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209.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 ついに始まった中級魔術師昇級試験。どうやら、相性の悪い人とペアになるようになっているらしく、アリスはルイーズとペアになって試験に挑まなければならなかった。

 一方で、その頃アエラス王国ではというと……。

「——やっぱり、進展は無しだ」


「そっか」


 ルーカスの言葉に、パウラは肩を落とした。


 二年前に見つけた、父の遺言状。


 パウラはルーカスにそれを見せ、「心当たりはある?」と聞いてみたが、答えは「ノー」だった。だが、筆跡は間違いなく父エルンストのものであるということで、この兄妹は時間を見つけては父が遺したのだという最期の曲を探していた。


「アイツに頼るのは絶対に嫌だしな」


 既にボサボサの髪をかき回し、さらにボサボサにさせながらルーカスは呟いた。


 ルーカスの言う「アイツ」とは、もちろん長兄のローガンのことだ。今のツヴィングリ家を取り仕切っているのは彼だし、何より兄妹の中で一番、父と一緒にいた時間が長い。父から、何かヒントをもらっている可能性もなくはない。


 けれど、母と三人で家から追い出された二人は、ローガンと一言だって話したくはないのだ。


「ツテのある鑑識に頼んで、この手紙がいつ書かれたものなのか、調べてもらった」


 ルーカスは遺言状をひらつかせ、妹にため息をついて見せた。


「十五年は経っているらしい。つまり、書かれたのは魔力欠乏症を発症してからで間違いない。文脈的にも、自分が死ぬの分かっているみたいだし」


「つまり、十五年から十七年前だね。……兄さん。気になっていることがあるんだ」


 パウラは口元を覆い、散らかった兄の部屋の床を見つめた。


「パパは、未来のアエラスで何か不吉なことが起こることを知ってる。それは、なぜだと思う? ボクは最初、陛下の予言のことを言っているんだと思った。でも、時系列的に合わない。陛下が予言をされたのは、ヘレナ先生が行方不明になってから。……アリスたちが別世界へ移り住んだ年だ」


 さらに正確に言うとすれば、ルイスとアリスが命からがらヘレナから逃れてきた直後。その時にはすでに、エルンストは他界している。つまり、ゼノ国王の予言を聞いてからこの遺言状を書くのは不可能だ。


