その17
喜びを噛みしめ涙を流したのち気を失っているトルカを頬を叩いて起こし、ぐっすりと熟睡するカルラを担いで塔を脱出した。
リーネさんは歩けるほどには体力を回復しており暗い夜道にいる。
行く宛はつい数時間前に泊まっていた宿。
金は持っていないが店主に頼み込んで休ませてもらうよう交渉するしかない。
なにより木造建築の宿しか行き場所がないのだ。 カルラは気持ちよく眠ってはいるが極悪な剣に刺されたのだ。
物質を吸収する恐ろしい能力で貫かれたにはまだ安心は出来ない。
「どこへ向かっておりますの?」
「リーネさんを助ける前に宿泊した木造の建物に向かってます。 もうそろそろ着きますよ」
「……あそこですか」
ガッカリしたではなく関わりたくないと言わんばかり残念そうな表情。
安い宿だから気に入らないのか?
口調もですわでお嬢様ぽいし……古臭いのは建物は性に合わないかもな。
誰にも遭遇することもなく目的の古びた宿屋へ到着。
やはり一際異彩を放っている異質の空間。
まだ店主は起きているだろうか?
静かに木製の戸に手を掛けスーと開ける。
受付に人影がある。
「いらっしゃいませ旅人さん。 その様子だと急を要するようですね。 今、お部屋空いてますよ」
「店主はいないか? 話がある」
「父は現在就寝してます。 話なら私が伺います」
現れたのは店主ではなく可愛らしい茶髪のミニロングヘアの娘さん。
くりくりの小動物の黒目がまた愛らしい。
……ばか野郎! そんな感想を述べている場合じゃない。
一秒でも早く休ませないと危険なんだよ。
「無礼も重々承知なんだが一室タダで貸してくれ。 コルトは後日支払う。 この通りお願いだ!」
「……うーん。 どうしようかな」
頬に指を当てて悩んでいる。
さすがに無茶があるかと思った矢先に店主の娘さんがリーネさんをジーと凝視している。
視線の先はリーネさんの山に伸びている。
まさか胸に興味があるのか?
「そうですねタダで泊まらせて上げます。 お代の支払いも要りません。 ただし条件があります」
「条件とは?」
「巨乳のお姉ちゃんの胸をぱふぱふさせてください!」
「よし、存分にぱふぱふしてくれ」
「勝手に決めないで下さい!」
これは速答だ。
ぱふぱふさけるだけでお代も無料となると安いものだ。
本人は不満足だが我慢してくれ。
カルラの為なんだ。
「覚えてなさいよサクマ。 部屋に入ったらお仕置きしてあげますわ」
やややめろよ。 内なるM属性が目覚めてしまったらどう責任を取ってくれるのだと一人ツッコミしている。
それとは別にあなたからサクマと呼ばれるようになっている。
あれほど毛嫌いしていたのに急に名を言われると心音が大きくなるな。
特別なことはしていないのに急な態度の変わりようが怖い。
「柔らかいなぁー」
ああ、至福な店主の娘さんを観察していると気持ちいいのだろうと羨ましくなる………いやいや、不純な気持ちは持たないでおこう。
トルカに顔面を潰されそうになったことを思い出すと身震いする。
1分程度ぱふぱふを堪能した店主の娘さんはお肌がつやつやに輝いていた。
その分リーネさんのフラストレーションが溜まった。
「ではでは楽しませて貰いましたし、お部屋の鍵をどうぞ。 二階に上がっていただいて突き当たりになります」
「恩に着るよ」
「いえいえ満足させてもらったお礼だと思って休んでください。 変態のお兄ちゃん」
「…………」
え、なにこの子。
初対面で変態と言われるなんてショックだぞ。
変態な行為や言動はやっていない。
どの基準で決められたのか理解しかねる。
……まあ、今はいい。
追求するのはカルラの安全を確保してからだ。
鍵を無言で受け取り木製の階段を早足で進める。
一番奥のドアに着くと鍵穴に鉄製の棒を捻り解除する。
赤い魔法の扉をくぐり抜けゆっくりとカルラをタブルベッドに仰向けの状態で寝かせる。
一度泊まった部屋なので見取り図が分かっていて迅速に行動できた。
「……カルラ」
「……カルラちゃん」
「あなた達カルラの心配には及びませんわ」
心配しなくてもいいとは一体どうゆうことだ?
傷が治っていることと何か関係でもあるのかと推測する。
「カルラには超回復能力が備わっておりますの。 ですので傷がないのもそのためですわ。 傷が深いほど魔法を大量に要するので、魔法切れで眠っているのでしょう」
「だからか」
かすり傷一つもない理由は自己修復をする能力で助かっていたのか。
だとすると霊闢の能力とは別に個人能力だと分かる。
魂の移動が可能で能力を他者に移せると超回復か。
能力を複数所持しているとは有望すぎる。




