その8
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虚ろに快晴の空を見上げ大きく息を吸い込みハァーと吐き出す伊達眼鏡を掛けた人。
目覚めて早々に血生臭さと土の香りが鼻を突く。
視線を落とせば肩から腰までパックリと傷口を開いた水華の少女。
膝をつき逃げることも叶わない少女に彼は手を伸ばす。
止めを刺すかのように血管の浮き出た腕で頭に移動させる。
「ひぃっ!」
殺られると感じたシルアは目を瞑り肩をビクッと震わせ怯えた。
頭上に人の手の感触が伝わり、ここから頭蓋骨を砕かれるかと思いきや優しく三回ソフトタッチしたのち撫でてきたのだ。
よく彼女にされていた愛情表現のやり方に驚きつつもシルアは目の前にいる彼に問い出す。
「……絢音……なの?」
「――うん。 一年ぶりだねシルア」
姿形は違うくとも口調に触り方は間違えようがない本人だと分かった途端にシルアは一粒の涙を流した。
もう世界にはいない絢音に会えることはなく人間を憎み続け、殺し回るだけの人生を送る筈だったのに夢を見ていると錯覚すらする。
なのにこうして前触れもなく絢音はこの世に居て咎めようとせず優しく接する彼に抱きついていた。
痛みよりも再開の感動が上回り傷口のことなど忘れていた。
「なんで……もっと……早くに会いに来なかったのよ……絢音」
「ごめんね、辛い思いをさせちゃって。 予想以上に器となる彼が見付からなかったみたいでね」
「……毎日毎日辛かったんだから」
「――ほら、応急手当しないと血が止まらないよ。 治癒魔法はないから包帯でね」
グズリ泣くシルアを抱き締めながら自らの上着をブロックに変換し傷口に沿って布を敷くように創造をする。
簡易的な治療だが血は止まり生命を脅かすことはなくなった。
抱きついているシルアを力付くで剥がし周囲を警戒するように立ち上がる。
「もう離れないよね?」
「それは出来ない相談ね」
「な、なんでよ! 現世に蘇ったのは私とまた旅をするためじゃないの?」
「はーずーれ。 ……名残惜しいけど感動を分かち合うのは奴等を始末してからね」
「――えっ?」
変鉄もない荒野に視線を飛ばし眼光を走らせている。
人影など無いのにその一直線をずっと睨み続けている絢音に不安が膨れ上がるシルア。
何か見えない者がいるのではないかと?
「野獣化しなかったから気付かなかったでしょシルア。 微かな足音がそこら中から聞こえたの……さっきからね」
「……何者なの? 絢音との再会を邪魔するものは!」
水華の象徴である猫耳が髪で埋もれていたとこから解放する。
聴力は格段と上がり身体能力も向上したシルアは透明化した複数人の相手に向かって吠える。
「やれやれ、腐っても後継者と言ったところか。 我々の気配を感じ取るとはな」
透明化をするマントを脱ぎ捨てて氾濫した大地に現れたのは五人の水華。
隊長らしき者を中心に並び猫耳を出した状態で本気モード。
創造するブロックもなく重症のシルアがいるのにも関わらず一切焦ることなく、むしろニヤッと笑みを浮かべた絢音。
「黒幕はやっぱり華咲一族だったようね」
「ど……どうゆうことなの? なんで私の故郷の一族がここに?」
「華咲一族の秘宝、創造の具現化を内包した魂を取り返しに来たってことよ。 裏切り者であるシルアと俺を葬り去りに……疲弊したとこを狙ってね」
「で、でもどうやって居場所まで探り当てたのよ!」
無言のまま絢音はガラスケースから金色のブロックを溶かし身体に振りかける。
馴染みのある姿になるべく戦い適した本来の彼女になるための変化。
肉体が溶けるように煙が沸き上がり容姿に変貌を遂げる。
男性の身体からは女性の身体へと。
「それはね簡単よシルア。 千里眼でずっと遠くから視ていたの……俺が死んだ日から」
「絢音が死んだ事実はカルア、リーネと私だけしか知らないはず……」
「ゼロから仕組まれていたのよ。 世界に一つの魔法を使い洗脳されたさえ気付かない人間を内部に潜り込ませ、検査に引っ掛からない魔法ゆえに安全と思い込ませたのち俺をこの場所へと連れ込み同類に殺害させた。 同類に殺らればシルアの性格をよく知る一族は逆上して人間を殺しまくると算段していた。 秘宝奪った弱小種族が憎いがために無関係な人達も標的になったてわけ」
愕然と脱力し自らが人間を殺める行為が一族の手のひらに踊っていたことに唇を噛み締めた。
利用されていたことに腸が煮えくり返るかのように悔しさと怒りが沸々と熱が上がってくる。
どうしようもない怒りを地面に拳を叩いて発散させるしかなかったシルア。
怒りは収まる気配はない。
「あのー、ストレス発散してるとこ申し訳ないんだけど……」
「……にぎゅ……なによ絢音!」
「奴等は選りすぐりの精鋭部隊のだから手加減出来そうにないけどいいかな?」
「別にいいわよ。 抜け忍なんだから」
「ふふっ、許可も得たことだし華咲一族の計画阻止といこうか」




