208.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
アリスたちの中級魔術師昇級試験を控えていて、ただでさえピリついているなか振ってきた、牡丹の策略結婚。姉弟で話し合ってみても解決の糸口は見えず、皓然は姉を守るために別世界にある李家を訪ねることを決意して……。
ついに迎えた、中級魔術師昇級試験当日。
アリスたちは、緊張の面持ちで試験会場に立っていた。
試験会場となるのは、共有管理地にある『写しの洞窟』。その洞窟の前に、アリスたち受験生は立たされていた。
試験内容は、この洞窟の最深部であるゴールにたどり着くこと。たったこれだけ。
「どんな魔術、魔法を使っても構いませんが、法に触れる行為は慎むこと。アゴーナスと同じです。他の魔術師への妨害行為は認めますが、再起不能のけがを負わせること、殺すこと、黒魔術を使うこと等は禁止とします。なお、使い魔の同行も認めるものとします」
試験監督の上級魔術師の言葉に、アリスたちは一斉に返事をした。それから、アゴーナスでも付けたイヤホンを配られ、アリスたちはそれを耳に付けた。
「では、名前を呼ばれた者は前へ」
そう言って、試験監督者はリスト片手に魔術師たちの名前を呼び始めた。
「アエラス王国エラ・ヨーエンセン初級魔術師、ネロ王国ロベルト・クシェペルカ初級魔術師」
名前を呼ばれた二人の魔術師が前に出ると、試験監督者は二人を手錠で繋げてしまった。
驚く二人を端に寄せ、試験監督者はどんどん名前を読み上げる。そして、必ず二人一組を手錠で繋げた。どうやら、ペアでこの試験に臨まなければならないらしい。
「アエラス王国アメリ・フォン・ウェーバー初級魔術師、アエラス王国セレナ・リラ・コルデーロ初級魔術師」
「え」
驚きというより、嫌そうな声をあげてから、セレナはアメリと一緒に前に出た。そして、やはり手錠でアメリと繋げられてしまい、二人して嫌そうな顔をして端に寄った。
それを見て、アリスは急にドキドキしてきた。
アリスも、セレナのように仲が悪い人とペアになるかもしれない。そう思うと、変に緊張してきた。魔術師人生のかかっている試験だから、なおさら。
「アエラス王国アリス・ランフォード初級魔術師、アエラス王国ルイーズ・ド・フレース初級魔術師」
——聞き間違い?
一瞬、本気でそう思った。
けれど、アリスと一緒に前に出てきたのは間違いなく、あのルイーズで。そして、そんな彼女の左手とアリスの右手が手錠でくっ付けられてしまったのも現実で。
「……」
「……」
二人は手錠で繋がれた手すらくっ付かないようにして、距離もとった。顔だって背け合っている。けれど、互いにこのパートナーに不満を抱いていることだけは確かだ。アリスは何も言わなかったが、代わりに肩の上でフィンレーがルイーズに威嚇して不満を示してくれた。
桃子たちもそれぞれのペアに別れた。どうやら、仲良し同士ではペアにならないようにされているらしい。桃子、俊宇、ユーゴ、アダンの四人のパートナーも、アリスの知らない魔術師たちだったから。
「制限時間は、三時間。それまでに我々審査員がいる部屋——ゴールまでたどり着くように。時間内にたどり着けなかったペア、戦闘不能となったペア、我々が『中級魔術師にふさわしくない』と判断した魔術師は、その時点で不合格となります」
試験監督者のそんな言葉に見送られ、アリスたちは洞窟の中にゾロゾロと入って行った。
入ってすぐ、道は二手に分かれていた。
アリスは左、ルイーズは右へ当然のように歩き出し、二人を繋いでいた手錠に引っ張られた。その衝撃でフィンレーはアリスの肩から落ちそうになり、慌てて主人の腕に捕まった。
「……左でしょ」
「いいえ、右よ」
「なんで右なの」
「そっちは、どうして左なのよ」
「質問に質問で返さないでよ。……なんとなくだけど」
「考えなしね」
「……そっちは? まだ答えてないでしょ」
「……特に理由なんて無いわよ」
「へえ。考えなしはどっちだろうね」
二人は言い合ってから、互いを睨み合った。
フィンレーはそれに首をすくめたが、あることに気が付いてアリスの肩によじ登って髪を引っ張った。
「な、なに……」
髪を引っ張られたアリスは、フィンレーが周りを示すからハッとした。
他のペアたちも、アリスたちのように言い争っている。右だ、左だ、と言い争い、他のペアではなく自分のパートナーに攻撃しようとしている、血気盛んな魔術師まで。
「なにこれ……」
ポカンとしていると、フィンレーがアリスの頬を叩いてあるペアを指さした。
「——絶対に右!」
