ただ一人の生還者
さて、残された七人の兵士たちはヒミコによって全身氷漬けになり果てていた。
「フフフ……さてといただきましょうかねぇ~」
彼女は一人ずつ順番に命を吸い取り、その度に満足そうな笑みを浮かべるのであった。
「やっぱり生きているうちに飲むのが一番おいしいわね♪」と呟きながら最後の一人から命を頂くと、「ああ……幸せ……」と言って恍惚とした表情になった。
それはそうとヒミコは人間社会が大嫌いである。理由は単純明快、自分にとって邪魔でしかないからだ。しかし同時に大切な食料でもあるのだ。
しかし調達方法は、外道の極みと言ってもいいほどのものである。たとえば山奥にある村を見つけ男がいたら状態を問わず片っ端から凍らせていくのは日常茶飯事レベルのことであった。
彼女の目的はただ一つ。ただの食料補給のため。そのためならばどんな犠牲も厭わないという狂気に満ち溢れていた。その反面女はまずくて口に合わないという理由で手を出すことはなかった。
つまり男は絶滅させるが女は生かしておいても別にいいということだ。
ただ興味がないのでアリスには手を出さなかったが別に助ける気もないので山の中で一人でポツンと取り残されてしまうのだが。
アリスが山の中にいた。その姿は憔悴しきっていて、目に光はない。
だがアリスもただの女性ではない。ヒミコ相手には無様な姿を見せてしまったがこれでも屈強な戦士なのだ。
生きるためには手段を選んではいられないのだ。必死で生きるために力を尽くしている。
その為その実力を買われてヒミコ討伐隊に抜擢されていたのだ。そのことからもわかる通り優秀な人材なのである。
「まだここから抜け出せた訳じゃない。とにかく今はこの山を越えなければ‥」
そう呟きつつ木の枝をかき分け進む。すると少し開けた場所に出た。そこには小さな川が流れていた。水は澄んでおり、とても美味しそうである。喉の渇きを感じていたアリスは思わずしゃがみ込み、両手で掬い上げてゴクリと飲み干した。
「美味しい……」
思わずそんな言葉が口からこぼれ落ちる。
飲み終わったらまた歩き出した。それから2時間程歩いたら麓の村までたどり着くことができそれを見つけた住民によって救急搬送されることとなった。
まさに凍傷寸前、もう少し遅かったら四肢が腐り切断するはめになったかもしれないという状況だった。
幸いにも命に別条はなく安静にするだけで完治するという診断を受け、今は病院のベッドの上で横になっている。入院期間は一週間程度と言われた。
そして今日も窓の外を眺めながら物思いにふけっていた。
「ヒミコ……」
その名前を聞いて脳裏に焼き付いた悪夢がよみがえる。恐怖と寒気で鳥肌が立ってきたところで看護師さんが入室してきた。
「こんにちは」と挨拶されたので「あっ、はい。こんにちは」
「具合はどうですか?」「はい。おかげさまで大分良くなりました」
「それは良かったですね」
「あのすいません。この辺りって携帯通じますか?実は本部に連絡したいことがあって」
「ええ、一応つながりますけど、あまりおすすめできませんよ?」
「どうしてですか?」
「んーどうしてかな?これ見たらあなたも理由が解りますよ」と言ってボロボロになった携帯を見せてくれた。。
「これがなぜ壊れているのですか?」
「いや解りませんよ。あなたの携帯なんだからあなたの方が解るでしょ」
「え?‥これが私の?移動中に壊れたのかしら?下山に必死だったからぶつけたり雪まみれになったりしたからかな?」とつぶやいた。
「まあ、とりあえず使えるかどうか見てみましょう」
そう言いながら看護師さんが手渡してきたスマホを受け取ると電源を入れてみたところ問題なく起動した。
「よかった。使えそうですね」とアリスはほっとした様子で言った。
「そうですね。一応お医者さんには許可とってありますんでお話ししてきても大丈夫ですよ」と看護師さんは優しく答えた。「ありがとうございます」とお礼を言った後、電話をかけることにした。
プルルルル……ガチャ
「もしもし?どちらさま?」
聞き覚えのある声だったので少しほっとしながら話しかけた。「私です」
「おぉ!アリスか?久しぶりだなぁ。生きてたんだな。心配したぞ」
「申し訳ありませんでした。私があまりにも未熟だったばかりに皆を巻き込んでしまいました。本当に申し訳ございません……」
涙声になりそうになるのを堪えて謝罪した。本当はもっと色々と言いたいことがあったはずなのに何も出てこない自分が情けなくてしょうがない。
「まあ、それは後で聞くから一旦落ち着け。それで?今どこにいるんだ?」
