その7
「ぁぐ!? ピンポイントで当てるなんて!」
「チェックメイトだ!」
予想適中。
苦痛の表情で重量のある隕石を受け止めるには全身で支えないと出来ない芸当だ。
天黒刀でもあれだけの物量を吸収するには数秒はかかるだろう。
つまり投擲した鎖鎌から逃げることは叶わない。
俺の勝ちだシルアよ。
「……人間風情にこれを使うなんてね。 秘奥技、蓮華氾濫!」
背筋が氷結したように寒気が支配した感覚に襲われる。
全速力で逃げろと脳が警鐘を鳴らすが後退する命令を無視して、頭上に展開した魔法をブロックに戻し防護壁を創造する。
「な……んだ……この技は!」
盾の内側から目にした光景は風圧の濁流が大地を喰らっているかのようだ。
シルアを中心に途方もない衝撃波は隕石を砕き大地まで破壊の限りを尽くす秘奥技に呆然とするしかない。
秘奥技が終わったのか斬撃破は止み、砂ぼこりが舞う。
強風が吹き砂ぼこりを退かすとシルアは放出する姿勢に移っていた。
「布石を使いきったあなたに止めれるかしら?」
「……ちきしょう!」
指輪を全て使いきった俺に止めれる方法はない。
創造した魔法を放り投げてもシルアは回避のみに専念し放出するだろう。
かと言って近接戦闘に持ち込めば斬り捨てられる
。
――どうしたら……どうしたら……どうしたらいい!
「放出」
吸ってきた物質を吐き出す呪文。
策に策を練って物質をありったけ天黒刀に吸収させていたのに何もせず放出させていいのか?
いや、そんなことは許されない。
あと少しで天黒刀の限界がそこまで来てるのだ。
今、気張らないと何もかも無駄になり無様に殺される。
――命を掛けるしかない。
容量がない俺にはそれしか出来ることはないだろ。
恐れるな。
ただ突っ込むだけを考えろ。
前任者の遺言をキッチリと果たすまで挫折する訳にはいかない!
「小細工なしだシルア! 物量戦で勝負だっ!」
身体強化の魔法を振りかけただけの生身で漆黒の剣士に突撃する。
策などは有りはしない。
ただ奴の放出を止めるだけの為に疾走するのみ。
間に合え! 届け!
「はぁぁぁっ!」
二刀の刃で天黒刀だけに的を絞り振るい降ろす。
一刀は空振りに終わり目の前に凶悪の刃物が現れるともう一つの剣で防ぎきる。
何とか受け止めたがチリチリと火花が散り剣に食い込んで来る。
このままだと剣を折ったのち身体を抉られる!
「へぇ、驚いたわ。 あれほど接近戦を嫌がってたあなたが自ら踏み込んでくるなんてね。 だけどね……勝算はあるかしら!」
「――さあなっ!」
強気な物言いで返したが勝算など有りはしない。
俺が出来ることはたった一つ。
常に創造し天黒刀にぶつけるのみだ。
剣術が数段上だろうと俺の技能であれば防ぐことぐらいは可能だ!
「ほらほら、着いて来れるなら着いてきなさい!」
――見える。
身体強化した恩恵で動体視力も向上している。
見えなかった剣の切っ先を捉え空いている刀で受け止める。
壊れればまた空っぽの手から刀を複製しろ。
――絶やすな創造を。
この戦いはシルアに勝つではない。
俺自信への戦いだ!
「ぐおおおおおああっ!」
早く早く早く!
もっと早く創造をしろ!
武器の形状など気にするな。
一撃を耐えうる装備でいい。
シンプルに簡潔で創造しやすいイメージで武器を作れ!
――なんでもいい。
効率の良い武器を常に両手に携えておけ!
