その21
「がはっ………がっ……っ……」
「なんで……なんで来たの……」
意識が朦朧とするなか今にも死にそうなか弱い声がした。
見上げると桃色の花柄の和服を着た女性がいるのは分かる。
「――すでに満身創痍とは……我が手を下すまでもあるまい」
声の主は誰かは存じない。
だが、カルラを連れ去り閉じ込めた元凶とは直感で告げる。
コイツを叩きのめさないといけない。
「そいつは……どうかな?」
ラスボスの相手に何の策もなく体力を減らし残機がない状態で挑むと思うか。
そう、カルラが閉じ込められた部屋に入ってからが勝負だ。
後ろポケットに取って置きの魔法ブロックを手に取り胸の中心に押し当てて創造する。
焼かれた皮膚は新たな皮膚を再生させ、麻痺で動かない部分の毒素を吐き出し、刺された箇所は傷口を閉じ筋繊維を繋げ、潰れた眼球は以前の目を復元させる。
足らなくなった血も増血させて万全の状態へと戻った。
「なんだと? 再生能力まで隠し持ってるとはな。 カルラ……余計なことを」
「…………」
視界がクリアとなりハッキリと浴衣姿の可愛らしいカルラがお目に入る。
そして浴衣姿の男がカルラの隣にいる。
銀髪のオールバックと紅き眼。
特徴はカルラと似ているとなると奴が父親となる。
全く……予想通りのカルラの敵だ。
やはり親が絡んでいたか。
「手を下すまでもないと言ったなあんた。 現在の俺はピンピンしてるが?」
「ふん、生意気な小僧だ。 たかだかアヤツの器となる分際目が」
「お父様!」
知られては不味いと険相な顔つきで父親に叫ぶカルラを見てニヤリと笑う親父。
弱点を発見した奴は更に語ってくる。
「お主も知らぬ事実を教えてやろう。 後継者よ、時か経つにつれてお主は自我を少しずつ侵食されていく。 つまりお主はそう遠くない未来自我をなくし……死ぬのだ」
「あっ……あぁ……」
カルラの目の焦点が合わず唇が震えていた。
誰にも知り得ない事実を身内に明かされ本人がいる目の前で言われたのだ。
満足したカルラの父親は楽しそうに高笑いをする。
絶望に感じながら悔いて死ぬ相手に笑っているのだろう。
「なぜ笑っている?」
「ワッハッハ、可笑しなことを言う人間よ。 お主は仲間だと信じた者に殺されるのだ。 笑わずして他にない」
「それがどうした?」
「ほお、死ぬのが怖くはないと。 裏切られても何も感じぬとはな」
「いいや、死ぬのは死ぬほど勘弁だ。 ただ、一つお前の検討違いは魂の侵食を起こされているのはとっくの昔に存じている」
場の空気が凍てつく。
他の者に秘密を明かさず霊闢しか魂の侵食を見抜くことができないのにって顔付きだ。
事実俺は気付かず日に日に侵食されていた。
創造は日に経つにつれて上手に理想の形を作ることが出来た錯覚をしていたのだ。
だけど違った。
侵食され彼女が生きてきた経験値を取り込んでいただけで俺自信の力はなに一つ存在しない。
「……いつから気づいていたのサクマ?」
「察してもなかったよ。 教えてくれたのは前任者だ」
「か、彼に会ったの!」
上体を起こし瞼を全開して問い掛けてくる。
リーネを救出する前の仮眠で彼女には会ったのは確かだ。
あれ以降会えなくなったが、恋しい彼女の話を聞きたいのであろう。
少しだけ語ってみる。
「あまり話は出来なかったけど色々と心配はしていた……だけど侵食されていて悲しそうな瞳はしていたよ」
「……ごめんなさい。 私の独り善がりの行動でサクマを殺して彼を復活させようとして……ごめんなさい ……もう侵食は止めれないの」
「ああ、何となく分かっていたよ。 起きたことは仕方ない」
彼女が俺なら元に戻せると言った時点で察してはいたのだ。
例えカルラを説得して侵食を止めようとしても発動したら最後、歯車は一生動き続ける魔法だと。
解術の方法は最初から前任者以外知らないのだろうと。
「こんな人間以下の最低な私を助けたい気持ちはあるの?」
「愚問だな、あるとも。 クズだろうが、ゲスだろうがカルラは俺の仲間だ。 仲間なら助けるのに理由はいらない」
ニコッと笑い返すと真珠の粒程度の大きさの涙をポロポロと流し泣き面になるカルラ。
許してくれた安堵に涙が出たのか全く止まる気配がない。
泣き声が密室の空間に響いていると床を足踏みする音で遮った。
さて、カルラ以外に父親殿に個人的用件が俺にはある。
「馬鹿馬鹿しい。 やはり奴に娘を任せたのが過ちだったわい。 無駄な情を付けよって」
「無駄な情だと?」
「そうだ。 国の繁栄のためカルラの能力は必須だ。 我が国のために働けばそれで良かったのだ。 感情などいらぬ」
坦々と国のために一生を過ごして死んでいけと娘に言ったのだコイツは。
何も考えず、何も感じず、国のために生涯を尽くせと……アホらしい。
そんな人生を送る娘に自由にしてあげたいと思わないのか。
……コイツは最も俺が嫌う分類のクソ野郎に当てはまる。




