219.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
無事に中級魔術師昇級試験を合格することができたアリスたち。しかし、アリスにはまだルイーズとの勝負が残っていた。それを聞いたセレナは「貴族に喧嘩を売るようなことだ!」と言い出し……。
中級魔術師昇級試験が行われた三日後。
アエラス王宮に、二人の千夜族がやってきた。
大きなスーツケースを引っ張る少女は長い白髪を翻し、綺麗に切りそろえられた黒髪を持つ少年はリュックを背負って、堂々と廊下を歩いて魔術師統括管理者——つまり、ルイスの執務室にやってきた。
魔術によって開かれたその部屋に足を踏み入れた二人は、部屋にいたルイスとその娘たちの三人に、優雅にお辞儀して見せた。
「初めまして。今年からお世話になります、藤原茉白と申します」
「斎柚希と申します。いつも姉が大変お世話になっております。これからは、姉弟ともども、よろしくお願いいたします」
そう言って顔をあげた千夜族の二人、茉白と柚希は黒い瞳を弓なりに細めた。
茉白は千夜族の藤原家、その末娘。つまりネロにいる双子の魔術師、紫雨と紫乃の妹だ。
それから、柚希は桃子の弟。彼は人形を持ち歩いていない。
この二人もまた、各国から声がかかっていたが、彼女らはアエラス王国に仕えることを決めた。
理由は、一つ。
あのヘレナとカイルの子供たちがアエラスにいるから。
ルイスも二人に簡単に挨拶をした後、自分の両サイドを陣取る双子の姉妹にも自己紹介をさせた。
それも終わると、ルイスは机に肘をついて瞳を細めた。
「さて。他より先に登城してもらった理由は、事前に送った手紙にも書いた通り。国王陛下の『未来図』によれば、お前らはこのエリス、イリスのそれぞれとチームを組むことになっている」
そう言って、ルイスは視線で娘たちを示した。
「今、魔術師はいくらいても足りないくらいだからな。一年生になった時点で二人ともいっぱしの魔術師として活動できるレベルになっていてもらいたい」
「つまり、新学期がスタートするまでに、私たちを『使える魔術師にしたい』というわけでございますね」
茉白の言葉にルイスはため息をつきつつも、うなずいた。言葉を選ばずに言えば、茉白の言った通りだから。
「二人とも、すでに一般魔術も家系特性も使えるとの報告を受けている。新学期までもう一か月を切っているが、まあ、この王宮に慣れる期間だとでも思ってくれ」
「承知いたしました」
千夜族の二人は、ルイスに再び頭を下げた。
そして、エリスは茉白、イリスは柚希に、それぞれ王宮を案内するように命じた。
子どもたちが出て行って、ルイスは勢いよく背もたれに体を預けた。
実は、先ほどの茉白、柚希を他より先に王宮に召し上げ、エリスとイリスの二人と交流させておくように、と指示をしたのは国王だったのだ。『未来図』によると、それが一番この国の未来を守ることになるから。
背後のステンドグラスから差し込むカラフルな光を見つめながら、ルイスは足を組んだ。
アリスが一年生の時。初めての依頼で出会ったバンシーは、「四年後にたくさんの人が亡くなる」と予言していたという。
あれから、もう少しで三年。バンシーの予言まで、あと一年しかない。
予言者たちに例の予言について調べさせているが、進展はなし。あったとすれば、ゼノが少しだけ見たのだという『未来図』だけ。
それは、キュクノスの建物が崩れ、炎が上がっている画像。
その時、キュクノスに暮らす人々を守ったのがエリス、イリスが所属するチームだったということで、二人と一緒にいた千夜族の二人にやってきてもらったのだが……。
先のグレモリー事件もあり、宮内庁はまだこの『未来図』について世に発表していない。今この情報を出したなら、それこそ国中がパニックになるだろう。
それに、『ユピテル』のこともある。
山積みの問題を前に、ルイスの口から思わずため息が漏れ出た。
それに加えて、わんぱくな長女が貴族に喧嘩を売ったと来た。
思わず、ルイスは頭を抱え込んでしまった。
貴族に勝負を仕掛ける……。魔術界には「決闘」制度があるから、アリスとルイーズが戦ったとしてもそれは犯罪ではない。
問題は、家紋を背負うことになる、ということだ。
