213.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
※今週も、作者の都合により土曜日に配信いたします。ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。
〈あらすじ〉
最後の部屋を守っているのは、最強の攻撃魔術が使える魔術師。——つまり、レオのコピーだった。
ここを攻略できなければ奥へは進めない。そこでユーゴが提案してきたのは、アリスとルイーズを囮にする、というもので……。
森に囲まれた古い屋敷に、幼い女の子の泣き叫ぶ声が響き渡った。
これには、仕事の話中だったルイスとエスコも、二人にお茶を運んできたアンも、お気に入りの出窓で日向ぼっこ中だったルーナも、驚いた。
「どうしたの!?」
泣き声の主がいる子供部屋のドアを勢いよく開け放したアンに、金髪を持った女の子が走り寄ってきた。
「レイラがっ、レイラがぁ!」
「レイラがどうしたの?」
アンがしゃがみこんで視線を合わせると、女の子——アリスは、泣きながらお気に入りの人形を母親に見せた。
金色の髪をおさげにしていた人形のレイラは、髪を無残に切られ、服もビリビリに破かれていた。腕だって取れかけて、綿が飛び出している。
極めつけは、アリスの体だった。恐らく、レイラを守ろうとしたのだろう。まだ丸さの残る手は赤く腫れあがっていたし、頬には殴られた跡があった。今朝、アンに整えてもらった髪もぐちゃぐちゃだ。髪を引っ張られたらしい。
「おにっ、ちゃ、がぁ……!」
ワッと泣き声を上げたアリスを抱きしめつつ、アンはレオに鋭い視線を向けた。
「レオ。どうして、こんな酷いことをするの?」
「……」
レオは決まり悪そうにして、何も言わない。けれど、その青い瞳には薄い水の膜が張っていた。
そこにやってきたのが、ルイスとエスコだった。二人はアンから事情を聴くと、顔を見合わせた。
「——レオ、こっちに来い」
「……」
「レオ」
ルイスに低い声で名前を呼ばれると、初めてレオは頷いて重い足取りでルイスとエスコの元へ向かった。
三人は子供部屋の隣にある客間にひとまず入った。隣からは、まだアリスが泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
「レオ」
床に膝をつき、エスコは優しさすらにじむ声で、レオの名前を呼んだ。
「何があったのか、教えてくれるかい?」
「……たたいた」
「どうして?」
「アリスのせいだ」
そう言ったレオの瞳からも、涙がこぼれ落ちた。
「アリスなんか、いなかったらいいのに……! ママとパパが帰ってこなくなったの、アリスのせいだ。全部、全部アリスのせいだ!」
「……」
ルイスとアンが、レオに記憶を返して三日後のことだった。
レオが王宮魔法使いとして登城する前にと、彼の記憶を戻した。
つまり、レオにだけ「ヘレナとカイルが本当の両親だ」と伝えた。何があって二人と一緒にいられないのか、これからも自分たちが親として守るつもりだ、ということを説明した。
幼い子供だ。どこまで理解したのかは分からない。けれど、変わらずレオはルイスとアンを「お父さん」、「お母さん」と呼んでくれたから、安心していた。
そんな矢先に起こった事件だった。
「レオ。この前も話したが……」
「アリスは呪われてるんだ」
ルイスの言葉を遮って、レオはそう言い放った。
「アリスが生まれたせいだ! みんなおかしくなったの、アリスのせいだ!」
それを否定しようとしたルイスだったが、エスコに止められてしまった。
魔術界において、「呪われている」という言葉は、許されないほどの差別的な言葉だ。呪いというのは、黒魔術。かつて、世界を闇に染めた悪魔を連想させるから。
本来なら、妹を「呪われてる」なんて言ったレオは怒られるだろう。だが、エスコはそれをしなかったし、させなかった。
レオ自身が、その言葉を言ってはいけないと一番わかっているから。
その証拠に、今のレオは黙りこくって床を睨みつけながら涙を流していた。
記憶を戻す前までは、仲の良い兄妹だった。二人そろってラファエルにべったりで、ラファエルがいなくても、二人で一緒に人形遊びをしたり、テレビを見て歓声を上げていたりしていた。
——やっぱり、記憶を全部戻すべきじゃなかったか?
頭を抱えてそう悩むルイスの前で、エスコはレオの手をそっと握った。
「アリスに謝れるかい?」
「いやだ」
「レオ、お前な……!」
「そうか。謝りたくないなら、謝らなくていいよ」
レオを怒ろうとしたルイスと違って、エスコはそんなことを言い出した。しかも、レオに笑顔をまで見せて。
「謝りたくないんだろう?」
「うん」
「なら、無理に謝らなくていいよ。自分が謝るべきだと思った時に、謝ればいい」
「……」
黙りこんだレオを残し、エスコはルイスの手を取って客間を出た。
「おい、エスコ! お前、何考えてんだよ!」
もちろん、廊下に出てすぐ、ルイスはエスコにそう食いついた。
「今の内から、謝れるようになっておかないと! 今回、どう考えてもレオが悪いだろ!」
「でも、それはレオが納得した結果じゃない」
エスコはルイスの目をジッと見つめた。
「それに、ここで君がレオを怒ったら、レオはさらにアリスを恨むことになると思う。……私には子供がまだいないから、君とは考え方が違っているのかもしれない。でも、これだけはハッキリ言える。レオはまだ、子供だ。心の整理がまだついていないんだよ。大人でも、そう簡単に飲み込めない事実なんだから」
「でも、このままだとアリスが可哀そうなだけだ」
ルイスは、そっと視線を足元に向けた。
何も知らないアリス。きっと、兄が急に変わってしまって、アリス自身も戸惑っていることだろう。それに、レオがアリスの存在否定し続ける限り、今回のような事はなくならない。一方的に暴力を振るわれ続けることになってしまう。
それに、アリスは実の母親に目を……。
黙りこんでしまったルイスに、エスコは「今言えるのは」と、小さな声をかけた。
「レオの気持ちを否定するんじゃなくて、受け止めてやること。それを心掛けた方が良いってことだけだ」
「……わかった」
エスコはそれにうなずくと、子供部屋へと入って行った。
それを見送ってから、ルイスは一応ノックをしてから、再び客間に入った。
部屋の隅で、レオが小さくなってすすり泣いていた。
「レオ」
さっきとは違って、優しく名前を呼んだルイスは、そっとレオの隣に腰かけた。
「……お父さんと、鉄砲の練習してみるか?」
その言葉に、レオがパッと顔をあげた。
「怒るんじゃないの?」
「さっき、ピーピーおじさんも言ってただろ。お前がアリスに謝りたいと思った時に、謝ればいい。アリスを殴ったの、本当は悪いことだって分かってるんだろ?」
「……」
「分かってるのなら、この話はおしまい。気分転換に、やってみるか? 魔術師になるんだったら、練習していても損はしないはずだ」
「……やる」
「よし」
ルイスはレオの小さな頭を撫でてから、ゆっくりと立ち上がった。
「なら、明日から早速始めよう。でもな、レオ。これだけは約束しておいてほしい」
顔をあげたレオを、ルイスはまっすぐに見つめた。
「絶対に、殺しにこの技術を使うな。助けるために使え。魔術師って言うのは、本来そのために存在しているんだから」
お読みいただきありがとうございました!




