220.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
ルイスの元に訪れたのは、今年の推薦登城者である、茉白と柚希。二人をエリスとイリスに案内させ、仕事が一段落した彼の元に続けざまにやってきたのは俊宇の母親、林杏。国王に呼び出された後だという彼女は、アリスに興味があるから案内しろと言い出す。
「ふふっ」
ご機嫌なローズは、リビングの椅子に座るアリスの髪をとかしながら、嬉しそうな声を漏らした。
「良かった、二人とも合格できて! いっぱいお勉強してたもんね」
「まーね! 習ったこと、ほとんど使わなかったけど!」
アリスではなく、その向かいに座るアダンが胸を張って答えた。
「でも、あの時のアリスと俊宇ってば、本当にかっこよかったんだから! 呪文に『暴走に負けるな!』なんて言葉を入れてるあたりに、ぼくは桃子との友情を感じたよ!」
「だ、だって、他に言葉が浮かばなかったんだもん……」
ローズに髪を編み込まれながら、アリスは真っ赤になった。
その間にも、ローズに「リボンとって」と言われ、アリスはそれに従って目の前におかれていた、ローガンにもらったリボンを彼女に渡した。
「それに、使役魔術なんて初めてだったし……。いつもの桃子を思い出したら、自然とあの言葉が出てきただけというか……」
「だから、暴走から解放された後の桃子、ピンピンしてたんだね。いつもの元気いっぱいな桃子になるように魔術がかけられたから」
腕を組んで、アダンは何度もうなずいた。
「よほど、二人の魔術が強かったんだよ。桃子、使役魔術に耐性あるのに」
「前から思ってたんだけど、それってどういうことなの?」
「家系特性が関係してるんだよ。安倍家は式神を使役してるでしょ? それって、よほど使役魔術について詳しくないと出来ないことなんだ。つまり、使役魔術に抵抗する方法も知ってるってこと。安倍家のご先祖様が、遺伝子情報にその方法を書き込んだんだよ。自分たちが逆に使役されないように」
「……ふーん」
「わー、理解してなさそう!」
「大正解!」
「ぼく、これ以上分かりやすく説明できないや!」
「大丈夫、ゆっくり自分で勉強してみる!」
「相変わらず、仲良しねぇ」
二人の会話を聞いて笑ったローズは、鼻歌交じりにアリスの髪に何本かヘアピンを差し込んだ。
「はい、できた! どう、どう? 力作なんだけど!」
ローズに手渡された手鏡を見て、アリスは「すごーい!」と感動の声をあげた。サイドの髪が編み込まれたシニョンで、いつもの黒いリボンは左右対称に結ばれていた。まるで、物語にでてくるお姫様のような髪型だ。
「ローズ、器用だね!」
「えへへ。最近、ヘアアレンジ動画を見るのにハマっててね。せっかく知識を得たから、誰かの髪でやってみたかったの。でも、パウラは嫌がるから……。ありがとうね、アリス。大事な日なのに、髪型を任せてもらって」
「こちらこそ、ありがとう!」
リビングの壁にはめ込まれた姿見の前に立って、アリスはその場で何度か回ってみた。久しぶりに腕を通した、スタンダード制服のスカートが、アリスの動きに合わせてふわりと揺れた。
今日は、中級魔術師昇級試験合格者だけが出席する、階級章の授与式。それに伴い、アリスとアダンは朝早くから準備をしていた。特別な日だからと、ローズに髪を整えてもらったのだが、まだ授与式まで一時間半もある。思っていたよりも早く準備が終わったから。
「ねえねえ、お母さんとラファお兄ちゃんの所に行ってきてもいい!?」
「なんでだよ」
雑誌を読んでいたレオが顔をあげて顔をしかめると、アリスは少し頬を膨らませた。
「だって、お父さんとおじいちゃんは授与式に出るけど、お母さんはまだ入院してるから、この姿を見せれないじゃん! ラファお兄ちゃんは最近忙しそうだし」
「写真でいいだろ」
「せっかく同じ建物の中にいるのに、写真じゃ味気ないでしょ!」
「なら、授与式が終わってからにしろよ」
「なんで!」
「階級章。初級のままでいいのか?」
レオが階級章を指さすから、アリスはハッとした。髪を綺麗に整えてもらって満足してしまったから、今日の主目的を忘れていた。
そんな妹を見て肩をすくめたレオは、再び視線を雑誌へと向けた。
