表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/221

213.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。

※今週も、作者の都合により土曜日に配信いたします。ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。


〈あらすじ〉

 最後の部屋を守っているのは、最強の攻撃魔術が使える魔術師。——つまり、レオのコピーだった。

 ここを攻略できなければ奥へは進めない。そこでユーゴが提案してきたのは、アリスとルイーズを囮にする、というもので……。

 森に囲まれた古い屋敷に、幼い女の子の泣き叫ぶ声が響き渡った。


 これには、仕事の話中だったルイスとエスコも、二人にお茶を運んできたアンも、お気に入りの出窓で日向ぼっこ中だったルーナも、驚いた。


「どうしたの!?」


 泣き声の主がいる子供部屋のドアを勢いよく開け放したアンに、金髪を持った女の子が走り寄ってきた。


「レイラがっ、レイラがぁ!」


「レイラがどうしたの?」


 アンがしゃがみこんで視線を合わせると、女の子——アリスは、泣きながらお気に入りの人形を母親に見せた。


 金色の髪をおさげにしていた人形のレイラは、髪を無残に切られ、服もビリビリに破かれていた。腕だって取れかけて、綿が飛び出している。


 極めつけは、アリスの体だった。恐らく、レイラを守ろうとしたのだろう。まだ丸さの残る手は赤く腫れあがっていたし、頬には殴られた跡があった。今朝、アンに整えてもらった髪もぐちゃぐちゃだ。髪を引っ張られたらしい。


「おにっ、ちゃ、がぁ……!」


 ワッと泣き声を上げたアリスを抱きしめつつ、アンはレオに鋭い視線を向けた。


「レオ。どうして、こんな酷いことをするの?」


「……」


 レオは決まり悪そうにして、何も言わない。けれど、その青い瞳には薄い水の膜が張っていた。


 そこにやってきたのが、ルイスとエスコだった。二人はアンから事情を聴くと、顔を見合わせた。


「——レオ、こっちに来い」


「……」


「レオ」


 ルイスに低い声で名前を呼ばれると、初めてレオは頷いて重い足取りでルイスとエスコの元へ向かった。


 三人は子供部屋の隣にある客間にひとまず入った。隣からは、まだアリスが泣き叫ぶ声が聞こえてくる。


「レオ」


 床に膝をつき、エスコは優しさすらにじむ声で、レオの名前を呼んだ。


「何があったのか、教えてくれるかい?」


「……たたいた」


「どうして?」


「アリスのせいだ」


 そう言ったレオの瞳からも、涙がこぼれ落ちた。


「アリスなんか、いなかったらいいのに……! ママとパパが帰ってこなくなったの、アリスのせいだ。全部、全部アリスのせいだ!」


「……」


 ルイスとアンが、レオに記憶を返して三日後のことだった。


 レオが王宮魔法使いとして登城する前にと、彼の記憶を戻した。


 つまり、レオにだけ「ヘレナとカイルが本当の両親だ」と伝えた。何があって二人と一緒にいられないのか、これからも自分たちが親として守るつもりだ、ということを説明した。


 幼い子供だ。どこまで理解したのかは分からない。けれど、変わらずレオはルイスとアンを「お父さん」、「お母さん」と呼んでくれたから、安心していた。


 そんな矢先に起こった事件だった。


「レオ。この前も話したが……」


「アリスは呪われてるんだ」


 ルイスの言葉を遮って、レオはそう言い放った。


「アリスが生まれたせいだ! みんなおかしくなったの、アリスのせいだ!」


 それを否定しようとしたルイスだったが、エスコに止められてしまった。


 魔術界において、「呪われている」という言葉は、許されないほどの差別的な言葉だ。呪いというのは、黒魔術。かつて、世界を闇に染めた悪魔を連想させるから。


 本来なら、妹を「呪われてる」なんて言ったレオは怒られるだろう。だが、エスコはそれをしなかったし、させなかった。


 レオ自身が、その言葉を言ってはいけないと一番わかっているから。


 その証拠に、今のレオは黙りこくって床を睨みつけながら涙を流していた。


 記憶を戻す前までは、仲の良い兄妹だった。二人そろってラファエルにべったりで、ラファエルがいなくても、二人で一緒に人形遊びをしたり、テレビを見て歓声を上げていたりしていた。


 ——やっぱり、記憶を全部戻すべきじゃなかったか?


 頭を抱えてそう悩むルイスの前で、エスコはレオの手をそっと握った。


「アリスに謝れるかい?」


「いやだ」


「レオ、お前な……!」


「そうか。謝りたくないなら、謝らなくていいよ」


 レオを怒ろうとしたルイスと違って、エスコはそんなことを言い出した。しかも、レオに笑顔をまで見せて。


「謝りたくないんだろう?」


「うん」


「なら、無理に謝らなくていいよ。自分が謝るべきだと思った時に、謝ればいい」


「……」


 黙りこんだレオを残し、エスコはルイスの手を取って客間を出た。


「おい、エスコ! お前、何考えてんだよ!」


 もちろん、廊下に出てすぐ、ルイスはエスコにそう食いついた。


「今の内から、謝れるようになっておかないと! 今回、どう考えてもレオが悪いだろ!」


「でも、それはレオが納得した結果じゃない」


 エスコはルイスの目をジッと見つめた。


「それに、ここで君がレオを怒ったら、レオはさらにアリスを恨むことになると思う。……私には子供がまだいないから、君とは考え方が違っているのかもしれない。でも、これだけはハッキリ言える。レオはまだ、子供だ。心の整理がまだついていないんだよ。大人でも、そう簡単に飲み込めない事実なんだから」


「でも、このままだとアリスが可哀そうなだけだ」


 ルイスは、そっと視線を足元に向けた。


 何も知らないアリス。きっと、兄が急に変わってしまって、アリス自身も戸惑っていることだろう。それに、レオがアリスの存在否定し続ける限り、今回のような事はなくならない。一方的に暴力を振るわれ続けることになってしまう。


 それに、アリスは実の母親に目を……。


 黙りこんでしまったルイスに、エスコは「今言えるのは」と、小さな声をかけた。


「レオの気持ちを否定するんじゃなくて、受け止めてやること。それを心掛けた方が良いってことだけだ」


「……わかった」


 エスコはそれにうなずくと、子供部屋へと入って行った。


 それを見送ってから、ルイスは一応ノックをしてから、再び客間に入った。


 部屋の隅で、レオが小さくなってすすり泣いていた。


「レオ」


 さっきとは違って、優しく名前を呼んだルイスは、そっとレオの隣に腰かけた。


「……お父さんと、鉄砲の練習してみるか?」


 その言葉に、レオがパッと顔をあげた。


「怒るんじゃないの?」


「さっき、ピーピーおじさんも言ってただろ。お前がアリスに謝りたいと思った時に、謝ればいい。アリスを殴ったの、本当は悪いことだって分かってるんだろ?」


「……」


「分かってるのなら、この話はおしまい。気分転換に、やってみるか? 魔術師になるんだったら、練習していても損はしないはずだ」


「……やる」


「よし」


 ルイスはレオの小さな頭を撫でてから、ゆっくりと立ち上がった。


「なら、明日から早速始めよう。でもな、レオ。これだけは約束しておいてほしい」


 顔をあげたレオを、ルイスはまっすぐに見つめた。


「絶対に、殺しにこの技術を使うな。助けるために使え。魔術師って言うのは、本来そのために存在しているんだから」

お読みいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