その2
清々しいほどの真顔でキッパリと宣言してくれた。
恥ずかしいのはもちろん僕の黒歴史を掘り起こし作業が消え去る。
言われる度に壁に頭突きして死にたくなる屈辱を受ける。
墓場まで持っていきたい秘密だ。
「さほど気温は高くないのに湿気がジメジメして暑いな」
「気温、湿気……てなに?」
忘れていた。 レクシリアの世界では科学が発展してないどころか、科学の文字さえも知り得ない。
魔法に特化した異世界。 人口低下が止まない異世界。 それがレクシリアだったな。
世界観を学んでいないので生態系、魔法の種類、バルネギカの正体やら以降割愛、もろもろ情報不足のままだ。
代表者を取っ捕まえたら訊きたいこと滝の山ほどある。
「ああ、気温ってのは分かりやすく暑く感じたり、寒く感じることだ」
「いまいち分からないわ」
「そうだな~。 砂漠にいる時と、草原にいる時はどうだった?」
「砂漠は暑くて、草原は涼しく感じたけどそれが関係あるの?」
「つまりその一帯の温度のことを気温って呼ぶんだ。 ここは寒いなとか」
「む、難しいわね。 頭が痛いわ」
理科の勉強は苦手みたいだ。 いじるのは理科で攻めたほうが楽しそうだな。
こめかみを指で押さえて覚え中のところを追撃してみる。
「湿気なんだが……」
「――もういいわ! 私には必要ない知識だわ」
「そう威張らずに聞いてけ、聞いてけ」
「威張ってないわよ。 生活には困らないからいいの」
「湿気とは――」
「しつこいわよ。 サクマ」
「空気中の――」
「死に足りないようね。 お望み通り三途の川一泊二日ツアーに招待してあげる」
ジト目でうっすらと笑っている。 瞳には生気がない。
ボルテージマックスのようだ。 殺気が半端なく伝わる。
指の骨をポキポキ鳴らして距離を詰めてくる。 殴打する気まんまんじゃないか。
……冗談抜きで二、三本へし折られるかもしれんな。
迷わず逃げるを選択だ。
「後ろに下がらないで此方に来なよ? 極上のマッサージをしてあげるわ」
「極上じゃなくて地獄だろ」
あの光ってる両手で極上のマッサージをしますなんて嘘もいいところだ。
大地も砕く刻鉄の蒼。 岩を破壊するなんてお手のもの。 重量が相当ある物でも持ち運びも可能。
いわば手にのみパワーアップの魔法が付与されているのだ。
経験上、巨体のバルネギカを二発で仕留めた拳で触れようとするのでリンゴ飴のごとく軽く潰される。
謝罪は日を改め――逃走を謀る。
「黄昏の森を抜けた付近でまた会おう!」
「逃げるなサクマ!」
逃げるななんて無茶にもほどがある。 だったら刻鉄の蒼を収めてくれと言いたい。
激昂の彼女に命令は聞かないだろうし逃げるがベストだ。
「どれどれ。 追いかけてる様子はと……………って、バルネギカ! 逃げてる場合じゃないぞ」
不吉に光る紅の瞳。 黒色の結晶が翼に生える鳥形のバルネギカ。
合計五匹。 体躯は大鷲ぐらいのデカさだが数が多い。
早くトルカの援護に参加しなければ身が危うい。
いくら彼女が剛腕だとしても数が多すぎる。 手持ちのブロックはたった五つ。 材質は石。 奴らを拘束するだけのストックは丁度あるが間に合うか?
「考える前に行動だ」
彼女が戦闘をしやすいようバルネギカを拘束する。 役割はそれだけだ。
想像し造り出すのは三本の針が三角に形どる槍。 飛行を邪魔するには十分のはずだ。
造り出してから飛んでいく変わった槍は上空を舞うバルネギカに襲う。
飛行しているバルネギカは槍が接近してるのに気づいてさえいないが――造るのが遅かった。
トルカを狙いに急降下を始めていたのだ。 五匹が一斉に嘴でターゲットにつつこうとしているが衝撃の映像が目に入る。
刻鉄の蒼で次々と捻り潰しているのだ。 一匹一匹拳で殴り飛ばし塵にしていく。
最後に生き残ったバルネギカは両手で鷲掴みされトルカは寒気がする微笑で語りかける。
「私……ものすごく気分が悪いの。 だからね……邪魔したらお仲間さんみたいになるから気をつけてね」
『ギョピョッ!』
リンゴ飴みたいに意図も簡単に握り潰しやがった。
逃がすつもりなんて毛頭ない非道さ。 これは………逃走しても世界の果てまで追っかけてくるな。
謝ろう。 スライディング土下座で許しをこわないと本気で狩られる!
「トルカ……?」
「うーん……?」
「申し訳――ございませんでしたあああああ! おふざけが過ぎましたあああああ!」
プライドは捨てて泥水を顔面にこすり付けて全力で謝りにいく。
衣服が更に汚れてしまったが些細なことだ。 殺られるよりは断然いい。
これで許していなければ天国にいるだろう……。
「サークマ。 顔を上げてよ」
「あ、ああ……」
「ぷふぅ……アハハ……ふぐぅっ!」
「……どゆこと?」