 ルーカスは再びため息をつき、「分からない」と腕を組んだ。


「俺も小さかったから、そこまで鮮明に父さんのことを覚えているわけじゃないし。確実に言えるのは、お前の瞳の色は父さん譲りだってことくらいだ」


「知ってる。家に写真あるし」


 実家のリビングに、エルンストが横笛を吹いている写真が飾られている。


 アエラス王国魔術師の制服に身を包む父は、栗色の髪と垂れ目がちな緑色の瞳を持っていた。


 丁度、パウラと同じ色。


 対し、髪色だけ父譲りのルーカスは、遺言状を机の上にポイと投げて椅子の背もたれに体を預けた。


「……兄さん。貴重なヒントをそんな乱雑に扱わないでくれるかな」


「置いただけだ。細かいことは気にすんな。皓然の細かい所が移ったか?」


「移ってたら、定期的にアイツがボクの部屋を掃除しに来るイベントは消えてるね」


「そうか。なら、移ってないな。——ところで、その皓然。厄介ごとを抱えているみたいだな。最近、千夜族たちの動きがおかしい」


「そうだね」


「桜花にも言っておいたが、皓然にも言っておけ。俺に出来ることがあれば、何でも言えって。……牡丹には色々と世話になってる」


「もう言ってある。『ボクとルカ兄さんは、味方になる』って……」


「それ、『ツヴィングリ家が』って訂正しとけ」


 その言葉に、ルーカスとパウラは同時にドアの方へ振り向いた。


 そこには、フェリクスと一緒にローガンが立っていた。尋ねてきたローガンを、フェリクスがここまで案内した、といったところだろうか。


 ルーカスが慌ててベッドの上に置かれていたローブに手を伸ばしたが、遅かった。ルーカスが手に取る前に、ローブはローガンの手に吸い寄せられてしまったから。


「相変わらず、認識阻害魔術に頼って……。情けない。それに、なんだこの汚い部屋は」


「あ、兄上……」


 ローブは盗られてしまったから、代わりにパーカーのフードを目深にかぶってルーカスは小さくなった。


 パウラも変な汗が一気に噴き出してきたのだが、音を立ててつばを飲み込んでから一歩、ローガンに向かって踏み出した。


「ローガン兄様。一体、何の御用でしょうか」


「……陛下がお前たちをお呼びだ。すぐに支度しろ」


「へ、陛下……?」


 ポラリスの陰に隠れ、ルーカスが驚きの声をあげた。


「な、なぜ陛下が」


「大事な話があるとのことだ。いいから早く支度しろ、愚図ども」


 相変わらずの口の悪さにイラッとしたものの、パウラたちは大人しく制服に着替えてローガンと一緒に国王の元へ向かった。


 それまでの道すがら、人々は驚いて廊下の端によってパウラたちに道を譲った。


 ツヴィングリ兄妹が一緒に行動していることなど、まずあり得ない。しかも、ルーカスが姿を現していることなんて。


 ローガンは慣れた様子で堂々と廊下を歩いていたが、ルーカスとパウラは居心地がとにかく悪くて仕方なかった。周りからこんな貴族扱いを受けるのには、慣れていない。


 何より、宮廷人たちが気味悪く思えて仕方なかった。いつも、ヒソヒソとパウラたちのことを噂して、酷い人だと嫌味を言ってきたり、わざとぶつかってきたりするのに。


「——やあ、待ってたよ」


 エスコとガブリエルに付き添われた国王は、姫と手を繋いで王族専用の中庭にいた。どうやら、中庭に咲いた花を姫と一緒に見ていたらしい。


「お待たせいたしました、陛下」


 頭を下げたローガンの後ろで、ルーカスとパウラもお辞儀して見せた。


 国王は兄妹に頭をあげさせると、大きなガーデンテーブルにツヴィングリ兄妹を座らせた。自身も姫と一緒に席に着くと、エスコとガブリエルに笑顔を見せた。


「ガブリエル先生、エスコも」


「かしこまりました」


 そう言って二人が連れてきたのは、ラファエルと少年だった。


 その少年を見て、パウラは目を見開いた。


 ラウリ・ピレネン。エスコの一人息子だ。


 エスコと同じ茶色の髪に、薄い茶色の瞳を持つ、大人しそうな男の子だ。身に着けているのは、王宮魔法使いの制服。パウラの記憶が正しければ、イリスと同じ魔法使い六年生。


 ガブリエルとラファエル、エスコとラウリは、それぞれ隣同士で席に着いた。


「さて。急に呼び出してしまって申し訳ない」


 国王は魔術でみんなのカップにお茶を注ぎ、微笑んだ。


「さあ、マヤ。みんなにご挨拶を」


 その瞬間、パウラの頭にはてなマークが浮かんだ。マヤ姫は、まだ意識がはっきりしてないため、言葉を発せないはずだ。


 それなのに、マヤ姫は父親にうなずくと、スッと立ち上がってパウラたちに優雅にお辞儀して見せた。


「本日は急なお呼び出しにもかかわらず、お集まりいただき、ありがとうございます」


「え……」


 パウラとルーカスが驚いているように、ラファエルとラウリも驚いていた。姫君に挨拶されたというのに、驚きのあまりすぐに挨拶を返せなかった。


 慌てて立ち上がろうとしたパウラたちに手をあげた国王は、「そのままでいいよ」と笑顔を見せた。


「見ての通り、うちのマヤの意識が戻った。なんとか、魔術師になるまでに間に合ってよかった。それに、家系特性も使える。近々、発表するつもりだ」


「お、おめでとうございます……?」


「ありがとうございます」


 混乱しているラファエルに優雅に頭を下げてから、マヤは再び椅子に座った。両手でカップを持ち上げて、上品にお茶をすすっている。


「そんなわけで、君たちには来てもらったんだ。三つの公爵家とその跡取りには、きちんと挨拶をしておかないとね」


 国王の言葉にルーカスとパウラが驚きの目を兄に向けたが、兄は心底面白くなさそうだった。どうやら、兄本人は弟妹たちを跡取りに、とは考えていないらしい。


 それを見て、国王は楽しそうに笑った。


「ローガンには、まだ子供がいないからね。だから、君たちに来てもらったんだ。ポポフ家も、アン先輩を呼ぶかどうか、迷ったんだけどね。ガブリエル先生に聞いたら、後継者にはラファエルをとお考えのようだから君を呼んだんだよ、ラファエル」


「さ、左様でございますか……」


 口ではそう言いながらも、ラファエルも驚きの目を祖父に向けていた。


 ガブリエルの子供は、アン一人。しかし、その一人娘をランフォードという平民の元へ降嫁させたものだから、跡取りがいなかった。「ポポフ家跡取り問題」は、時折新聞でも取り上げられるような問題だ。そんな重要なこと、祖父がまさか自分を跡取りに考えていたなど、ラファエルは一つも考えていなかった。


 しかし、冷静に考えてみればポポフ家の『創造』を受け継いだのはアンとラファエルだけ。跡取りがこの親子のどちらかになることは、当然のことだった。


「それから、ラウリ」


 国王は、緊張気味の少年に笑って見せた。


「君は、マヤと同い年だ。授業は一緒に出られないけれど、仲良くしてくれたら嬉しいよ。もちろん、誰とチームを組むのかは君の自由だけれど」


「か、かしこまりました!」


「うんうん、元気があっていいね。マヤは、誰とチームを組んでみたい?」


「そうですね……。エリス・ランフォードに、とても興味が惹かれますわ」


「エ、エリス!? ……で、ございますか?」


 思わず大きな声をあげたラファエルに、マヤは頷いて見せた。


「もちろん、エリスだけではありません。……ヴィクトリア・ベーコン、藤原茉白(ましろ)、それに、ラウリ・ピレネン。チームを組んでみたいのは、この四名でしょうか」


 姫自身は「組んでみたい」という言葉を使っているが、もうこのメンバーで一つ、新しいチームは確定したも同然だ。何も知らないエリスは嫌そうな顔をして「えー?」なんて言いそうだが、他のメンバーと周りが、このメンバー以外を認めないだろう。


 さっきから驚いてばかりのラファエルを見て、国王は腹を抱えて笑っていた。


「さっきから君の顔、ルイスとそっくりだよ!」


「そ、そうでしょうか……」


 確かに、容姿が似ている自覚はあるけれど……。


 (ひと)笑いした国王は、青い瞳に浮かんだ涙を拭ってから、集まった公爵家の人間たちの顔を一人一人、ジッと見つめた。


「さて。そろそろ本題に入ろうかな」


 そう言ってテーブルに肘をついた国王は、パウラたちにニコリと笑った。


「君たちに、千夜族のことでお願いしたいことがある。話を聞いて行ってもらおうか」

お読みいただきありがとうございました!

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