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雪女との狂気の交渉

「じゃあ、私たち人間はどうしたら良いと言うのだ。もう諦めろとでも言うのか」とイタリア代表が感情的に述べる。

「落ち着いてください。最後に我々日本政府が出した結論を発表します。我々としては彼女を人類の脅威として認識し抹殺に全力を尽くします。そしてこれを決定事項とします」

片岡博士のこの言葉に会場内はどよめいた。

「おい、待ってくれ。いくらなんでも早すぎる。もっと慎重に考えなければ後悔することになるぞ!まずは話し合いするべきではないのか」との声も上がる。

「その通りだ!無策で挑んでもただの犬死か餌になるのが落ちだ。こういうのはどうだろう?各国にいる犯罪を犯して牢獄されている囚人を彼女に差し出すというのは」とフランス代表が発言する。

「なるほど。いいじゃないか」とドイツ代表が賛同する。

「確かに……それなら最低限被害は抑えられるかもしれん」と米国代表も同意見らしい。

「私も賛成です。一刻も早く捕まえたい所ですが、まだ時期尚早かもしれません」とロシア代表も同調した。

「ええ、今はまだ無理ですね」

「今しばらく様子を見ましょう」

「そうですね」

各国の代表者たちの意見はまとまったようだ。

その後、ヒミコとの話し合いを行うため交渉術にたけた女性メンバー限定の交渉団が結成された。男性を入れなかったのは餌と認識される可能性があったからだ。もちろんそれ以外にも理由はあるのだが……、。

「では、今より我々はヒミコとの交渉にあたります」と言ったのは米国のキャロライン・リンゼイ外務大臣だ。黒髪碧眼、スタイル抜群で容姿端麗な美女である。彼女こそ今回の交渉役の中心人物であり、最も適任だと考えられていた。さらに、この世界を守るために自ら志願した勇気ある女性でもあった。

ちなみに、彼女の他に副大臣クラスが5人とその他に秘書官、SPなど総勢12名という大所帯であった。本来このような少人数の部隊ならばジェット戦闘機などで目的地付近まで行きパラシュートを使って目的地近くに降下するかヘリで行くのが通常であるが相手はヒミコ‥、飛行中の戦闘機やヘリを撃墜されてもおかしくないということで大型車両2台に分乗し出発する事となった。

なお、交渉が成立した場合はそのまま帰還することになっているが万一失敗した場合には戦争突入となる予定である。

もちろん誰もが失敗すれば自分達は間違いなく死ぬだろうと思っているわけで無事に成功する事を祈るばかりである。ヒミコの住処へと出発した一行は途中までは順調に進んでいたものの、突如前方の道路上に巨大な氷の塊ができ、道を塞いでしまい進めなくなった。

「これは……、」と米国代表は驚愕した表情で呟いた。

すると突然背後から女性の声が響いた。

「こんにちは、よく来たわね♪ん~、餌を持ってきた訳ではないようね。別に女には興味ないんだけどなー。もしかして私を殺しにでも来たのかな?」と言うと周りの気温が一気に冷え始めた。まさに極寒の世界といったところだろうか。

「そ、そんなつもりはありません!誤解しないでください。私たちは貴方に危害を加えるつもりはありません。我々は話し合うために参りました」と米国代表が慌てて弁解をする。

「ふーん。珍しいわね。女が来るなんて……まあいいわ。丁度退屈してたところだし上がって行きなさい」

ヒミコはそう言い終わると彼女たちの目の前に氷の階段を作り上げた。これはヒミコが作った氷柱を利用したもので簡単に昇ることができる階段だ。

「さあ、案内するから付いてきなさい」と言いながらヒミコは階段を登っていく。

しかしスパイクのついたシューズを履いているとはいえそれでも滑る。スパイクがまるで刺さらないのだ。おかげで一人が滑り落ちてでんぐり返しをした状態になってしまった。お尻を上にしてかなり恥ずかしい格好だ。それをヒミコが見て笑い転げていた。

「アハハ、面白いものを見せてもらったわ。早く起き上がらないと置いていくわよ~♪」と言いながらどんどん階段を登っていった。幸か不幸かおかげでヒミコの機嫌も取れたようだった。

暫く階段を上っていくと氷の城のような建物が現れた。氷の壁に囲まれているものの中は意外にも暖かかった。

「ここが私の住まいよ。何もないけどゆっくりしていってちょうだい」とヒミコは言った。その声はまるで鈴のように澄んだ音色を持っていた。

彼女たちはとりあえずリビングと思われる部屋に通された。内部構造も一見すると普通の住宅と同じような作りであった。

中央のテーブル席に座るように促され、言われた通り椅子に腰掛けた。ヒミコは紅茶を淹れてきてくれたようでティーセット一式を運んできてくれる。

「では改めて自己紹介させて貰います。私が今回の交渉メンバーをまとめさせていただいております、アメリカ合衆国外務大臣のキャロライン・リンゼイと申します。隣が私の補佐官を努めていますアンナ・クラウディア、あちらが副大臣のフランシス・ブルックリン、そしてあっちが私の秘書であるセシリア・ロジャーです」

