その9
結果的に心配にさせれば迷惑をかけてしまう。 無理する必要はないってことだ。
第一に他人を気遣うより自身を気遣えだと彼女に教わった気分。
余力が十分に回復するまで歩かせてもらう。
「言葉に甘えさせてもらうよ」
「よろしい。 もしもバルネギカだったらサクマの拘束技が不可欠になるから休憩してもらわないと倒せないでしょ」
「うっ、そう……だけど……僕でも倒せるぞ?」
倒せるか試したことはないが理論的には不可能じゃない。
今夜手に入れた素材を巨塔の岩でバルネギカを押し潰せれば倒せる。
なんかしらのオプション付きの耐性がなければの話だけど。
「ぷふ、無理無理。 ファインを纏った攻撃じゃないと奴等はかすり傷一つもつかないのよ。 サクマは物質変換能力があるだけでファイン自体は纏ってないからね」
「笑うなよ。 てか、どうやって魔力が纏ってないなんてわかった?」
「――もう元気そうだし走るわよ」
「って、おい!」
避けられたような臭いしたけど思い過ごしか? ……今はどうでもいい。
一刻も早く村に戻り安全の確認をしないとな。
呼吸も整っている。 太ももから先は筋肉の震えはない。 万全だ。
置き去りにして先行したトルカに追い付かねばな。
すでに人影が点にしか見えないほど距離の差がある。 どんだけ走るの早いんだよ。
あの位置ならばトルカは村を観察できる範囲のはずだ。 僕も急ぐとする。
「立ち止まってる?」
呆然と立ち尽くし、動こうとしない彼女に不信感を抱いた。
まさか……村に異変があるのか?
「トルカ。 なんで突っ立てん……だ……よ」
それ以降言葉は出なかった。
息が詰まった。
信じたくない光景が拡がっている。
バルネギカを防ぐ城壁が崩壊していた。
鋭利な獣の爪で切り裂かれたよう三本の空洞が遠くからくっきり見えるくらいに……。
自然でできた傷跡ではない。 何者かが破壊した形跡。
三回目の地震は土の鉄壁を崩した際の爆音だったのだ。
これでは中にいた皆は………いや、まだ決まったわけじゃない。
この目で確かめるまでは信じない。
「行くぞ」
「これじゃ……」
「決めつけるな! 僕だってそう思いたくない」
「っ……!」
溢れそうな涙を堪えて唇を噛み締めていた。
誰だって、誰だって、倒壊したのをまの当たりにすれば想像してしまう。
自分でさえ脳裏に浮かんだ。 最悪の結末を。
分かっていても現場を確認しなければいけないのだ。
「く…………うぅ………っっ……………………」
「……うそでしょ。 こんなの……あんまりだよ……」
悲惨な光景だった。 地面は真っ赤に血に染まり、死体がいくつも転がっていた。
全ての共通点が首と頭が繋がっていないこと。
酷すぎる。 誰が、どいつが殺ったんだ!
「おっかしいな~? 全員抹殺したはずなんだけど……生き残りがいたんだ」
相手の顔なぞ見る前に身体が勝手に動いた。 殺した犯人だと断定した。 ブロック状態の鉄を数本の剣を四方八方に造り飛ばした。
『殺す』の二文字しかない。
「あはっ! 面白いね」
「なっ!」
マジックショーのようマントの隙間から出した漆黒の刃で当たり前のように剣を全て叩き砕いた。
激しい悪寒に襲われ無意識に目眩ましの土ブロックの壁を造り回避行動をとる。
何人も斬ったであろう血痕をみて身震いした。
「柔な壁じゃ時間稼ぎにもならないね! ……いない? あの一瞬で逃げたのかな?」
土の壁を除外した向こうにはいない。
忽然と姿を消した男女の二人組を狩りをするハンターのよう隅々まで探す。
物陰、上空、背後と首を左右上下に傾けるが見つからない。
「面倒くさいな~。 当初の目的は達成したし帰ろうと」
遠ざかっていく足音。 諦めて去っていくマントの人物。
歩く音がしなくなり、隠れ潜んでいた地面から這いでた。
逃げる手段で足元に人が入れるサイズまで空洞を作り、中に身を潜めて、ブロックにした土で蓋をしたのだ。
助かったと安堵した感情。 同時に何も救えなかった無能な僕を憎んだ感情が交互に襲う。
「力が、力がないばかりに……ぐそっ!」
「サクマ……」
「――守ってやる。 大事な人を守れるぐらい強くなってやるからな!」
血潮の大地で誓った。 悲劇を繰り返さないと。 死体の山で。
一粒の涙を流し深淵からのスタートが始まった。
冷たい夜風の中で。