「左!」
「右だってば! 右ったら右!」
「左に決まってるでしょ! 千夜族は頑固で嫌ね」
「はあ!? 千夜族とか今は関係ないし!」
なんと、あの温厚な桃子がペアになった女の子と口喧嘩していたのだ。それに、セレナも、アダンも、ユーゴも、口数の少ないあの俊宇まで。
「ちょっと。時間制限あるの分かってる? 早く行くわよ」
「待って。これ、どう考えてもおかしいでしょ」
早く右への道を行こうとしていたルイーズを止め、アリスは「ほら」と周りを示した。
「他のペアも、上手くいってない。こんなこと、あり得る?」
「……大方、相性の悪い人同士でペアにさせられてるのよ」
腰に片手を当て、ルイーズはフンと鼻を鳴らした。腕を組みたいところだが、もう片手はアリスと繋がれているのであきらめた。
「それに、この洞窟だし。焦って喧嘩になるのよ」
「この洞窟って有名なの?」
「アンタ、本当にバカ?」
言い返そうとしたが、アリスはグッと言葉を飲み込んだ。ルイーズが言っている通り、相性の悪い人同士でペアを組まされているのだとしたら、ここで言い返してはいけない。それでは、同じことの繰り返し。一つも前に進まない。
アリスが言い返すのを我慢している理由に気付いたのか、ルイーズはため息をついてから教えてくれた。
「この洞窟は特殊な魔術がかかっているの。元々は、最深部に眠る財宝を守るために、この洞窟に入った生き物の能力を全てコピーして、それを侵入者に襲わせていた。でも、第三次世界大戦時にフォティアの魔術師たちがその魔術を少し改変した。『これまでに洞窟に入った者の中で、比較的強いコピーに侵入者を襲わせる』ってね」
「『比較的強いコピー』?」
「つまり、学生時代の先生たちのコピーと当たる可能性が高い。……アンタのママとパパとかね。だから、みんな焦ってるのよ。この洞窟が侵入者を感知した瞬間から、これはただの洞窟探索じゃなくなる。コピーとのかくれんぼが始まるのよ。時間制限もあるから、なおさらね」
ルイーズの言葉を聞き、アリスは思わず考えこんだ。
これまでに洞窟に入った者の中で、比較的強いコピー。確かにそれならルイスとアン、それにヘレナやカイルが出てきてもおかしくない。それに、今の上級魔術師たち、基準値を超えていれば、パウラたちのような先輩たちも。
試験を行うほど、この洞窟はコピーを増やしていくことになる。つまり、手駒を増やしていくわけだ。毎年、どこかの国から上級魔術師が誕生するから、最低でも一年に一人は増えているはずだが……。
「——限界はないの?」
「はあ?」
「だから、この洞窟がストックできるコピーに、限界はないの? 三十体まで、とか」
「そこまでの情報開示はされてないわ。でも、戦争中に改変された魔術だから、そんなものは無いと思っていいわよ」
「じゃあ、次の質問。コピーは瞬時に作り出されるものなの?」
「どういうこと?」
「つまり、現時点で私たちのコピーは作られているのか、ってこと」
「さあ? もしそうだとしたら、アンタがなんとかしなさいよ。アンタのコピーでしょ」
「ふーん……。私のこと、基準値を超える人間だって思ってるんだ?」
アリスは思わずニヤリと笑ってしまって、瞬間的に「しまった!」と口を閉ざした。これでは、頑張って避けてきた言い合いになってしまう。
そう思ったのだが、ルイーズは相変わらずの態度で「当たり前でしょ」と洞窟の先を睨んでいた。
「魔力レベルは測定不能。あのヘレナとカイルの実の娘で、フォティア王家の血筋。そんな魔術師、これまでにいたことないわ。アンタの大好きなレオ・ランフォードでも、ちゃんと魔力レベルは測定範囲内よ。もちろん、ヘレナ・ランフォード、ルイス・ランフォード、ラファエル・ランフォードもね」
「へ、へえ……」
協力的で素直なのはありがたいが、ルイーズがこんな態度ではなんだか調子が狂う。
「質問には答えたんだから、行くわよ。右に」
「なっ……!?」
「右から、濃い魔力を感じる。この洞窟は財宝を守るためにコピーを作っているのよ? つまり、コピーがいる方が正解。最深部に繋がらない道なら、わざわざ無駄に魔力を消費してコピーを配置する理由がないわ」
「な、なるほど」
今度はちゃんとした理由を示してきたルイーズに、アリスは小さくうなずいた。
「じゃあ、右に行こう」
「……アンタが素直だと、やりにくいわ」
「こっちのセリフだけど!?」
そうは言いつつも、アリスはルイーズと一緒に右側の道へ歩き出した。
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