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215.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 レオのコピーを攻略するためには、アリスとルイーズが囮にならなければならない。それが、ユーゴが提案する作戦だった。

 みんなでその作戦を肉付けていく中、体調の異変を感じ取っている魔術師が一人……。

 ——やばい。そろそろ来る頃だとは分かっていたけれど……。


 いつもより大きく波打つ心臓。痛いくらいだ。


 思わず胸元を握り締め、大きく息を吐きだした。このままでは、作戦に支障をきたす。早い所、抑制剤を飲まなければ……。


「——桃子」


 こそっと話しかけてきたのは、セレナだ。


 ユーゴがみんなの前で作戦の再確認をしている間、桃子の様子がおかしいことに気付いた彼女は、声をかけてくれたらしい。


「大丈夫なの? 顔、真っ青よ」


「大丈夫……」


 そう答えたけれど、桃子は息も絶え絶えだった。


 冷や汗が止まらない。


 いくら吸っても空気が足らない。口周りがしびれてきた。


「いつものことだから……」


「『いつもの』って……」


 セレナは顔をしかめた。


「ユーゴに言って、作戦を一部変更してもらいましょう? 無理をしない方がいいわ」


「ううん。むしろ、今の作戦の方がいい」


 汗を拭って、桃子はセレナに答えた。


「魔力を発散させるしかないから」


「どういう……」


「多分これ、はめられた」


 胸元を握る桃子の手に、ぎゅっと力が入った。


「本当、してやられたよね」


 その言葉にセレナが首をかしげている間に、桃子は手をあげた。


「一番手、私たちが行く」


 桃子のその言葉に、ペアになっているネロの魔術師、アンナ・デューラーは「はあ!?」と驚きの声をあげた。


「ちょっと! 勝手に決めないで!」


「その代わり、みんなでアンナちゃんのことを守ってあげて」


 桃子は、特にアリスを見つめてそう言った。


「攻めは私がやる。お願い」


「……分かった」


 頷いたアリスに、やはりアンナが「ちょっと!」と声をあげた。


 しかし、誰も彼女の意見を聞くことは無かった。誰も、アリスたちと一緒に犠牲になるのは嫌だから。


「巻き込んでごめん」


 桃子は相変わらず、真っ青な顔をアンナに向けた。


「でも、アリスは絶対にアンナちゃんのことも守ってくれる。私のことは信じられなくてもいい。でも、アリスのことは信じて」


「……」


 アンナはしばらく桃子を見つめてから、「分かった」と素っ気なく答えた。


 その様子をじっと見つめていた俊宇は、「……桃子」とこの親戚に静かに声をかけた。


「……もしかして、……暴走期」


「そのまさかだよ」


 桃子は俊宇に弱々しく笑って見せた。


「だから、私が一番手。暴走期の千夜族なんて、一番手にピッタリでしょ」


「無茶よ!」


 思わずセレナが声をあげた。


 だが、アリスは相変わらず、きょとんとしている。


「ねえ、暴走期ってなに?」


「衝動を抑えきれなかったら、どうするつもり!?」


「あの……。ねえ、誰か教えてよ……」


 だが、セレナは桃子を必死に止めようとしているから、気付いていない。だから、心底嫌ではあったけれど、アリスはルイーズに救いの目を向けた。


「……アンタ、普段からそうやって人に聞いてばかりなんでしょ」


「だって、知らないんだもん」


「それはただの勉強不足」


 そう言って肩をすくめはしたものの、ルイーズは暴走期について教えてくれた。


「狼人間は満月の夜に理性を失って暴れまわるでしょ。千夜族にも、それに似た『暴走期』というものが存在するの。内容は『背水の陣』と似てるわね。決まった周期が来ると、魔力レベルが上昇する代わり、理性を失って暴れまわってしまうのよ。周期は人によるけれど、満月の日と新月の日に暴走する人が多いって、聞いたことがあるわ」


「でも、皓然がそうなってるの、見たことないよ」


「それは、暴走を抑えるための抑制剤を飲んでいるからでしょうね。恐らくだけれど、アンタの所のローズ・マルタンも同じようなものを飲んで、暴走を抑えているはずよ」


 この会話が聞こえたのか、ユーゴが「最新の研究によると」と口をはさんできた。


「千夜族の暴走期は、かぐやの家系特性『月詠み人』が関係しているんじゃないかって話だ。家系特性『月詠み人』は、満月が来るたび、魂に魔力が蓄積されていく家系特性らしい。それが、ユリア様の血と混ざって暴走期として残ったんじゃないかって」


「それ、正解だと思うよ」


 桃子は、アリスたちに弱った笑顔を向けた。


「私は、半月の夜に暴走するの。この地域だと、今日だね。アエラスだと一週間くらいずれるんだけど」


「その、今から抑制剤を飲むとかは?」


 ——パウラたちが言ってたの、このことだったんだ。


 そのことだけは理解したアリスだったが、桃子に首を横に振られてしまった。


「今から、あのレオ先輩のコピーと戦うんだよ? むしろ、暴走しているくらいが丁度いいと思う。魔力レベルも上昇するから、家系特性も使い放題だしね」


「……もし暴れたら、……俺が止める」


 同じ千夜族の俊宇がそう言って桃子を見つめると、桃子は「ありがとう」とやはり笑顔を見せた。


 しかし、アリスが手をあげた。今度は、ちゃんとみんなに疑問を聞いてもらえるように。


「どうやって、その暴走を止めるの? 物理的にやればいいの?」


「それしたら、確実に斎桃子は不合格になるわよ。戦闘不能者も不合格になるんだから」


 ルイーズは肩をすくめた。言葉には出さなかったが、顔には「やっぱり、アンタはバカだわ」とデカデカと書いてある。


 そんなルイーズとアリスが睨みあっていると、俊宇が「……使役魔術」と答えてくれた。


「……使役魔術で『暴走するな』って、……命令すればいい」


「そうだね。でも、私には安倍家の血が入ってる」


 桃子はそう言って、俊宇を見つめた。


「安倍家は使役魔術に対する抗体みたいなものがあるから、簡単にはかからないよ」


「……知ってる。……だから、ランフォード」


 俊宇と、桃子。二人の視線がアリスに向けられた。


「……俺と一緒に、……桃子の暴走を止める」


「悪いんだけど、お願いしていい? アリスレベルの魔力レベルの高さじゃないと、千夜族の暴走期は止められないと思うんだ」


 他の面々からの視線も受け、アリスは小さくうなずいた。


「分かった。やる」


「ありがとう」


 桃子はアリスに笑って見せてから、「よいしょ」と掛け声と一緒に立ちあがった。


「さてと。じゃあ、みんなも理解してくれたところで、行こうか。作戦内容の確認だよ。まず、アリスとルイーズちゃんが中に入る。レオ先輩のコピーがルイーズちゃんに攻撃している間に私たちが順番に入って行って、少しずつレオ先輩のコピーに攻撃を加えていく。要は、エリクくん。レオ先輩のコピーが弱ったところで、家系特性を使って止めを刺してもらう」


 みんなが頷くと、桃子は松、竹、梅の三体の人形を呼びだした。


「私の準備はできた。あとは、アリスたちのタイミングで行って」


 アリスとルイーズは頷くと、扉のドアノブに手をかけた。作戦会議に時間をかけてしまったから、残りの時間は約十五分。


 ——なら、ここでモヤモヤしている暇はないよね。


 アリスとルイーズは、大きく深呼吸をしてから扉を開けた。


 金髪の魔術師のコピーは、ゆっくりとその青い瞳を開けた。

お読みいただきありがとうございました!

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