第21話 裏設定
「俺と朝陽奈さんが仲良いって、そりゃあ同じクラスなんだから話すことだってあるだろうさ」
「違いますよ、私が言いたいのは体に触れられるほどの関係なんですねってことです。勝手にそんなことしたら普通は距離を置かれますよ。ビンタされてもおかしくないでしょうね」
「確かにさっきのは軽率だったと反省してるけど、朝陽奈さんが何を言おうとしてたのか文月さんも分かっただろう?」
「もちろんですよ。この本のタイトルですよね」
「いくらなんでもそんなことをここで言うのはマズいと思わないか」
「そうですか? 確かに周りに人はいますけど誰も私達のことなんて気にしてないと思いますよ」
「俺だけなら別にいいんだけど、朝陽奈さんが変に思われてしまうかもしれないじゃないか」
「階堂さんって何気に優しいですよね。でも前に私も同じことをされたこと、忘れてませんからね?」
「悪かったって。でもあの時はなんかゾクゾクするとか言ってなかった?」
「そうですよ? あの不思議な感覚、どうにも説明できない良さがありましたからねぇ。ところで階堂さん、朝陽奈先輩さっきからずっと唇を触ってますよね」
そう言われたので朝陽奈さんを見ると、左手の人差し指と中指で自分の唇にそっと触れており、なんだかボーっとしているみたいだった。
「朝陽奈さん?」
「えっ……! あっ、ごめんね。私ったらボーっとしてしまって……。えっと、なんだっけ? あ、そうだ、ここに載ってるような本ってどうすれば買えるの?」
「この画面から注文できますよ。でも私達が買うのはやめたほうがいいみたいです、年齢的に」
「そっかぁ。残念。それなら文月さんも買えないよね」
「いえ、私はお姉ちゃんにお願いしてますから」
「そうなの? だったら私もお姉ちゃんにお願いしてみようかな?」
なんだその裏設定……。文月さんと一緒じゃないか。そんなこと原作では一切描写がなかったのに。
「ぜひおすすめします! どうやら私と朝陽奈先輩って気が合いそうですね。ぜひ連絡先を交換しませんか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます。あ、ついでに階堂さんもお願いします」
「えー……」
「なんで嫌そうなんですか。いいじゃないですかー」
「変なことで連絡してくるのはやめてくれよ」
「わかりましたー」
心なしか文月さんが楽しそうに見えた。朝陽奈さんはというと、なんだか目線を下に向けている。俺はつい釣られてしまい、少し覗き込むようにしてその目線の先を見た。
すると朝陽奈さんが右手でスカートを少しめくっていた。といっても全部じゃなくて、右の太ももだけが半分ほど見えてる状態。文月さんからは机が邪魔で見えないだろう。
「あのっ、階堂くん、文月さん。私ちょっとお花を……。このままだととっても落ち着かないから。ごめんね」
朝陽奈さんはそう言うと、俺達の返事を待つことなく足早に教室から出て行った。
「お花摘みか……」
ついボソッと言葉が漏れた。
「いえ、私は違うと思いますよ。ところで階堂さん、私やっぱり朝陽奈先輩とはいい関係が築けそうです」
「趣味を理解してくれそうだから?」
「それもありますね。階堂さん、朝陽奈先輩ってどんなシチュエーションが好きなのか知ってますか?」
「質問の意味が分からない」
「では質問を変えましょう。朝陽奈先輩って何に興奮するんですか? NTRですか? BSSですか?」
「変えた意味ないじゃないか。俺が知ってるわけないだろ」
「そうですか。でも相手の好みを探っていくのってなんだか昂りますよねぇ? 少しずつ暴いていく楽しみがあると思うんです」
「普通は暴かれたくないと思うけどな」
「とりあえず私、まずは朝陽奈さんの好みを知りたいなって思ってます」
「朝陽奈さんが答えてくれるならいいんじゃないか?」
「階堂さんも知りたいですよね?」
「知ってどうする?」
「さあ、どうしましょう?」
朝陽奈さんがいないだけで会話がグダグダだ。
でも確かに朝陽奈さんの好みをもう少し知りたいなと思う。癖のことじゃなくて好きな食べ物や好きな場所、趣味など。
(よし、もう一歩踏み出そう)
もうすぐ昼休みが終わる。さすがに文月さんは自分の教室へと戻っていった。
それと入れ替わるように朝陽奈さんが戻って来たが、その表情はどこかスッキリしていた。




