第45話 R-18の一歩前
「そのバッグの中身、お泊まりセットだったんだ」
「うん。階堂くんからいつ誘われてもいいようにって。だからずっと心の準備はしてたんだよ?」
それってつまり俺に誘われるのを待ってたってことだよな……? もしかすると朝陽奈さんはデートの度に「今日は誘ってくれるかな?」と、期待してくれていたのかもしれない。
でも俺にいつまでもそんな気配がないように見えたから、デートが終わる度に残念な気持ちにさせてしまっていたのかも。
そんなことを考えると嬉しい反面、彼女の気持ちを想像してなんだか泣きそうになってきた。
「ごめん。もちろん俺だって一歩踏み出したかったけど焦るのもよくないから、ゆっくりと信頼してもらおうって思ってたんだ。でも逆にそれが不安にさせてたなんて」
「階堂くんは何も悪くないよ。私のことを大事にしてくれてるなって伝わってきてたから。だから階堂くんのタイミングに任せようって思ってたんだ」
「ありがとう。それなら今日は二人で初めての家デートをしようか。でもその前に朝陽奈さんの家族みんなから許可をもらわないと。ダメなようならもちろんそれを尊重するからさ」
「みんなに聞いてくるからちょっと待っててね」
「それはもちろん。むしろきちんと話しておいてほしいかな。俺の名前とか家の場所とか、ありとあらゆる情報を伝えてくれていいからね。責任というかなんというか、真剣に付き合っていこうって思ってるから」
「うん。それじゃ行ってくるね」
朝陽奈さんはそう言い残し、家の中へと入っていった。
すでに家族には彼氏ができたってことを話しているらしい。みんな喜んでくれたって言ってたっけ。
でも泊まりとなるとまた別の話だろう。なんといっても俺達はまだ高校生なんだから。
だからといって「友達の家に泊まる」なんて嘘はついてほしくないし、俺としても本当のことを話しておいてほしい。
不審者だと思われないよう気をつけて待っていると、玄関ドアが開かれた。
だがそこには朝陽奈さんともう一人、女性が一緒だった。
茶色がかったミディアムヘアで、朝陽奈さんと同じくスタイル抜群。俺の第一印象は『美人』で、彼女よりも背が高くそれでいて大人っぽさを感じる。
お姉さんがいることは聞いていたので、おそらくこの人がそうなのだろう。
まぁそのお姉さんってのは原作にはない裏設定なんだけど。
「お待たせ。お姉ちゃんがどうしても階堂くんと話したいって言うから連れてきちゃった」
「君が階堂君ね? はじめまして、姉の詩恩です」
「はじめまして、階堂です」
「君のことはいつも陽香から聞いてるわよ。妹を大切にしてくれてありがとう」
「いえ、そんな。俺のほうこそいつも楽しく過ごさせてもらってます。俺は本当に幸せ者ですよ」
俺がそう言うと、詩恩さんの顔がググッと近づいてきた。さすが姉妹なだけあってパッチリとした目元はそっくりだ。
(なんかめちゃくちゃ見られてる……?)
詩恩さんとバッチリ目が合う。だが目線を落とせば彼女と同じくらい大きな胸にロックオンしてしまう。
彼女の目の前で姉の胸をガン見するなんて、もはや狂気の沙汰。それだけはなんとしても避けねば!
というわけで詩恩さんの目をジッと見る。いったいどのくらいの時が経ったのだろう。ほんの数秒だとは思うが、体感はもっと長い。
そしてようやく詩恩さんが離れてくれた。
「フフッ、階堂君、可愛いわね。うん、信用しようかしら!」
「なんだかよく分かりませんけど、ありがとうございます」
「陽香、お父さんとお母さんには私から言っておくわね。きっと二人とも賛成してくれると思うわ。いつも応援してくれているものね」
「ありがとうお姉ちゃん。……あ、ちょっと忘れ物したかも? ちょっと部屋まで戻るね」
そう言って彼女は再び家の中へ入って行った。ということは、詩恩さんと二人きりということに。何を話せばいいのだろう。
「ねぇ階堂君。君は今夜どうするつもりなのかしら?」
「部屋で一緒に過ごそうと思ってます」
「うん、それはそうだと思うんだけど、恋人としてもう一歩進んだ関係になる気はある?」
「正直に言うと全くないわけじゃないです。ですがやっぱり一番はもっと彼女と一緒の時間を過ごしたいなってことです。もしその中でいい雰囲気になったとしたら、自然に身をゆだねます。俺一人で決めることじゃないですから。まだ高校生なのに早いかもしれませんけど」
「そんなことないわよ。高校生だからって、えっちなことをしてはいけないなんて決まりはないからね。守るべきことをきちんと守ったうえでなら、おかしいことは何もないと思うわ」
詩恩さんはきちんと真面目に考えてくれているようだ。さすが大人だな。
「あ、それともう一つ大事なことを伝えるわね。陽香はね、胸が弱点よ。いつも触ってる私が言うんだから間違いないと思うわよ」
「そ、そうですか……」
それを俺に言う意味とは?
そして無事に姉公認となり、俺の家に着いた。俺は一軒家で一人暮らしをしている。親戚の家だけど誰も管理する人がおらず、このままだと空き家になるということで、わりと高校が近かった俺が住むことになった……らしい。
一人暮らしなら前世で経験があるから問題ない。何もなさすぎて本当に一人だったけど。
いくつか部屋があるものの使っている部屋は一部屋で、ゲームなど自分の好きなもので埋めている。
「ここが階堂くんの部屋かぁー」
「普通の部屋だよ。あ、そこに座って」
それから二人でゲームをしたり動画配信を観たり、ごく普通の楽しい時間を過ごした。
夕食は彼女が作ってくれた。そういえば原作では趣味が料理だったっけ。うーん、もう原作ならどうとか考えるのはやめようかな。だって彼女は間違いなく生きてるんだから。
「階堂くん、お風呂入ってもいい?」
「いいよ。もう沸かしてあるから」
「それじゃ入ってくるねー」
ここにきて、本当に泊まるんだなという実感が湧いてきた。
(あれ? そういえば前世も含めてこんなこと初めてだぞ……?)
そんなことを考えているうちに、風呂上がりの彼女が現れた。顔はほんのりと赤く、熱をおびているようだ。
ピンクのTシャツ一枚に白いショートパンツという、またもや露出度の高い服装。家にいる時はいつもこういう感じなのだろうか。
「そういうラフな感じも可愛いね」
「ありがとうー。デートの時と同じようで実は違うところがあるんだけど、どこかわかる?」
「うーん、色の組み合わせとか?」
「残念。正解は『着けてない』でしたー」
「ちくしょう、外れたぜー!」
それを俺に言う意味とは? 予想外の答えに俺は普段なら絶対にしないようなリアクションになってしまった。
「階堂くんもお風呂入ってきてね。それが終わったらお話ししよう!」
「楽しみにしてるよ。それじゃ俺も風呂入ってくるから」
「あっ、ちょっと待って……!」
彼女はそう言って俺に近づいてきた。そしてその直後、唇に柔らかな感触が伝わる。
それは彼女からのキスだった。前みたいに軽く触れるだけのものじゃなく、今度はしっかりと。
風呂上がりの彼女の熱が唇から伝わってくるかのようで、鼓動が早くなる。
「これでお風呂に入ってる間も私のことを考えてくれるかなー? なんてねっ!」
どうやら今夜は特別な夜になりそうだ。




