第47話 本気の彼女を見た
目が覚めると隣に彼女がいる。それがこんなにも幸せなことだなんて知らなかった。
どうやらまだ眠っているみたいだけど俺のほうを向いていて、とても幸せそうな寝顔だ。
そっと頭を撫でると、彼女が「ん……」と息を漏らした。思わずまた抱きしめたくなるが、今はそっとしておこう。
そう考えていたが、どうやら目を覚ましたようだ。
「階堂くん、おはよう」
「おはよう」
ベッドの中で向き合ったままあいさつを交わす。もう今日はずっとこのままでもいいかとすら思える。時間だってあるし。
「ずっとこのままってわけにもいかないからそろそろ起きようか」
「うん、そうだね」
「とりあえず朝食を用意するからキッチンに行こう。といっても簡単なものになるけど」
朝食はいつも菓子パンなので俺一人ならそれでもいいが、彼女もそれに付き合わせるのは避けたい。俺だって一応は最低限の自炊はできるつもりだ。
そういえば誰かのために作ったことはないなと気がついた。味付けとか上手くできるだろうか。
「それなら私に作らせてもらえないかな?」
「そう? それならお願いしようか」
「うん、任せてね!」
朝から彼女の手料理が食べられるだなんてヤバいな。もちろんいい意味で。
ベッドから出て服を着る。八月ももう後半とはいえ、まだまだ暑いので時間はかからない。
それはどうやら彼女も同じのようで、すでに部屋の中に姿がなかった。
いったい何を作ってくれるんだろうと楽しみにしながらキッチンに入ると、すでにピンクのフリルエプロンをつけている彼女の姿があった。なかなか行動が早い。
「美味しいものを作るから座って待っててね」
彼女はそう言うと俺に背を向け調理スペースへ向かおうとする。それを見た俺はテーブルへと行こうとしたが、どうしてもスルーできないことがあるので声をかけた。
「ちょっと待って。服は……?」
「ちゃんと着てるよ?」
「まさかとは思うけどエプロンのこと?」
「うん」
「他の服は?」
「着てないよ? 階堂くんに喜んでもらいたくって」
まさか現実に存在するとは……。正面からは普通に見えたし、あまりに想定外だからまさかそうなってるとは思わないので、意識の外すぎて見逃していたんだろう。
でもそれが好きって言った覚えはないんだけど。
「どうかな? 興奮してくれた?」
「想定外すぎて理解する時間がほしい」
「あれー? こうすると男の子は喜ぶって書いてあったのになぁ」
この時点で大体は察することができるが、一応聞いてみることに。
「それが書いてる本ってどんなの?」
「んーっとね、高校の同級生カップルがただひたすらイチャイチャする作品だよ」
まだ普通のラブコメ作品の可能性がワンチャンあるか。
「彼女が彼氏のためにいろんなことをするの。日替わりでバニーガールになったりメイドになったり部屋の中なのに水着で過ごしたりするんだよ。彼氏はその全部に興奮して二人は毎晩盛り上がるの。それからの様子もホントに細かく描かれていてね、それを思い出すと今でも——」
そこにワンチャンなど無かった。彼女の説明がそこで止まり、エプロンの裾をギュッとつかんで体をくねくねさせ始めた。
そんな様子ですら可愛いと思うのだから、俺は本当にこの子が好きなんだなと改めて自覚した。やっぱり自分のためにっていうのは嬉しいものだ。
「俺のためにしてくれるのは嬉しいけど、とりあえずさっきの部屋に戻って服を着てもらっていい?」
今から料理をしようというのに、このままでは危ないと思ったからだ。何を作るのかは知らないが、もし熱々のフライパンなんかが直接素肌に触れてしまったら、とんでもないことになってしまう。
「うん、わかった。でも感想は聞かせてほしいかなー? なんて」
そんなことを言われたら、正直に答えないわけにはいかないな。
「エロ可愛い」
そりゃそう思うよ。でもあくまで俺のためにしてくれたってのが大きいわけで、単純にエロいからってわけじゃない。……俺はいったい誰に言い訳をしてるんだろう。
「やったっ!」
鼻歌まじりでキッチンから出て行く彼女。俺はもうどんな様子を見ても可愛いと思うようになっている。本当に俺はどれだけ彼女のことが好きなんだろう。最高に幸せなことだ。
それから戻って来た彼女が料理をする後ろ姿を見ていると、結婚生活というものをつい想像してしまう。
前世の時点でもうすでに俺に結婚なんて無理かもなと思っていたが、今の状況だけを考えると、この子と結婚しないという未来なんてありえない。だから俺はこの子のためにできる限りのことをしよう。
「今日は何をしようか。やりたいこととかある?」
一緒に朝食をとりながら聞いてみる。
「今日もここで一緒に過ごしたいな」
「外に出なくていいの?」
「うん。せっかくお泊まりに来てるんだもん、今ここでしかできないことだってあるはずだよ」
「それは確かにそうだな。一緒にゲームとか動画配信を観るとかはわざわざ外でする必要はないか」
「うん。それにまだあるよ」
「例えば?」
「一緒に寝ることかな」
「昼寝みたいなことか」
「ううん、昨日の夜みたいなことだよ」
「え?」
「だって思ってた以上によかったんだもん。ダメ、かな……?」
確かにここでしかできないようなことだが……。そんな目で見られたら断れない。
「連泊は難しいから早い時間でよければ」
「大丈夫、私もわかってるよ。だから食べ終わったら早速シャワーを浴びて、その後だね」
「さっき起きたばかりなんだけど」
「私もだよ」
「そうじゃなくて、まだ朝だよねってこと」
「うん。だから夕方まで時間はたっぷりあるね! そうだ! またお風呂を沸かして一緒に入ろう」
(この子は本気だ……!)
「私、すっごく楽しみ!」
なんという曇りのない笑顔なんだ……! 本当にただ純粋にそう思っていることが伝わってくる。そうだった、彼女はただ純粋にエロいのだということを忘れていた。
もちろんエロが不純だということではなくて、それはきっと彼女の愛情表現の一つなのだろう。
「もう今日はずっとベッドの中で過ごそうよ! そして時々は二人でギュッとするの」
だからそんなことも言えてしまうのだろう。そしてそれもいいかもなと思う俺。
まぁベッドの中で過ごすと言っても、一緒にスマホを見たりするということもできるわけだ。そうか、そう考えると別にエロい意味とは限らないじゃないか。
……なんて思ってた時期が俺にもありました。本当にその通りになり過ごし方も半々といった感じで、ブレーキを踏んでない本気の彼女を見た。彼女の体力が凄すぎる……!
無言でただギュッとしてそのままなんて時もあったし。でも全然イヤな気分にはならない。
こうして夏休み最後の思い出は強烈なものとなった。




