212.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
試験内容が見直された、今回の昇級試験。ルイスはこれの意味に気付いたが、アリスたちが合格することを祈るしかなかった。
しかし、最後の扉を守っているのは、「最強の攻撃魔術が使える」魔術師のコピーで……。
「——げっ」
懐中時計を見たルイーズは、ご令嬢らしからぬ低い声を漏らした。
「制限時間まで、あと四十分しかないわ。どっかの足手まといのせいで」
「……どっかのご令嬢が頼りないから、の間違いじゃない?」
「頼りないのはアンタでしょ。家系特性もロクに仕えないクセして」
「そっちはビビりだけどね。魔術が使えても、防御もできないんだったら意味がないと思うけど」
相変わらずの二人の口喧嘩。
フィンレーはもう気にすることすらやめて、二人の背後を監視することに徹していた。
そんな二人と一匹が歩いて行くと、他のペアたちと合流した。ただし、みんな大きな扉の前に座り込んでしまっている。
「桃子、セレナ、アダン、ユーゴ、俊宇!」
そこにいた面々を見て、アリスの顔がパアッと輝いた。
「みんな、早かったんだね! ところで、何してるの?」
「……作戦会議」
相変わらず袖口で口元を隠し、俊宇はうなり声をあげた。
「……この奥がゴール」
「じゃあ早く行こうよ」
「それが出来ないから、作戦会議してるんでしょ。やっぱり、アンタはバカだわ」
ルイーズは大げさにため息をついてから、セレナとペアになっているアメリに「状況は?」と偉そうに尋ねた。思い切り睨みつけてくるアリスのことは、無視して。
「ゴール前の扉に、レオ・ランフォードのコピーがいるんです」
「お兄ちゃんの?」
アリスが驚きの声を上げると、「そう」と桃子がため息をついた。
「レオ先輩、『百発百中』が使えるでしょ。強行突破は無理。そもそも、私たちは自由に動けないから、正面切って戦うのも難しい」
その言葉に合わせるようにして、桃子の手首に付けられた手錠がジャラッと音を立てた。
「それで、みんなで知恵を出し合ってゴールしよう、って作戦会議してるのよ」
最後に桃子の言葉を引き継いだセレナだったが、ため息をついた。
ただでさえ、みんな自分と相性の悪い人と繋がれて、コピーから逃げ回って、心身ともに疲れ切っている。そんな状態なのに、平和に作戦会議を進められるわけがなかった。
そんなみんなの視線を受けて、アリスは首をすくめた。「お前、あの人の妹だろ」という無言の圧がすごいから。
現時点で、レオの『百発百中』を防ぐことができる人は二人だけ。牡丹と皓然の姉弟だ。方法はいたってシンプル。『百発百中』は狙った場所に当たる前に何かにぶつかってしまうと、術が解けてしまう。つまり、レオの攻撃が当たる前に撃ち落とすしかない。
この中でそれが出来る可能性があるのは、アリスと俊宇。
アリスはレオより魔力レベルが高いので、自分をすっぽりと覆う防御魔術を作れば防げる。代わりに、魔力不足に陥る可能性がある。
俊宇は近接戦の大物。ありとあらゆる武術を扱える彼であれば、レオの攻撃を撃ち落とせるかもしれない。その代わり、今は手錠で相方と結びつけられているので、思ったように動くことができない。動きが制限されていては、本来の力を発揮できないだろう。
「アダンに精霊を呼び出してもらって、手伝ってもらうのは?」
必死になって考えてみたアリスの案だったが、アダンは首を左右に振った。
「ここ、精霊たちを呼び出せないみたいなんだ。精霊たちの所に向かうための道を、塞がれちゃったイメージ」
「そ、そっか……。じゃあ、どうしよう……」
アリスはうつむいて、目を細めた。
レオの戦い方は知っている。基本は銃器を使った攻撃で、魔術はほとんど使わない。本人曰く、「俺はパウラが倒れた時用だから、念のため魔力を温存してる」らしい。『百発百中』を使った攻撃は、よほど追い込まれた時や、早く戦闘を終わらせたいときにしか使わない。
そのことは、他の面々も知っている。だからこそ、こうやって頭を悩ませていた。
大人数で一気に攻め込めば、レオのコピーを倒せるかもしれない。しかし、それはコピーにとってのピンチ。『百発百中』を使う理由を与えてしまうことになる。
「——なあ、ランフォード」
ずっと黙っていたユーゴが、ふと顔をあげてアリスを見つめた。
「お前、兄さんと喧嘩する方?」
「しょっちゅうだけど」
「どんな喧嘩?」
「今、関係あるの?」
「ある」
即答されたことに面喰いながらも、アリスはうなり声をあげてこれまでの喧嘩を思い返してみた。
「冷蔵庫で冷やしてたプリンを食べられたとか、どっちが先にシャワーを浴びるかとか、お兄ちゃんが私のことを見下してくるからとか……」
「ふーん。じゃあ、次。喧嘩の方法は?」
「方法?」
「そう。殴る蹴るなのか、魔術を使うのか、口喧嘩なのか」
「今は口喧嘩だね。昔はよく殴られてたけど……」
アリスがまだ四つくらいの時は、よく喧嘩でレオに殴られた。髪を引っ張られたり、ひっかかれたり。毎回、両親が止めに入ってくれたが、あの頃のレオは暴力を振るってくる、怖いお兄ちゃんだった。
ある時から、パタリと手をあげることは無くなったけれど。
アリスからの話を聞いたユーゴは、ブツブツと何かを呟き始めた。彼とペアのガイアの女魔術師は、それを見て嫌そうに顔をしかめていたけれど。
「——よし。これなら、いけるかも」
パッと顔をあげたユーゴは、アリスの目をまっすぐに見つめた。
「ランフォード、フレース。囮になってくれ」
「……は?」
アリスと、ペアのルイーズは、揃って顔をしかめた。
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