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〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
※作者都合により、来週も土曜日に更新いたします。ご迷惑をおかけし申し訳ございません。これからも、「人間不信なくらいが、たぶん丁度いい」をよろしくお願いいたします。
〈あらすじ〉
千夜族特有の体質『暴走期』。この大事な日に、桃子はこの暴走が始まりかけていた。そんな桃子が捨て身の覚悟でレオを抑え込むという、このとんでもない作戦。それでも、制限時間まで残り僅かということで、アリスたちは最後のドアを開けた。
部屋に入ってきたアリスとルイーズを見て、レオは黙ってライフルを構えた。
もちろん、その照準はルイーズの心臓へ。
そうして放たれた一撃目だが、アリスがあらかじめ展開していた防御魔術によって弾かれた。
この洞窟は、入った者の全てをコピーする。
それはつまり、行動パターン、癖も。
レオは驚くと集中力が切れてしまう癖がある。アリスが、仲の悪いルイーズをかばったのだ。本物のレオでも、驚いて隙が出来てしまうだろう。
その小さな隙を作るための、囮だ。
レオの顔に驚きの表情が乗ったのを見て、アリスは叫んだ。
「桃子!」
アリスの言葉とともに部屋に入ってきた桃子は、アンナが防御魔術を展開したのを見てから、家系特性を発動させた。
「思いっきり、吹っ飛ばしちゃえ!」
三体の人形が同時にレオのコピーに攻撃を仕掛けたが、防御魔術によって弾かれてしまった。
レオのコピーは、手にライフルを持ったまま。防御魔術を発動させた魔法陣は、レオの左足を中心に広がっていた。
——足で魔術を使ってる!
そのことに気付いた桃子は、思わず引きつった笑みを浮かべた。
人は、何か作業をする時に手を使う。文字をかく、食事をする、何かを取る……。ほとんどの人は、それらを手で行う。
魔術もそれと同じだ。手は普段から細かい作業に使っているから、魔力操作をしやすい。だから、魔術師たちは手のひらに魔法陣を浮かべ、魔術を使う。
それなのに、レオのコピーは足を使って魔術を使った。そんな器用な芸当ができる魔術師など、そういない。よほど、魔術を使うのに慣れているか、訓練を積んでいなければ。
目の前にいるコピーが足で魔術を使ったということは、本物のレオも足で魔力を操れる、ということだ。
「本当、驚かせてくれるよね……!」
暴走しないギリギリのラインを責めていたのだが……。こんな化け物じみた魔術師のコピーが相手なら、力を制限する必要はない。いや、制限してはいけない。
桃子の瞳が、赤色を帯びた。
桃子の中で、何かが音を立てて崩れ落ちた。
それと同時に、三体の人形たちのお面にひびが入った。どんどん大きくなっていくひびは、ついに三体の素顔を表に出した。
みんな、顔が無かった。眼と鼻がある場所には穴が開いてあるだけ。唇もないから、歯が歯肉から直接映えているのが見えた。一部は、腐ってしまっている。
いつも人形たちが面を付けているのは、「怨霊」としての部分を文字通り隠すためだ。あの面には、怨霊たちを鎮めるための効果がある。『人形作家』の家系特性を持つ魔術師は、魂を入れるための人形だけでなく、その正体を隠すための面まで作らなければならない。
なぜなら、怨霊としての力が逆流して、魔術師に負荷がかかってしまうからだ。
三体の面が同時に割れ、もちろん桃子に三体分のどす黒い魔力が逆流してきた。いつもは白い火花を散らす魔力も、今は黒い火花を散らしている。
「桃子?」
嫌な感じがした。
アリスの声掛けに反応した桃子は、ニヤリと笑っていた。丁度この前、悪魔グレモリーを追い詰めた皓然のように。
「——あはっ」
楽しそうに笑った桃子は、人形たちに再びコピーを攻撃させた。コピーは今度も防御魔術を使って防ごうとしたが、無理だった。
コピーが作り出した防御魔術は、粉々に砕け散ってしまったから。
驚いて目を見張るコピーの顔に、鋭い回し蹴りが飛んできた。あまりにも勢いが良くて、歯が何本も吹っ飛び、コピーは体ごと大きく吹っ飛ばされた。