「授与式まで時間あるんだろ、ジャケットくらい脱いどけば? でも、ハンガーにちゃんとかけとけよ。シワになるから」
「言われなくても分かってるし!」
レオに舌を突き出しながらも、アリスはジャケットをハンガーにかけた。
それから、再びハッとしてチームメイトの前に胸を張って立った。
「みんな、初級魔術師である私の最後の姿、目に焼き付けててもいいんじゃない!?」
「うんうん、今すっごく目に焼き付けたよ。アリスも立派になったな」
パウラはアリスに薄く笑ってから、すぐ手元の資料に目を落とした。年度末ということで、今年度のまとめを作って上に報告書を出さなければならないのだ。それから、来年度の目標や計画についても。
だから、リーダーのパウラとリーダー補佐の皓然の二人は、多忙を極めていた。授業や依頼もあるから、早め早めに作り始めなければ間に合わないのだ。それにきっと、二人で納得して出した書類でも、最終確認でメアリーに修正箇所を指摘されて返されるだろうから。
「皓然。ここ誤字してる。それから、ここは脱字。この二行目も、もっと遠回しの言い回しにしておいた方がいい。角が立たないから」
「あ、すみません……。確認したはずなんですけど……」
目の下に大きなクマを作った皓然は、パウラに返された書類を見てため息をついた。
それから、パウラはレオに別の書類を渡した。
「今年度分の出費報告書は問題ない。あとでメアリー先生に出すから。ただ、ページ番号が抜けてるから、そこだけ入れてくれ」
「りょーかーい」
雑誌を閉じたレオはパウラから書類を受け取ると、早速タブレットを操作し始めた。
「ローズも。さっきデータでくれた備品報告書で問題ない。メアリー先生にはアレで出すから」
「分かった」
先輩たちは忙しいから、アリスのことを見てくれない。
それに不満を覚えたアリスが頬を膨らませた。でも、仕事だから何も文句は言えない。
そんな時だった。インターフォンが鳴ったのは。
「はーい」
玄関の一番近くに立っていたアリスがドアを開くと、そこにはルイスと見知らぬ千夜族の女性が立っていた。
「お父さん。……と、えっと、はじめまして」
「……はじめまして」
千夜族の女性はアリスを見つめ、黒い瞳を細めた。小さな声で「……へえ?」と漏らす。
「……失礼。……李林杏だ。……うちの息子が世話になってる」
「『李』? ってことは、もしかして俊宇のお母さんですか?」
「……正解」
その会話が聞こえていたのだろう。後ろでガタンッと大きな音がしてから、皓然がやってきた。「林杏おばさん!?」と驚きの声をあげて。
だが、それよりもアリスが驚いていることがあった。
——皓然、こんなに背が高かったっけ?
丁度アリスの隣にやってきた皓然。確かに療養開けに会った時に「背が伸びたな」とは思ったが、その時はまだ彼の顎あたりにアリスの頭があった。
けれど今は。今は、アリスの頭があるのは皓然の肩の高さ。視線を横に移しただけでは、彼の胸辺りしか見えない。見上げなければ、その顔を見ることさえ。
アリスの驚きの視線には気付かず、皓然は「どうして、アエラスに?」と林杏を見つめた。
「……かくかくしかじか」
「陛下からのお呼び出しがあったらしい」
説明する気のなさそうな林杏に代わり、ルイスが説明役を買って出た。
「それから、お前たち姉弟の顔も見に」
「そうでしたか……。御足労頂き、ありがとうございます」
「……寝てるか?」
皓然の顔を見つめ、林杏は目を細めた。
「……今倒れたら、……元も子もない」
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
林杏にヘラッと笑って見せてから、皓然は二人に「どうぞ」と部屋に案内しようとした。
「散らかっていますが……。立ち話もなんですし。お茶もすぐご用意いたします」
「……気にするな。……目的はこれ」
その瞬間、林杏の手のひらに浮かんだ魔法陣から、手紙が飛び出してきた。
「……お前たち全員、……李家に招待する。……もちろん、桜花、牡丹のチームも。……千夜族大集合。……いえーい」
驚きの顔で手紙を受け取ったアリスと皓然に、林杏は無表情でピースサインをしていた。
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