と米国のトップであるキャロライン外相が代表して挨拶した。

「初めまして、私はヒミコよ。宜しくお願いするわ。さっきも言ったけど私、男には興味あっても女に興味はないのよね。まあ暇潰しくらいにはなるかなと思って来て貰ったのだけれど……何用かしら?」とヒミコは答えた。

「早速ですが本題に入ります。単刀直入に申し上げますが貴方の力はあまりにも強大過ぎます。私どものような人間にとっては恐怖の対象でしかないのです。ですからどうか人間を食料にすることを止めてもらうことはできないでしょうか?」とキャロライン外相は直球で切り出した。

ここまで来たら遠慮なく発言しないと駄目なのだ。

「無理ね。それに関しては不可能よ」

「どうしてですか」とフランシス副大臣が問いかけた。が、

「そういえば、さっき階段で恥ずかしい格好で落ちたあなた。名前はなんて言うの?アジアの女性って事は解るんだけど」と問いかけてきた。

突然自分の名前を聞かれて戸惑いを見せていたが素直に答えることにしたようだ。


彼女は中国出身の女性で名を李玲玉という。

「私の名前はリー・レイユイと申します。えっとその、貴女のご希望があれば是非教えて下さい」と恐縮しながら答えた。

「レイユイっていうのね。可愛い名前じゃないの。でさ、さっきの質問だけど、なぜ人を食らうかってことだったわよね。私は純粋に生きるために食べているだけなのよ。今まで特に不自由したこともないし別に趣味で殺したりしているわけでもないのよ。ただ、精力を奪ったら結果そうなっただけの事」と答え始めた。

「あなた達の方こそ私たち化け物を排除するために色々企んでいるんでしょう?例えば原子爆弾とか生物兵器とかを用意したりして。知ってるのよ私、人間はいつも残酷で卑怯な方法を思いつくということをね。だから怖くてしょうがないの。だって死にたくないもの」

ヒミコの目に涙が浮かんできた。泣く演技をしているのだ。これにより同情票を得ようとしているのだろう。

「そうは言ってるけど、核兵器なんてヒミコさんには効かないんですよね?」と玲玉は言った。なんとなくだが彼女には通用しなさそうな気がしていたのだ。

そもそも効くか効かないか以前に絶対零度が可能なら原爆の破壊力も爆風も瞬時に冷却され動きが止まってしまう。生物兵器などもそうだ。絶対零度の中で動けるものなど何もないのだ。ただ一人ヒミコをおいて。そんなことなど百も承知だろうに……と思ったが口には出さないことにした。

火に油を注ぐのは愚行というものだからだ。

「そうなのよ~。全然ダメージないのよね~。全く困っちゃうわよね~。せっかく準備してくれたのに悪いけど意味ないんだから仕方ないよね~」とヒミコは軽く舌を出して可愛いらしくポーズを取った。見た目は美しい少女の姿だが実年齢は何歳なのだろうか?

「う~ん、確かにそうだね~。やっぱりそうなりますよねぇ〜。それでしたら一つ提案があります」と李玲玉が切り出した。

「なによそれ?」とヒミコは目を細め警戒しながら聞き返した。明らかに何か企んでいる者の表情だったからだ。

「じつは今日の交渉の一番の課題だったのですが私たちの世界で一緒に生活してもらいたいのです。もちろん衣食住は提供いたします。」

「ほう。食もとはな。お主、自分で何を言ってるのかわかっておるのであろうな?」

とヒミコは険しい顔つきになった。

「食という事はお前たち側からすれば生贄を差し出すという事なのだぞ」

「はい。重々承知しております」

「ちょっと待ってよ!そんな事認められないわ!」

米国の女性たちが騒ぎ始めた。

「何を言ってるの!これは各国で話し合った事じゃないの!各国の犯罪者を差し出すことに決まった訳でしょ」と李玲玉は注意する。

まさかここで揉められるのはヒミコへの印象が悪くなるだけなのだ。

「まあいいわ。で、具体的にどうやって差し出してくれるのかしら?」とヒミコはニヤリとした顔で言う。

「簡単です。犯罪者を隔離して置く房をご用意致します。あとはあなたの好きなようにしてもらってかまわないですよ」と李玲玉は答えた。その答えを聞いた瞬間、ヒミコは爆笑した。

「アハハ!アハハッ!傑作だわ!アハハハーー!」

ひとしきり笑い終わった後に、「良いでしょう。それで手を打ちましょう。」と言い出した。

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