214.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
「——魔術師の本分って、困っている人を助けることじゃん」
「そうね」
「囮になるために、私たちって努力してきたわけじゃないよね」
「当たり前でしょ。やっぱり、アンタってバカだわ」
扉の前に立つアリスとルイーズは、そんな軽口をたたき合いながらも緊張していた。
『ランフォード、フレース。囮になってくれ』
最初、ユーゴのこの言葉は聞き間違いだと思った。
残念ながら、彼は本気だったけれど。
「今のランフォード兄妹の関係性を考えてみたんだ」
そう言って、ユーゴはみんなの視線を集めた。
「ランフォード先輩、ランフォードのことになると狂ったようにキレるんだ」
「ユーゴぉ。『ランフォード』と『ランフォード』じゃ分かりにくいよぉ。ぼくらの身内に、一体何人の『ランフォード』がいると思ってるのさ。七人だよ?」
アダンが情けない声をあげたので、ユーゴはなぜか顔を赤くしてから「じゃあ」と咳払いした。
「レオ先輩と、アリスで……」
「今更、何も照れることなんてないじゃん」
アリスがそう言うと、セレナは肩をすくめた。余計なことは、何も言わなかったけれど。
「んっと、レオ先輩が、アリスのこととなるとブチギレる、って話だよね」
脱線した話を元に戻そうと、桃子は手をあげてユーゴを見つめた。
「それこそ、今更の情報じゃないの?」
「その背景にあるのは、『俺がアリスを守らないといけない』っていう、義務感だと思うんだ」
「お兄ちゃんだからってこと?」
「そう。それか、ヘレナ先生たちにそう言われていたのか……。ルイス先生もアン先生も、『お兄ちゃんでしょ!』っていう風に怒るタイプではないと思うんだ」
桃子とユーゴの会話に、アリスは頷いて見せた。ユーゴの言う通り、両親は一度だって、兄たちに『お兄ちゃんなんだから』という言葉をかけたことがない。少なくとも、アリスはその場面を見たことがない。
かといって、アリスはヘレナとカイルが『お兄ちゃんでしょ』とレオに言い聞かせているとも、思えないのだ。……何となくだけれど。
しかし、ユーゴが言っていた通り、レオの行動の裏には「兄である自分が、妹のアリスを守らなければ!」という心理が働いているように思える。
「それで、その『兄としての正義感』があるとして」
話が進まないので、アリスはユーゴを見つめて腕を組もうとした。ルイーズと手首が繋がれていることを思い出したから、途中でやめたけれど。
「それがどうして、私たちを囮にするっていう、とんでもない作戦に結びつくわけ?」
「簡単な話、守るべき対象を攻撃するわけがないだろ?」
その言葉に、アリスはハッとした。
しかし、それとは反対にルイーズが眉をしかめた。
「ちょっと。それじゃあ、私だけが攻撃されるでしょ。私はどう見ても、大事な妹に害をなす存在だわ」
「そう。だから、フレースは完全に囮」
さらりと、とんでもないことを言いのけたユーゴは、ルイーズたち貴族からの刺すような視線をものともせず、アリスを見つめた。
「ランフォ……、アリスは、フレースを守り切ってくれ。お前、防御魔術が得意だろ。魔力レベルも高いし、魔力不足になることはないと思う」
「あくまでも『思う』なんだね」
ため息をつきつつも、アリスは背中のフィンレーに「いけそう?」と尋ねた。
主人とは打って変わって、この小さなキツネザルは力強くうなずいた。
「……それで、……俺らは?」
最もな俊宇の問いに、ユーゴはニヤリと笑った。
「エリク・ノヴァックがいるだろ」
「え、俺?」
驚いた声をあげたのは、ガイアの少年魔術師。黒髪に茶色の瞳、そばかすの散った、そぼくな顔立ちの少年だ。
「なんで?」
「お前の家系特性を借りたいんだ。ノヴァック家は、有名な冒険家一族だからな。家系特性、ノヴァック家の『主人公』だろ?」
「俺に、家系特性を使ってレオ・ランフォードを倒せって?」
「早い話、そう。難しかったら、俺らが動きやすいようにサポートしてくれればいいよ」
「ちょっとごめん」