ランフォード家は平民でありながら、魔術師統括管理者を務めている。おまけに、その家系図にはフォティア王家とポポフ公爵家の名が入っている。ほぼ絶縁状態にあるフォティア王家のことはこのさい無視しておくとしても、アエラス王家の懐刀を務めるポポフ家と血縁関係にある以上、ポポフ家に泥を塗らないためにもアリスが負けることは許されない。
そして、それはルイーズも同じ。歴史の長いフレース侯爵家の跡取り令嬢だ。広大な領地を持ち、数多くの魔術師を輩出してきた。他の貴族たちとも血縁関係にあるし、保守派の代表格。ルイーズもまた、負けることができない。
早い話、この決闘にはアエラス王国にとっての利益がない。どちらが勝ったとしても、アエラス王国の貴族たちの間に入った亀裂を広げることにしかならない。
アリスが負ければポポフ家やルイスたちが政治的立場で弱くなるし、ルイーズが負ければ他の保守派貴族たちが黙っていない。ただでさえ、——まだ一部しか知らないことだが、ラファエルがポポフ家の跡取りに選ばれたことや、ローズたちを魔術師として迎え入れたことなどで気が立っているのに。
もう一度、大きなため息をついたルイスの部屋に、また来客があった。
「どうぞ」
ゆっくりと開かれたドアの先に立っていたのは、ルイスが予想もしていなかった人物だった。
「リンシ……っ、えっ!?」
「……よう」
中年の千夜族の女性は、ルイスにひらりと手を振った。
白髪交じりの黒髪を緩い一本三つ編みにした、たれ目な大人しそうな女性。
「……久しぶりだな」
「お、お久しぶりです!」
勢いよく立ち上がったルイスは、これまた勢いよく女性に向かって頭を下げた。腰を九十度にきっちり曲げて。
李林杏。
それが、この千夜族の名前だ。
そして、ダリアに頼まれてルイスたちに体術を教えてくれた人物。……それも、かなり厳しく。彼女に何度、胃の中身をひっくり返されたことか。
「……うちの俊宇、……いつも世話になってる」
「そ、そんなこと……!」
「……ま、……そんな緊張すんな」
林杏がルイスの肩を軽くたたくと、ルイスは思い切り体を震わせた。何か、技でもかけられるのかと思ったから。
「……陛下に呼ばれた。……お前は、ついで」
「お、お疲れの所、足を運んでいただき、ありがとうございます」
「……それから。……桜花たちの顔を見に来た」
林杏はそう言って、肩をすくめた。
「……色々とあるけど、……弟の子供たちだからね」
「それは、桜花たちも喜ぶと思います」
そう答えてから、ルイスは思考を巡らせた。早い話、梓睿と牡丹の結婚話について聞いても良いものかと。
そんなことはお見通しなのか、林杏はルイスに「椅子に座れ」とジェスチャーすると、自分も近くにあった来客用の椅子に腰かけた。
ピンと背筋を伸ばしたままルイスが椅子に座ると、林杏はため息をついた。
「……正直、……私も今回の結婚に反対」
「そ、そうでしたか」
「……母上も翠蘭も、……権力の使い方を間違ってる」
扇を広げて口元を隠した林杏は、スッと目を細めた。
「……私も息子が望まない結婚をするのは、……面白くない。……お前もそうだろ?」
「もちろんです」
ラファエルだろうが、レオたちだろうが、大事な子どもたちが今の牡丹たちのような立場に立ったなら、ルイスはありとあらゆる手を使って、阻止するだろう。
ルイスの事務机に肘をついた林杏は、ため息をついた。
「……ただ、……私はもう黄家の人間じゃない。……なのに、……今回陛下に呼ばれた。……秋桐と一緒に」
「アイツもいるんですか」
「……今は桃子の所」
「だと思います」
「……話を元に戻す。……今の千夜族はおかしい」
「ええ。それに、何かと事件に巻き込まれがちです」
「……かぐやの件からだ」
扇を閉じた林杏は、ルイスを静かに見つめた。
「……話は変わるが、……お前の長女、興味ある」
「アリスに、ですか?」
「……他に誰がいる」
「そ、それは、そうなのですが……」
「……うちの俊宇、……簡単に心を開かない。……それが、あの子にはすぐ心を許した。……友人の話をされたの初めてだ。……チームメイトの話も」
立ち上がった林杏は、執務室のドアを示した。
「……だから興味ある。……案内しろ」
「い、今からですか?」
「……この時間帯なら大丈夫だと、……ピレネンから聞いた」
余計なことを言った幼馴染にイラッとしたものの、ルイスは立ち上がってこの先輩のためにドアを開けた。
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