その6
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「町の門並みにでけぇ……」
塩コショウのない油で炒めただけのキャベツ焼きを頂いたのち宿屋を後にし、ギルドの門前いる。
入る者は生きては帰さぬと言わんばかりのブラックホールの扉。
無駄に大きいので声を漏らすのも仕方ない。
はてさて門番が不在だが誰が開けてくれるのだろうか。
「入りますわよ」
名乗り出たのは麗しき金髪のリーネ。
重量感ある扉の前に立つとあっさり押し開けてしまった。
顔色一つ変えずに平然と先に行ってしまう。
「ギルドって初めてだわ」
そわそわと落ち着きがないながらも桃瞳のトルカも扉の開けて入っていく。
魔法のない俺に潜れるのか不安である。
「……心配してアホだったわ」
筋肉を膨張させて腕力を込め扉を押したのだが思いの他、見た目に反して超軽かったのだ。
中身がすっからかんなのか軽すぎて壊しそうである。
扉の向こうには赤い絨毯が真っ直ぐに伸びており、左右にはお洒落な純白のテーブルに丸い椅子。
何人かギルドの常連と思わしき者に視線が飛び交うが何事もなかったように話し出す。
「ここがギルドか。 清潔なとこだな」
「イメージと違って綺麗だわ」
「さっさと受注しに行きますわよ」
長居したくないのかクエストを受けたいと促される。
まあ、気持ちは分からないこともない。
回りは男しかいない部屋に女性が長く留まりたいとはならないだろう。
それに男臭いのだ。
汗とか脇の臭いがぷんぷんと舞っている。
消臭剤があれば設置していたい。
「おい人間がなに呑気に入ってきている? 気安く来ていい場所じゃねえぞ」
腕力には自信ありますと象徴する巨漢の坊主頭が近寄ってきた。
トルカにではなく俺にだけ文句を言ってくる。
いきなりモブに絡まれるとか運がない。
それにしても人間だと何処で理解したのか気になるところだが、追い出そうとする坊主をどうしたらいいものやら。
「てめぇの居場所じゃねえんだ。 さっさと失せな!」
「おーいトルカ。 助けてくれよ」
「ふぅ、サクマったらしょうがないわね」
「無視すんじゃねぇ!」
問答無用で顔面に目掛けて殴りにかかってくるが――トロく感じるのだ。
簡単に避けることが可能と判断した俺は首を傾けて交わし、坊主の力を利用して右腕を掴み背負い投げを行う。
フロア中にドンっと鳴り響き、手加減なく背負い投げをやったので背中を擦りながらうずくまっている坊主。
……おかしいな。
背負い投げなんて人生で一度もしたことないのにこうも簡単に出来てしまう自分が恐ろしい。
彼女の影響を実感した。
格闘で負ける気がしない実力差を身に感じてほどにだ。
「ハゲよ。 人間だからって舐めてかかるなよ。 話もせず暴力を振るおうとしたら次は……背中の痛みだけじゃ済まないぞ」
「……ぐっ」
念のため脅しておきました。
ギルドに入るたびに絡まれては心底うっと惜しい。
なのでハゲ以外の人間を下に見る種族どもに聞こえるよう腹から声を出す。
関わったら無事では済まないと恐怖に陥れるためにだ。
「ちぇ、せっかくサクマの役に立てると思ったのに出番なかったじゃない」
「すまんな。 コイツが弱かったから援護いらなかった」
実際はバクバクと心臓の鼓動が早く内心焦っている。
まさか殴りかかる相手を返り討ちにするなんてビックリしてるのだ。
前の俺なら顔面が陥没していた。
「それよりサクマって日に日に強くなってない?」
「そうかもなー」
「会ったときはヘッポコだったのにいつの間にか私を追い越して強くなってるわ。 ………秘密にしてることあるでしょ?」
トルカ……初出会いをそんな目で見てたのかよ。 繊細で純情な綺麗なガラス玉に傷が入りましたよ、ええ。
無意識に危害を加えようとする相手に刻鉄の蒼を打ち込むよう訓練されてるトルカからみれば頼りなかったよなー。
さて、内心で愚痴ったとこで俺の秘密を教えるべきか?
教えなければ執拗に付きまとわれ睡眠の妨げになる。
仮に話しても問題はない。
今の内に明かしておいてもいいか。
「いい機会だ。 俺の素性を話してやるよ。 ただ大ぴらに他人がいるとこでは話せない内容だから二人っきりの時に秘密を明かすよ」
「うんうんよろしい。 楽しみにしてるわ」
低姿勢で顔を覗き込み上機嫌である。
トルカとコミュニケーションをしてると自分の枷が外れていく。
あのじいさんの言葉は満更嘘ではなかったようだ。
にしてもつくづく可愛いポーズばかり取るのは反則である。
自然とはいえ誘ってるのかなと錯覚してしまう。
「トルカ、サクマ! いつになったら受付に来ますの。 男臭いのは苦手なんですから早くしてください!」
「ごめんごめん」
「すまない」
右瞼をピクピク痙攣させながら怒鳴ってくる。
ああ、やはり男臭いのは苦手なんだ。
ギルドに向かうのは嫌がってはなかったのに中に入れば急かすように外に出たがるのが合点する。