「今は〇×病院というところにおります」
「ああ、あそこか。わかった。すぐ迎えに行くから待っててくれ。あと少ししたら着くと思う」
「分かりました。お待ちしております」と言って通話を終了させた。
その後無事に回収され討伐隊が全滅した事をしり愕然としたのだった。
このような攻撃は今回に限った事ではなかった。人々は今回のように銃器類を使用して何度も攻撃してきた過去がある。時には刀で、銃で、バーズーカ砲はもちろん大砲、毒ガス、生物兵器などあの手この手で攻撃してくるのだがどんな攻撃もこの絶対的な冷気の前に無力化され食料にされてしまうのが実情だったのである。人々の怒りは頂点に達していた。
そのためヒミコの今後の対応について各国の代表が集まり米国のとある秘密施設にて開かれることになった。もちろんこの事は秘密裡の事なのでマスコミには一切情報は公表はしていない。
「さて、雪女についてどうするかだが我が国では抹殺することを提案したい」と米国代表が語る。
「そうだな。そのことについては異論はない。だがどうやって抹殺するのだ」と中国。
「我が国は反対だ!余計な真似をして彼女の逆鱗に触れたら元もこうもない。それに我が国では今のところ被害はないのだ。有効な兵器がない以上話し合いで解決すべきだ!」と反論する小国もある。この会議で共通していることはヒミコに対する恐怖心だ。国際世論はヒミコを抹殺するべきなのか否かで二分していた。
「いや、貴国の被害はないというがそれは我が国の犠牲の上でのことであろう?それではいかがかと思うが」と米国代表が言う。
「それは理解しているが雪女を殺めるようとすることがどんなに困難で恐ろしいことか君ならわかるだろう?通常兵器では効かないんだろう?」
と小国代表。
「ああ。確かに我々アメリカ軍の最新鋭の軍艦、航空機、陸海空合わせて数十万の兵力を投入しても勝てるかどうかわからない相手だ」と米国代表。
「まあ、落ち着いてください。まずは情報の共有です。まずこの雪女について解っていることをこちらの片岡博士から説明いたします。」と雪女の生息地でもあり最大の被害国でもある日本の代表者が発言した。
片岡代表が立ち上がり雪女についての情報を語りだした。
片岡博士はこの雪女に関して研究している専門家であり博士の意見を聞けば皆納得するだろうとのことで参加していたのだ。
「皆さん初めまして、片岡です。私の話は少し長くなりますので手短にお話します。まず雪女の正体ですが、これは人間ではありません。雪女というのは妖怪のようなもので、その本質は人間の精気、さらに言えば男性の精気だけを吸って生きているものなのです。女性に対しては餌にならないためなのかこの雪女…名前はヒミコといいますが女性側から刺激を与えない限り被害は出ておりません。まったく興味がないのでしょう。しかし男性のみとは言え食事をしない限り死んでしまうのです。つまり、我々人類にとって天敵と言えるでしょう」と片岡博士は説明した。
「このヒミコの能力は皆さんもご存じの通り強力な冷気。どんな兵器も瞬時に氷結させてしまい役に立たなくなってしまい爆発や爆風も強固な氷壁でダメージを与える事が出来ません。我々の見解では人類技術では不可能とされている絶対零度さえその気になればできるのではないかと想像しています。」と淡々と説明していく。
「ぜ、絶対零度…だと?そんな温度なんて本当に可能なのか?」と米国の物理学者が驚愕しながら訊ねてくる。
確かに絶対零度というのは理論上不可能とされているから無理もない。普通の人間ならば誰だって思うことだろう。
「勿論理論的には不可能と言われておりますが彼女は何億年も前から存在しており地球上では最強の生命体ではないかとも噂されており…あっこれは比喩に過ぎませんが、いつ誕生しどこから来たのかも不明な化け物‥あえて化け物と言わせてもらいますがそんな化け物ですから理解を超える存在なのです。」
「そんな奴を我々はどうすれば良いのだ」と米国代表。そりゃあ当然の疑問である。
「このまま放置していてはいずれ人類滅亡もありえるのだぞ。何とか対策を考えるべきだ」
「彼女には弱点がないのでしょうか」と他の国も不安を口にする。
「残念ながら……彼女に弱点は発見されていません、あと能力についての補足ですが彼女は自己治癒能力や飛行能力、空間移動‥すなわちテレポートですね。もあり我々からすると絶望的な強さを誇っております。食事についてですが部位は関係なく彼女の手が触れた場所がどこであろうと吸われてしまいます」と絶望的な表情で話を進めた。




