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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
内通者

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師匠と弟子




領主会議中、執務室で仕事しながらリディオノーレは呟いた。

「すぐに出立とは、忙しいですね」

「領主として1番大事な仕事だ。仕方ない」

グレイザックは顔を上げずに答える。


「第一、義兄上はそれくらいしか仕事してないしな」

「辛辣ですね」

リディオノーレは苦笑する。

「実際そうだろうが」

グレイザックは少し顔を上げて、リディオノーレを見た。


「俺とお前が完成させた書類を義兄上は判を押すだけだ。随分と楽な仕事だろうが」

確かに少しそんなことを思っていたが、口には出さないでいたリディオノーレ。

直属の上司であるグレイザックが何も文句を言っていないのだから、彼女が言えるわけがない。


「……どうして師匠は何も言わないんですか?」

「腹違いの弟である俺を差別することなく接してくれた人だからな」

「………」

その言葉にリディオノーレは思わず黙り込む。


「でも、次期領主はジャンドバルトだ。あいつの仕事ぶり次第では俺は口を出すぞ」

「なるほど。義理を感じているのは現領主だけであって、ジャンドバルト様は違うと」

リディオノーレの言葉にグレイザックは頷いた。


「勿論だ。ジャンドバルト次第で俺は城を出るかもしれんしな」

「!!!」

その言葉にリディオノーレが目を見張って驚いた。


「冗談はやめて下さい」

サムエルが怖い顔で彼女より先に突っ込む。

「グレイザック様が出ていくときは私もついて行きます!!」

リディオノーレは声を上げて、睨みつける。


「何を馬鹿なことを」

グレイザックは呆れたため息をつく。

「今の台詞は、グレイザック様が城を出たら私がジャンドバルト様の補佐をしろ、という風に聞こえました」

リディオノーレは睨みつけたまま話す。


「そうだ。よく分かってるな」

「無理です。嫌です」

リディオノーレは怖い顔で拒否した。

「何故だ」

グレイザックの眉が吊り上がる。

「逆に聞きます。何故そんな話をするんですか?」

「………何だ?お前は今、何を思っている?」

グレイザックが鋭く彼女を見つめる。


「近い未来にグレイザック様が城を出るようなことが起こるということですよね?」

彼女もグレイザックを鋭く見つめ返す。

「そうじゃないとそんな話、出てこないでしょう?」

その問いにグレイザックは心中で、しまった、と思っていた。


元々察しと勘がいいリディオノーレ。

グレイザックは話の方向性を変える。


「……俺は結婚したら出て行くぞ?」

そう言われ、リディオノーレはグレイザックと数秒見つめ合った。


「それなら仕方ないですね」

リディオノーレが、ふぅ、と息を吐く。

「いつ結婚してもおかしくないですもんね」

リディオノーレが寂しそうに呟く。

「……そうですね」

サムエルも静かに呟いた。


「変な空気になってしまいましたね。お茶を淹れましょう」

サムエルが空気を和ませるように微笑んだ。


サムエルにアラウィリアのお茶を淹れてもらうと、リディオノーレはゆっくりと息を吐いた。


「でも、相手いませんよね?」

リディオノーレがくすりと笑いながらグレイザックに尋ねた。

「女嫌いだからな」

「なのに、結婚できるのですか?」

「利があるならな」

グレイザックはゆっくりとお茶を味わいながら答えた。


「グレイザック様の〝利″とは何なのですか?」

リディオノーレは気になり尋ねてみた。

グレイザックは少し考えてから口を開いた。


「例えばそいつと結婚すれば、金が入るとか。権力を手に入れられるとか。魔獣狩りにいつでも行けるとか。研究できる時間をくれるとか」

実にグレイザックらしい答えである。


「何ですかそれ」

リディオノーレは笑う。

「魔力に差があれば子もできんしな」

現状グレイザックに釣り合う相手など数えるほどしかいないらしい。


「でも子どもは苦手なんですよね?」

リディオノーレは首を傾げる。

「俺が世話できると思うか?」

グレイザックが逆に尋ねる。

「………」

リディオノーレとサムエルは少し目を合わせた。


「想像つきません」

リディオノーレは苦笑いで答えた。

これほど他人に素っ気ない人が子煩悩になるとは思えない。

「いや、むしろ自分の子どもなら案外大丈夫かもしれませんよ」

サムエルも苦笑しながら口を挟んだ。


「どうだかな」

グレイザックも苦笑いだ。

「まあ相手次第だな。リディよりは先に結婚することになるだろうが」

「分かんないですよ〜!もしかしたら、私の方が相手見つかるの早いかもしれませんよ?」

リディオノーレは笑いながら言う。


「そうだといいがな」


グレイザックも笑って答えたが、内心では感情を消していた。





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