コピーに蹴りを入れた桃子は、さっきまでレオのコピーが立っていた場所に立ち、ゆっくりと唇を舐めた。相変わらず、楽しそうに。
その様子を見て、アリスの脳裏に浮かび上がったものがあった。
一年生になる直前の買い物。人さらいに遭いそうになったアリスを真っ先に助けに来てくれたのは、桃子だった。
忘れがちだが、桃子は魔術だけでなく体術も扱える。俊宇にはさすがに敵わないらしいけれど、素手での格闘なら、セレナとアダンも敵わない。加えて、今の威力。恐らく、攻撃に魔力を上乗せしたのだろう。そうでなければ、コピーとはいえ、簡単に人を吹っ飛ばせるわけがない。
「何アレ……。本当に暴走じゃない」
震えるルイーズの声に合わせて、アンナがふらりと立ち上がった。桃子に無理やり引っ張られてきた彼女は、ただ茫然と桃子を見つめている。
桃子は、そんな彼女にも固く握った拳を振るった。
しかし、アンナまであと数センチという所で、その拳は止まった。アリスの防御魔術がアンナを守ったからだ。
何となく嫌な感じがしたから、念のために張っておいたのだが……。どうやら、正解だったらしい。
桃子の真っ赤に染まった瞳が、ゆっくりとアリスに向けられた。
「じゃましたね?」
若干呂律の回っていない桃子は、そう言ってアリスにニタリと笑った。
アリスは何も言わない代わりに、桃子を睨みつけた。その隙に、扉からセレナたち他の受験者たちも入ってきた。やはり、みんな桃子の様子がいつもと違うことに、驚いているようだ。
「桃子は私と俊宇が相手するから! みんなはコピーをなんとかして!」
「分かった!」
アリスに真っ先に答えたセレナは鞭を取り出して、立ち上がろうとしていたレオのコピーに鞭を巻き付けた。
「“ライフルを捨てなさい”!」
セレナは家系特性を使ってレオのコピーに言うことを聞かせようとしたが、無理だった。血を流しながら立ち上がったコピーは、魔術を使ってセレナの鞭を破壊してしまったから。おまけに、セレナたちに向かって強風が襲い掛かってきた。
「っ!」
「……」
顔をひきつらせたセレナの前に割り込んできたのは、アメリだった。
アメリが投げつけたのは、黒い塊。そこから緑色の芽が出て来て、それは急速に成長し、大木となってセレナたちの前にどっしりと根を張った。
レオが放った風の攻撃魔術は大木を襲った。木の葉や細かい枝が落ちてきたが、ほとんどを大木が受けてくれたので、防御魔術で十分身を守ることができた。
「これで、貸し一よ」
驚くセレナに、アメリは素っ気なく言った。
それから、アメリは瞳を輝かせたまま大木を指さした。
大木は一瞬にして枯れ果てると、コピーがいた方向へ向かって倒れて行った。だが、大木は木っ端みじんにはじけ飛んでしまった。
木片の向こう側には、魔法陣を浮かべるレオのコピー。
レオのコピーが再びライフルを構えるのと同時に、宙を舞っていた木片と、地面に転がっていた木の枝、木の葉がコピーに向かって一斉に飛んで行った。
それらをコピーは防御魔術を使って防いだ。ただし、さっきとは違って余裕がなかったのだろう。ライフルの構えを解いて、左手に魔法陣を浮かばせていた。
アメリの『鉄花操樹』は、あくまでも目くらまし。本当の狙いは、コピーにもう一度隙を作り出すこと。
ユーゴの剣と、ペアの女魔術師の攻撃をライフルで次々と受け止めていくコピーだったが、急に飛んできた石が頭に当たった瞬間、砂になって消えていった。
「ふう……」
石を投げたエリクは、大きく息を吐きだして額の汗をぬぐった。その瞬間、不思議な光を灯していた彼の瞳は、元の茶色に戻っていた。
「ナイス、エリク!」
「まだ油断すんな!」
笑顔を見せたユーゴにエリクが叫んだ瞬間、大爆発が起こった。
アダンが作り出した防御魔術の向こう側では、人形たちを引き連れた桃子がアリスたちと向かい合っていた。
「次は桃子だよ! 正気に戻さないと!」
アダンの言葉に、ユーゴたちは再び構えた。
魔力レベル測定不能。
そんな結果を出した魔術師なんて、魔力レベルの測定が始まってからこれまで、無かった測定結果だった。
そんな魔術師が、魔力不足になりかけている。
状況は、それほどまでに悪かった。
お読みいただきありがとうございました!




