?このままでは、グレイザック様の負担が多すぎます。どうりでこんなに仕事量が多いわけなんですね」
リディオノーレは腰に手を当てながら言う。
「何でお前がそこまで怒るんだ」
グレイザックは呆れてため息が出る。
「私の大事な敬愛する師匠に迷惑をかけているからです」
彼女のその答えにグレイザックは目を瞬いた。
「何を驚いてるんですか。当たり前でしょう!師匠は私の家族なんです。家族に迷惑かけてる人には痛い目見てもらいます」
ふん!と荒く息を吐くリディオノーレ。
「少し動機が不純ですが、良いのではないでしょうか」
サムエルが苦笑しながら同意した。
「……どうする気だ?」
グレイザックも苦笑しながら彼女に尋ねる。
「どうするもこうするも領主様とザファムート様の仕事ぶりを見ます。それによって口を出すか出さないか変わってきます」
「………お前は領主にも意見するつもりなのか」
グレイザックは呆れる。
「仕事出来ない人は領主だろうが、領主側近だろうが関係ないです」
このリディオノーレの度胸にグレイザックとサムエルは苦笑いだ。
グレイザックはため息を吐きながらも告げた。
「分かった。好きなようにしろ。文句を言う奴は俺に言え、とでも言っておけ。俺が責任取るから好きに
やってしまえ」
グレイザックはにやりと笑った。
グレイザックの許可を得、リディオノーレもにやりと笑った。
「では、早速行ってきます」
リディオノーレは筆記用具を引っ掴み、フェルバールとバルデミアンと共に領主の執務室に向かって行った。
3人を見送ってから、サムエルは徐に口を開く。
「良いのですか?」
「……ああ」
「グレイザック様も行きたかったのでは?」
「フェルとバルデもいるから大丈夫だ。それに義兄上もいるしな」
グレイザックは息を吐く。
「それなら良いのですが。………本当に大丈夫ですか?」
サムエルは再度尋ねる。
「……ああ」
グレイザックは答え、仕事を再開した。
そして、リディオノーレの執務の厳しさは皆に知れ渡ることとなった。
かなりこってり絞ったらしい。
その日の夕食は、グレイザックが召喚され、領主とシャイリーネとザファムートに苦言を呈された。
リディオノーレも勿論のこと呼ばれたのだが、グレイザックに文句を言う皆に彼女は真っ向から言い返した。
「何でグレイザック様が悪いように言うんですか」
リディオノーレがそれはもう度胸満点で領主たちを睨みつけるように見つめる。
「そちらが後進をきちんと育てていないのが問題ではないのでしょうか」
リディオノーレは完全に腹を括っている。
彼女の勇姿にサムエルは苦笑いしつつ、内心では拍手していた。
「かの大領地であるアインズビルがここまで質が落ちているとは思いませんでした。完全にグレイザック様頼りではありませんか」
「身内だから良いだろう?現に今までグレイザックは何も文句を言ってないではないか」
領主ライリルムントが反論する。
「それは文句を言うより、自分で処理した方が早いからです」
「なら、それでいいではないか」
ライリルムントがそんなことを言う。
その言葉にリディオノーレの魔力がほんの少し漏れ出る。
恐らく本人は気付いていない。
グレイザックが片眉を吊り上げ、机の下で彼女の腕を引っ張る。
「グレイザック様に全て任せようとしている姿勢が気に食わないです」
リディオノーレは腕を引っ張るグレイザックを見つめて告げる。
「落ち着け。魔力が漏れている」
グレイザックが小声で咎める。
「これが落ち着いていられると思いますか」
リディオノーレは漏れ出る魔力をそのままグレイザックにぶつける。
「………っ」
グレイザックは、ぐ、と唇を噛み締めた。
相当リディオノーレは怒っているのか、魔力の威圧をそのままぶつけられ、グレイザックは内心呻く。
表情に出ないところは流石だが、真正面から食らったので威力が強い。
「リディ、落ち着け」
グレイザックはもう一度彼女の腕を引っ張り、自分の方に向かす。
そして、額を思い切り弾いた。




