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218.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 アリスたちが試験に行っている間、レオは使者と関わる術について調べていた。ユリアとこれからも接触することを踏まえて、ということだったが……。

 さらに、国王に呼び出され、戻ってきたパウラは、皓然に「千夜族の長になれ」と言い出し……。

 振り下ろされた包丁を防御魔術で防ぎ、アリスは奥歯をかみしめた。


 アリスは今、自分とルイーズ、それにアンナの三人分の防御魔術をかけ続けている。ただでさえ、複数の場所に防御魔術を作り出すのに慣れていないのに。


 桃子は、魔術師として、とても優秀だ。


 血筋はいいし、魔力レベルも低くない、成績だって悪くない。それに、頭の回転も速い。何より、魔術を使い慣れている。


 同じ初級魔術師同士でも、アリスと桃子との間には大きな経験値の差が転がっている。


「桃子! 落ち着いて!」


「おちついてるよぉ?」


 竹の人形の銃弾を防いだアリスに、桃子はねっとりとした笑みを見せた。


「いまねぇ、たのしくてしかたないの。ぜぇーんぶ、どうでもいいや」


「一緒に合格しようって、約束したじゃん!」


「……アリスは、いいよねぇ」


 人形たちの攻撃が止まり、桃子の元へ戻って行った。人形たちに囲まれる桃子は、アリスを冷たい目で見ていた。


「みんなに、だいじにされててさぁ。わたしなんて、じつのははおやにすら、だいじにされてないのにさぁ」


「そんなことないよ」


 アリスは桃子の目をまっすぐに見つめた。


「桃子だって、千菊(ちあき)先生に大事にされてる。この前、お見舞いに来てくれてたじゃん」


「それは、おとうさんたちに、ひっぱられてきただけだよ」


 言われてみれば、確かに千菊も同じようなことを言っていた気がする。


 けれど、本当に桃子のことを何とも思っていないのであれば、いくら夫と息子に言われたからと言って、見舞いになど来ないはずだ。


「それにさぁ。みんな、アリスのことだいすきじゃん」


「丁度隣に、私のことが大嫌いな人がいるよ」


 ルイーズを指さしてから、アリスは再び桃子を見つめた。


「私は、ユリアとは違うから。だから、私のことが嫌いな人はたくさんいる。でも、それと同じくらい、大事にしてくれる人もいる。桃子も、そうでしょ?」


「そうだねぇ」


 梅の人形を撫でながら、桃子はその顔に影を落とした。


「アリスのこと、すきだよ。セレナも、オリヴィアも、ラウラも」


「じゃあ……!」


「すきだからこそ、ゆるせないんだよねぇ」


 そう言った桃子がアリスを指さした瞬間、後ろから強い衝撃が襲い掛かってきた。何とかして振り向いてみると、そこには松の人形が。フィンレーが間一髪、防御魔術で守ってくれたらしいが、その分、アリスの魔力が消費された。攻撃が重かったから、なおさら。


 手錠で繋がれていたルイーズと一緒に地面に倒れこんだアリスたちの上に、松の人形がのしかかってきた。人形なのに、妙に重たい。そのせいで、全く動けない。


「わたしには、ないものをもってる」


「そんなの、みんなそうよ!」


 松の人形に飛びついて、セレナが声をあげた。鞭はさっき、レオのコピーに壊されてしまったから。だから、こうして飛びつくしかなかった。それに、魔術では桃子に敵わないから。


「私は、魔法使い家系だもの! 魔術師家系のみんなが羨ましい時だってある!」


「でも、じゆうだよねぇ」


 桃子が指を鳴らすと、セレナたちに竹の人形が銃口を向けた。


 放たれた銃弾を防いだ俊宇は、桃子をきつく睨みつけた。


 暴走期の中身は、人それぞれだ。グレモリー事件の時の皓然のように暴れまわるタイプもいれば、精神を崩してしまうタイプもいる。どうやら、桃子は心のうちに飼っていた思いを何かにぶつけて発散させてしまうタイプらしい。


「……桃子」


「あー、とめてくれるんだっけぇ?」


 桃子はニヤリと笑った。


「しえきまじゅつ、きくといいねぇ?」


 俊宇がその言葉に目を細めている間、ユーゴたちもセレナたちを手伝って、アリスたちの上から松の人形をどかした。それに、アメリがもう一度樹木を操って竹の人形の動きを止めてくれている。


