第42話 そういう気分になってもらわないと
文月 流菜の部屋ではいつもの四人が集まっている。朝陽奈 詩恩から文月姉妹に会いたいと連絡をしたからだ。
妹の陽香を応援してくれると文月姉妹は言ってくれた。
だからきっとその気持ちを汲み取って、可能な範囲である限りは二人にも話そうと考えているのだろう。
そしてローテーブルの上には以前と同じく、美少女が表紙を飾る小説がところ狭しと並べられている。実はすでに読書タイムは終わっているのだ。
「詩恩から聞いたよ。陽香ちゃん順調だって。ちゃんと当てたとも聞いた!」
「ありがとうございますー!」
「それで彼氏君の反応はどうだった? 喜んでくれたんじゃない?」
「ちょっと恥ずかしそうにしてましたけど、嫌がってはなかったと思います。だからずーっと当てちゃいました」
「いいねぇー! やっぱり私、陽香ちゃん好きだなー」
文月 亜希はそう言って陽香に抱きついた。
「私も亜希さん好きですー!」
その様子をしばらく眺めたあと、流菜が陽香に問う。
「それで階堂さんに何か変化はありましたか? 陽香さんがそこまでやったわけですから、きっと階堂さんにも伝わってるはずです」
「うーん、特に何もない……かな? いつも通り優しかったよ」
「まったく、どうやらまだまだ階堂さんの癖を攻めて興奮させる必要がありそうですねぇ……」
流菜の言葉を聞いて最初に口を開いたのは詩恩だ。
「そうなの。私も流菜ちゃんと同じようなことを考えているのよね。どちらか一方だけの気持ちが盛り上がっていてもダメで、やっぱりお互いの気持ちが昂っていないと、えっちなことにはならないと思うの。だから階堂君にもそういう気分になってもらわないと」
「まぁそうだよねぇー。お互いの同意ってのは大前提だから。それで詩恩、彼氏君の癖を攻めるって具体的にどうすんの?」
「癖っていうのは何も身体的なものだけじゃないわよね?」
「シチュエーションってこと? それとも関係性かな? 例えば幼馴染とか」
「そうね、属性っていうのかしら? 例えばここにある本のタイトルだけでも、先輩・後輩・同級生・幼馴染・義妹というように複数あるわよね?」
「それなら確か彼氏君は同級生が好きなんじゃなかったっけ?」
「それは私もそう思うけど、もしかすると他にもあるかもしれない。でもそれって関係性だから今さら変えることはできないわよね」
「そっかあ。そうなるとあとは性格、かな? 例えばSとかMとか」
「そう、それよ。性格なら変えられる。いえ、演じられると言ったほうがいいわね」
「詩恩が言いたいこと分かった。彼氏君の癖に刺さるよう陽香ちゃんがいろんな属性をやってみるってことだね」
「そういうことよ」
「つまり私が演技すればいいってこと?」
「確かに演技ではあるんだけど、でもそれは自分を偽るということではなくて、少しでも恋人に喜んでもらいたいという想いを込めたものだということよ」
「うーん、ちょっとわかんないかも」
「もし階堂君が陽香に喜んでもらうためにいろいろと考えてくれていたらどう思うかしら?」
「きっと私のために考えてくれてるんだなって、やっぱり好きって気持ちになると思うよ」
「そう思うわよね。だから階堂君が陽香のことをもっと好きになってくれるように、そしてもう一歩踏み出そうと思ってくれるようにと願って行動することは、決してあざとくもおかしくもないと私は思うわ」
「私も詩恩に賛成ー! 自分のためにそこまでやろうとしてくれる陽香ちゃんが愛おしくて仕方ないって思わせちゃえ!」
「はいっ! でも何をどうすればいいのかな?」
陽香の問いに一番に答えたのは流菜だ。
「私がパッと思いついたのは、ツンデレ・ヤンデレ・クーデレ・ドS・ドM・ボクっ娘・天然、くらいですね。きっと他にもたくさんあると思いますけどキリがないですから」
「ちょっと流菜、激エロが抜けてるじゃん」
「ホントだ、私としたことが。激エロも追加で」
「思ったよりも多くてビックリだよ。私、ちゃんとできるかな」
「陽香。そこはほら、テーブルの上にいい教科書がたくさんあるじゃないの。タイトルに書かれてるものもあるから、気になったものは読んでおくといいわよ」
「そういうことでしたらお貸ししますよ。陽香さんのためなら全部でも構いません」
「ありがとう流菜ちゃん。それなら何冊か借りるね」
「もちろんどうぞ。陽香さんのためなら何でも協力するつもりなので」
「さぁ、陽香ちゃんのことも決まったことだし、読書会の続きといこうかー」
そしてまた四人は時に体をくねらせ落ち着きを無くしながらも、それぞれ小説を読み進めた。
そんな話し合いがされていることなど知るはずもない階堂は、果たしてどんな反応をするのだろうか。




