その18
「……あの……サクマ」
「うん?」
もじもじと小股擦り胸を見せつけてくる。
トイレだったら下の階にいる店主の娘さんに言えばいいのに……それとも違う用件か?
「私やカルラを助けて下さり………あ、あり……ありがとうございました」
「ぐふっ! ごほごほ!」
予想だにしない不意打ちに心を撃ち抜かれた。
強気でサディストの彼女がいきなり感謝の恥じらい謝罪に咳き込まずには入られない。
股に両手を入れての赤面しながらの困った瞳で見つれられたら流石に吹き出すわ。
不覚にも萌えてしまった。
僕の仲間達はなぜこうも可愛い仕草をするのか……ほんとに。
「数々の無礼な発言に態度も最悪だったこと許してください」
「ちょちょいと待ってください。 リーネさんいきなりどうしたのですか? あなたらしくないですよ」
深々とお辞儀をするリーネさんに戸惑ってしまう。
急にしおらしくなる理由が見当がつかない。
調子が狂う態度の変わりっぷりだ。
「あなた……いえサクマは彼の代わりにもならない無能な人間だと見下していました。 ですがサクマは会って間もないの私を懸命に守って下さりました。 心の底から助けて下さり感謝してます」
人生の中で深々と感謝されたことはない。
なので身体火照ってしまい恥ずかしい。
まだ謝り足りない様子のリーネさんを止めないと精神的にこちらが参ってしまうぞ。
ある交換条件に許すと彼女に伝えよう。
「気持ちはよく伝わりましたのでフルネームを教えて頂ければ許します」
「そ、それだけでよろしいですの?」
「もちろんです」
「不思議な方ですわ。 ……私の名は天鬼・ラ・リーネと言います。 以後リーネと呼び捨ててお願いしますわ」
「……少し違和感が。 テンキって誰から付けられました?」
ラ・リーネまでは特に違和感はなかった。 テンキが何か名前にしてはおかしいのだ。
海外の方のフルネームでもおかしいと感じ取れるほどに変だ。
誰にヘンテコな名前を命名されたのか。
「私は拾われた身ですから名前はなく彼から授けて頂けましたわ。 ……由来が天使のように鬼可愛いで天鬼と名付けられましたわ」
おい前任者よ。 何となく察していたがやはり己か。
確かに天使のように鬼可愛いけどそれを名前にしなくてもいいだろうが。
本人が気にしてないのが幸いだよ。
「ふぅー。 当初の目的だったリーネの救出にカルラも無事なことだし、ひとまずは一件落着」
「……だといいですわね」
ボソリと何か呟いたリーネの怪訝な表情はどこか不吉な予感がしたが今は身体を休めよう。
彼女の記憶を湖の底から引き出したのだ。
いつ身体への反動があってもおかしくない。
少しでも身の負荷を軽減するため早めの就寝をしよう。
まだまだお喋りの足らないトルカとリーネを置いてソファーで横になる。
「もう寝ちゃうの?」
「久方ぶりに運動したからな。 疲れがピークだから寝かせてくれ」
頬をぷくーと膨らませているトルカだが無視する。
眠りにつきたいのだ。
あの死の攻防から生き残り暖かい部屋でふかふかのソファーで寝る心地良さは最高だ。
手順を間違えば命を絶たれるデスゲームに勝ち皆がいる。
これほど気持ちの良いものはない。
「夜はこれからなのにつまらないよ」
「いいじゃありませんか。 身を呈して救って頂けのですから休ませましょう」
「聞きたいこと沢山あるのに……」
意識が闇へと近づくにつれて耳が遠くなる。
何か言いたげなトルカの声も正確に聞き取れない。
呼吸をする音も心臓の鼓動の音も遠退いていく。 眠りの一歩手前まで来る。
そのまま誰にも邪魔させない深い眠りへと落ちた。
「ああ、寝ちゃったよサクマ」
「夜も深いことですし私達も寝ましょう。 明日に支障をきたしますわ」
「……ぐぬぬ」
すでに眠っている沙久間に声は届かず怒りながらも布団に潜り込み気分が悪いまま睡眠に入る。
釣られてリーネもスースーと寝息しながら夢へと誘った。
「……かっこ良かったよサクマ。 離れたくないけど…………さようなら」
寝沈み静穏な中、紅く灯す眼光の少女は起き上がりサクマの頬をキスをした。
希望を無くした瞳で部屋から出ていき夢の中にいる三人は知るよしもない。