「ありがとう!」


 松の人形から解放されたアリスはみんなに短く礼をして、俊宇と一緒に魔法陣を浮かべた。これは確かに、使役魔術でも使わなければ止められなさそうだから。


「“アリス・ランフォードが命じる!”」


「“……李俊宇が命じる”」


 桃子の足元に白い魔法陣が浮かび上がると、桃子がそこから逃げようとした。


 けれど、そんな彼女にアンナが飛びついた。二人そろって地面に勢いよく倒れこむ。


「はなして!」


「離さない! そこの二人、今よ!」


 アンナにうなずき、アリスと俊宇の二人は声をそろえた。


「“暴走なんかに負けるな!”」


 強い光に、部屋が包まれた。


 光が消え、アリスたちはゆっくりと目を開けた。まだ、目がチカチカする。


 けれど、桃子とアンナが一緒に、ゆっくりと立ち上がったのが見えた。


「桃子!」


「ごめん、頭痛いから声のボリューム抑えてくれると助かる……」


 こめかみを抑えながらアリスに答える桃子の瞳は、いつもの黒色に戻っていた。


「……暴走は?」


「落ち着いたみたい」


 俊宇に答えてから、桃子はみんなに笑って見せた。


「ありがとう、みんな。特に、アリスと俊宇。……アンナちゃんも」


「別に」


 素っ気なくアンナが答えた。しかし、頬が少しだけ赤くなっている。


 それを見ていて、何となくアリスの胸が温かくなった。


「問題ないなら、さっさと行くわよ」


 みんなの間に笑顔が戻りつつある空間に、どこか冷静なルイーズの声が響いた。


「タイムリミットまで、あと三分」


「まじで!?」


 慌てた様子のユーゴが懐中時計を確認してみると、確かにあと三分しかなかった。


「急げ!」


 ユーゴの声に、アリスたちは一斉に走り出した。


 ゴールへ続く扉を守っていたレオのコピーは、みんなが消してくれた。だから、アリスたちは勢いよく最後の扉を開けて、そこへ飛び込んだ。


「お疲れ様」


 扉の向こう側に置かれた大きなテーブル。ルイスたち上級魔術師たちも席についている。その一番奥の席に座っていた千夜族の初老男性は、アリスたちを見つめた。


「君らは全員、合格だ」


 その言葉と同時に、アリスたちを繋いでいた手錠が音を立てて地面に落ちた。


 アリスたちがまじまじと自分の手を見ている間に、千夜族の男性は肘をついて、つまらなさそうにタブレットを操作していた。


「合格率二十一パーセント……。比較的合格率が高いな。それじゃ、解散。後日、こちらからそれぞれの国を通して合格通知書を送付する」


 アリスたちがそれに返事をする前に、目の前の景色がガラリと変わった。


 いつの間にか、『写しの洞窟』の入り口に立っていた。ルイーズと手錠をかけられて、試験について説明された場所に。


「合格、おめでとうございます」


 試験監督者がそう言って手を振ると、後ろに四つの門が現れた。それぞれ、サファイア、ルビー、エメラルド、大理石でできていて、それぞれの国の紋章が刻まれている。


「そちらの門から、お帰り下さい。本日は、お疲れさまでした」


 それに頷くと、他国の魔術師と組んでいた魔術師たちは挨拶をかわしてから、それぞれの国へと帰って行った。


 念のため、桃子は暴走期の抑制剤を飲んでから、アリスたちは顔を見合わせた。


「——私たちも帰ろうか」


 あまりにもあっさりと合格発表されたから面喰っていたが、とりあえず、アリスはみんなの顔を見てそう声をかけた。


 それから、先に門をくぐろうとしていたルイーズにも。


「今日は、その、ありがとう。色々と」


「別に」


 相変わらず素っ気ないルイーズは、アリスをジッと見つめた。


「約束、ちゃんと守りなさいよ。詳細は近いうちに送る」


「分かった」


 颯爽と去っていったルイーズを見送り、アダンは「約束ってなに?」とアリスを見つめた。


「えっと、タイマン勝負?」


 首をかしげながら答えたアリスに、アダンは「何してんの!?」と悲鳴に近い声をあげた。頭が痛い桃子は、その声の大きさに顔をしかめて耳を塞いだけれど。


「アリスってば、何考えてるのさ!」


「いやぁ、私もその、区切りをつけたいなーって、思ってさ?」


「そうじゃなくて!」


 セレナまでアリスに詰め寄ってきた。


「ルイーズが侯爵令嬢だって分かってるの!?」


「わ、分かってるよ!」


「いい、アリス。よく聞いて!」


 アリスの肩を掴み、セレナは真っ青な顔をアリスに向けた。


「それ、本格的に貴族に喧嘩を売ったようなものよ!?」

お読みいただきありがとうございました!

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