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めでたしめでたし

電信柱の蔭から幸せそうなにゃー子たちを見守る一人の老人。


目を細め、足取り軽やかに行きつけのスナックへとたどり着く。


まだ早朝。開いてもいない茶色いドアをドンドン叩く。


「なあに。まだ朝じゃない?寝かせておいてよ留吉さん」


ネグリジェで瞼を腫らした店主の霧生さんが迷惑そうに顔をだす。


「店に用事じゃないんじゃ。ちょっと邪魔するよ」


留吉は御免なすっての要領で前屈みになると霧生とドアの隙間をするりと器用にすり抜けた。


まだ暗い店内を勝手知ったるとばかりに駆け抜け、裏口から二階の住まいの古い階段をとんとんと小気味良くあがっていく。


「梅さんや!!」


留吉がドアを開けるとちゃぶ台の湯呑みに手を伸ばす高齢のお婆ちゃんが一人。くるりと留吉の方を向いた。


「朝からなんだい。騒々しいね」


眉間にシワをよせ、細い目を更に細める。カーディガンを一枚羽織り、留吉をあがるように手招きする。


「御免するよ」


留吉は履き物を勢いよく吐き捨てると奥の万年床の横手にある仏壇の前に行儀よく正座した。


咳払いをわざとらしくすると飾られた写真の恰幅のいい強そうな男に一礼した。


線香をたて、手を合わせる。


「どうしたんだい?ばかに嬉しそうだねえ」


「梅さん、実は…」


留吉が身を乗り出すのを梅が首を振り、制止する。


「いいよ、ここじゃ竹で。誰も聴いてやしないよ」


梅が茶をすする。


「実はな、月千代が想っていた男とめでたく結ばれたんだ、嬉しくてよ」


留吉が明るい声をだす。


「ーーーあら、あんた本当は悔しいんじゃないの?月に夢中だったんでしょ」


下からあがってきた霧生が物知り顔で留吉の顔をのぞきこむ。


「霧舟よお、昔の話じゃねえか…。もうそんな気持ちはねえよ。ーーー俺はこの(ひと)一筋だから…。なあ、婆さん」


留吉は懐から死んだ女房の写真を取りだし、キスをした。


「おやまあ。ご馳走さま」


「ところでおめえはどうなのよ、霧舟」


「私は人間の男はどうもね…。かといって猫って訳にはねえ、竹さん」


「私に振るんじゃないよ。勝手にやっておくれ」


竹と呼ばれた梅は澄ました顔で茶をすする。


「でも虎さんも生きてりゃさぞ喜んでくれたのになあ…」


留吉は仏壇を振り返る。


「無鉄砲な猫、もとい人だったからねえ…。ところで月はお前に気づいているのかねえ、長寿。意外とお前は間抜けだからねえ」


梅は二人に茶を汲み、勧める。


「なあにアイツは昔から鈍いからな。それに猫を被っているからわかりゃあしめえよ」


留吉はしたり顔で茶をすする。梅と霧舟も違いないと含み笑いをする。


もしかしたらあなたの近くにも妖怪はたくさんいたりして…。


めでたし、めでたし。





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