「こ……いつ!」
幾度も刀はぶっ壊されば複製し何度も何度も天黒刀を防ぎ止める。
脳を動かすより早く身体が勝手に絶え間なく刀を創造。
思い浮かべる必要はない。
もっと高みへ創造するのみ。
「さっさとくたばれ人間があああっ!」
より高速の剣捌きにはより音速の創造で上回るだけだ。
人の域を越えた創造の速度に身体が悲鳴をあげている。
そんなことは知らない。
脳が創造するなと命令するのすら煩わしい。
熱で沸騰しそうな身体を更に動かしシルアの剣撃を対応していく。
「お前の剣撃ここまでよ」
「――しまっ!」
要のポーチの紐を切られ地面にどしゃりと落ちた。
やばい……これでは創造を出来ない。
拾い上げる暇などシルアは与えてはくれないだろう。
手のひらにブロックは二つしか残存がない。
あと三種の物質を取り込ませれば破壊できるとゆうのにクソ!
……まだ諦めない。 諦めてたまるか!
「惜しかったわね。 後継者さん」
縦に一線をするだけの単調な斬り下げに両剣で迎え撃ちかち上げる。
これで攻守のブロックは手元にはない。
次の一刀に対処すべき手段はなく死を迎えるしかない。
――ここまで来て。
――ここまで来たのに。
あと一種類なのに……届かない…………こんちくしょーが!
すまない前任者。 俺はここでリタイアだ…………。
「バイバイ。 死後の世界で私の殺戮ショーを悔やみながら観戦してなさい!」
禍の狂気の一太刀。
脳天をかち割る斬撃には回避する時間もなく創造をする間もない。
確実に討ち取ったと狂った笑みで刃を降ろす顔。
抵抗する気力がないまま後継者は死んで行く……。
――
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――――――
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――――――――――なんてな。
お前が勝利を確信したこの時を待ちわびていた。
挑発、苦悩、断念と今の今まで表情や戦闘の全てが演技だとしたらどうだ。
対人戦においてもっとも重要なのは相手を騙すことから始まる。
偽の情報を流されたお前は対面した時から俺の手のひらだったのだ。
「く……ぐっ!」
油断しきった場面では相手が罠を仕掛けているなど気にはしないだろ。
創造にするに必要な物質が無いと考えてたら大間違いだ。
日頃からお付き合いしている目には見えない物質がそこら中に舞っているだろう。
――そう、空気だ。
だが、一つだけ疑問が残ったことがある。
身近に空気があるにも関わらず天黒刀は吸収しないのに意不を抱いていた。
それはなぜなのか……答えは簡単だった。
天黒刀は触れた物ならなんでも物質を吸収はするが使用者が認識出来る物質に限るのだ。
つまり空気は物質として認識はしていなかった。
てことは認識出来るほどの圧力をシルアに目視させればいいだけの話だ!
「うっ……」
周りの空気をブロック化したことにより酸素が無くなり息苦しくなる。
呼吸しづらいと同時にシルアの笑みが崩れて驚愕した表情で見つめてくる。
逃避手段は皆無。
両手には空気を圧縮した風の刃を生成し漆黒の剣を迎え撃つ。
左手の一振りで天黒刀と交えると風剣は消滅し奴の剣にも変化が訪れる。
剣先から柄までひび割れが入り物質吸収の限界を達した天黒刀は脆く崩れガラス破片に変貌した。
「う……そ……」
人間だからだと力を出し惜しみ、貧弱だと慢心したからこそ愛用の剣を無くし破壊されるのだ。
放心状態だろうが右手に掴んだ風の剣は離さない。
容赦なくウインドアローを肩から腰までに掛けて斬り込んだ。
「うぐがぁっ! げぐぅっ!」
何百人ものの命を奪った漆黒の剣士の血はそれは真っ赤で黒くはなかった。
闇に堕ちた種族でも血は綺麗なんだと変に感心している自分にバカさを覚える。
とにかく止めを刺す……てことはしない。
石碑の言い付けで後の事故処理は彼女に任せよう。
さあ、俺の役目は全うしたぞ。
「さて、後始末はどうなるやら」
ポケットに閉まったガラスケースを取りだし紺色のブロックだけ手に持ち創造を開始する。
見た目も悪くない大きな縁の伊達眼鏡を造り上げ装着した。
この道具は前任者と意識を入れ替わるアイテム。
シルアの命をどうするかは俺の役目ではない。
人類最強がどう決断を下すのかは神のみが知るだろう。
次第に視界が歪み意識は深い闇へと落ちていく。
あとは任せたと囁き彼女に託した。




