その1
村が壊滅して早五日。
大木が覆い茂げ、水分を多く含んだ土。
黄昏の森と呼ばれる場所に来ていた。
人がいる土地を探して何も考えずに歩いている。
「う~。 靴が泥だらけ……足も泥だらけ……」
「我慢してくれ。 それに黄昏の森を抜けたら人里あるのだろ?」
「五年前の頃はね。 下手したら滅んでるかもしれないし」
人間が生き残るには厳しい時代。 滅んでいても何らおかしくはない。
予告なく軽々しく命を奪われる弱肉強食の異世界。 先日のように。
もっと警戒すべきだったと今でも後悔はしている。
後悔しても状況は変わらないのはわかっている。 頭で理解してても自分を憎んでしまう。
共に過ごした日々は短い。 それでもかけがえのない人達だったのだ。
あの時に地下室でも造り、地下に移していればあるいは……。
「こら! また自分が悪いって責めてるでしょ」
「……よくわかったな」
「だって、すごく悲しい目をしてるもの」
気づかぬうちに内心の感情が表に出ていたようだ。
彼女には知られたくなかったな。 こんな無様な表情を。
見破られた以上、煩悩を捨ててトルカを安心させたい。 とびっきりの笑顔でも披露するか。
「トルカまでも悲しい顔しないでくれよ。 僕の問題なんだかさ」
「そんなことない。 サクマが一人で抱え込むことなんてないんだから」
「……はは。 こりゃ、やられた。 トルカに説教されるなんて」
参ったなまったく。 まだまだ未熟で大人に近づいてもいないな。
悩んでいたのがバカみたいだ。 一人で解決できなければ二人で話し合えばいいんだ。
五日前と同様に救われたな。
「私だって大人なんだから当たり前よ。 助言なんて容易い容易い」
「頼りになるわー。 解説書並みにー。 マジでー」
「棒読み腹が立つ! 頼りになるなんて思ってないでしょ!」
勿論そうだが、半分は頼りになるって認めている。
無理ゲーだろうが、不可能だろうが、下を向かない彼女の姿勢は希望をくれる。
後ろは向かず前だけ見据える姿は勇気をくれる………この長所が頼れるとこだ。
「サクマなんて――こうだ!」
「ぶほっ!」
うげぇ……トルカの奴、泥団子を投げてきやがった。 顔面が泥まみれで口の中がジャリジャリと土の味がする。
汚れたじゃないか………やられたらやり返す。
倍々の倍返しをしてやる。
泥団子を作るには最適の水分を含んだ土を拾いあげる。
握って握って圧力をかけながら丸く円形に作れば黒く輝く泥団子の完成だ。
一個だけでは不十分なので数個精製しておく。
たとえ避けたとして第二、第三の泥団子がトルカを逃がさない。
僕を敵に回したことを後悔させてやるからな。
「やり過ぎたかしら……大丈夫?」
「隙あり。 お返しだ!」
反応がない僕に不用意に接近したのが運の尽きだ。 目と鼻の先の超近距離でかわすのは不可能。 くらいやがれ。
「女の子の大事な顔に泥を当てようとするなんて最低ね」
「残像ってあ……ごほっ!」
常人を遥かに越えた反射神経には予測できなかった。 残像が見えるほど。
投げて接触するまで一秒もかからない至近距離で当てる位置まで見破られ避けられた。
それに加えて反撃までしてくる極悪さ。 隙なんてそもそもなかった。
かわすなんて朝飯前だったのだ。 完封です。
村崎沙久間。 十六歳。 此処にて静かに息を引き取る――
「勝手にストーリーを終了させんなあああ……ぁぁ……ぁ…………死にかけた」
「わわわあっ! 生き返った」
「何分くらい意識飛んでた?」
「三分くらい。 呪文を唱え始めたからどうしようかと思ったわよ」
泥が鼻と口を塞いだ為に空気の通り道が遮断され、息が出来なく呼吸困難で死にかけた。
三分で呼吸ができなければ命に関わってたぞトルカ。
手加減してもらいたいものだ。 じゃないとひょっとしたことで他界しそう。
「………日が変わりそうだな。 明るい内に黄昏の森を抜けようか」
「仰せのままに。 国士無双様」
「ぶっー! どこで知りやがった!」
なんとも中二臭い台詞。 あれは暗黒のメモ帳に記した言葉。
一時期執事にはまっていた際に書いた台詞。 当時はかっこよく思え口癖のように中学生呟いていた。
過去に戻れたら幼き自分を殴りたい。
「呪文の唱えがずっと、仰せのままに。 国士無双様って呟いていたから言ってみたの」
「おお、そうかそうか。 今後その台詞は使わないほうがいいぞ」
「なんでよ?」
「人前で裸になるくらい恥ずかしい言動だからさ」
「二度と口にしないわ」