話しについて行けず、思わずアリスは口をはさんでしまった。
「えっと。まず、どちら様?」
「あ、俺はエリク・ノヴァック」
そう言って、少年はアリスに笑って見せた。
「ユーゴとは去年の職業体験で仲良くなった。……ノヴァック家は冒険家の家で有名なんだ。まあ、簡単に言えば、秘境に真っ先に飛び込んでいく。それでも生きて帰って来れるのは、『主人公』の家系特性があるから。この特性は、いわゆる主人公補正を受けられる特性なんだ。だから、未知のウイルスや敵と遭遇しても生きて帰って来れる」
「最強じゃん!」
「でも欠点があってさ……。一日に三回しか使えないんだ」
そう言って、エリクは首をすくめた。
「ここに来るまでの間に、もう二回使っちゃった。今日はあと一回しか使えない。つまり、チャンスは一度きり。俺の魔力レベル的にもね」
「……失敗は許されない」
そう言って、俊宇はユーゴを見つめた。もし、この作戦が失敗すれば、ユーゴは魔術師をクビになった後も後ろ指をさし続けられることになる。しかも、貴族のルイーズを囮にするのだ。貴族たちからの風当たりも厳しいものとなるだろう。
それなのに、ユーゴは何も気にしていない様子だった。
「俺に家族はもういないし、失うものなんて何もないから。家のことを気にする必要なんてないしね。リーダーとクレアさんに迷惑をかけちゃうのは嫌だけど」
そう言った彼は、俊宇に笑って見せた。
「それに、みんなであの時決めただろ。絶対にこの試験はパスするって。だから、絶対にこの作戦は成功させる」
「そう来なくちゃ!」
嬉しそうにセレナが声をあげると、彼女とペアにさせられているアメリがルイーズを見つめた。
「ルイーズ様……」
「仕方ないわよ。こちらとしても、この試験は落とせないわ」
「『仕方ない』って言うのなら、他にいい作戦でもあるの?」
思わず飛び出したアリスの言葉に、ルイーズが鋭い視線を向けてきた。しかし、口を滑らせてしまった手前、アリスも後にひけなくて彼女を睨み返した。
「——残念ながら、何も思いつかないわ。『真正面からレオ・ランフォードのコピーと戦いに行く』っていう作戦以外ね」
「随分なパワープレイだね」
「アンタがいれば可能だと、判断したまでよ。最も、アンタがまともに魔術を扱えるのなら、だけど」
言い返そうとしたアリスだったが、何とかして口をつぐんだ。
相変わらず口は悪いが、ルイーズがアリスの実力は認めてくれているらしいから。
「ところで、アンタの使い魔。どうやら、契約に何を差し出したのか、分かったみたいね」
ルイーズはそう言って、フィンレーを見つめた。
「……なんで?」
「さっき、オリヴィア姫たちのコピーとぶつかった時。アンタ、迷わず使い魔に防御魔術を出すように指示してたでしょ。さっきも、プィチに防御魔術を使えって指示されて、使い魔に可能かどうか確認してた」
その言葉に、アリスは目を見開いた。ビビり散らかしているだけかと思ったら、以外に色々と見ていたらしいから。
「試験攻略のためにも、手の内は知っておきたいわ」
「分かった」
アリスは大きく息を吸いこみ、自分を見つめる受験生たちを見つめ返した。
「私とフィンレーは、『魔力』を共有してる。私と同じだけの出力で、フィンレー自身も魔術を使うことができる、みたい」
「『みたい』?」
アダンが眉をひそめたから、アリスは頷いた。
「あの休養期間中、ダリア先生と一緒に調べたの。でも、決定的なことではないから。だから、『みたい』」
「なるほどね」セレナはフィンレーを見つめた。「疑問なんだけど。そのフィンレーが使う魔術の魔力は、一体どこから供給されてるの?」
「私の魔力。つまり、私とフィンレーが同時に魔術を使うと、私はいつもの倍、魔力を失うことになる」
だから、アリスはフィンレーと同時に魔術を使うことができない。使ってもいいが、それは魔力を回復できる状況下にあるか、魔力が満タンの時に限られる。
そのことを聞いた面々は、再び思考を巡らせ始めた。
そんな中、座っているのに息を荒くしている魔術師が一人いた。
お読みいただきありがとうございました!




