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205.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。

※作者都合により、今週、来週は本日4/18(土)、4/25(土)に投稿いたします。


〈あらすじ〉

 中級魔術師昇級試験に向けて、勉強と実技を重ねているアリスとアダン。しかし、「今回の試験には何やら目的がありそうだ」と話しているパウラたちの話をアリスは聞いてしまって……。

「——それでね、それでね。エリーね、今日は足し算と引き算を習ってきたの。でもね、どうして二と三を足したら五になるのか、全く分からないの」


「先生に聞いたのか?」


「聞いたけど、分からなかったの」


 捕まれた右腕を振られながら歩くルイスは、「それでね」と話し続けるエリスに、肩をすくめた。


 これまで、家族で一番のお喋りはアリスだったが、最近、それがエリスに塗り替わった。寝る時以外、ずっと話しているのではないだろうか。


 対し、ルイスと左手を繋ぐイリスは、静かなものだ。元からあまり話すタイプではないのだが、エリスが来てからはさらに話さなくなった。エリスがお喋りだから、余計にイリスの物静かさが目立っているのかもしれない。


 相変わらず、この双子の姉妹が口を利くことは無かった。昼間は別々の教室で授業を受けているのでその時はいいのだが、放課後になって顔を突き合わせると、二人そろって目をそらす。最初はエリスも何も言わなかったが、慣れてきた今となってはイリスのことは完全にいないものとして、こうして話し続けるようになった。


 エリスの話が一段落ついたのを見計らって、ルイスは「イリス」ともう一人の娘を見つめた。


「入試の勉強、どうなんだ?」


「リジーと舞が教えてくれてるから、何とかついていけてる」


 イリスがそう答えた直後、「ルイス!」とエリスが右腕を引っ張ってきた。


「まだ、エリーが話してるでしょ!」


「はいはい。悪かったって……」


 そんな娘二人に振りまわされながら帰宅した上級魔術師は、家の前にしゃがみ込んでいる長男を見て、なんだか疲れが一気に出て来た気がした。


「こんなところで、何してんだ?」


 あえて「お前、いくつだよ」とは言わなかった。ラファエルがこうして尋ねてくるなんて、よほどのことがあってのことだろうから。


「……親父」


 ふらりと立ち上がったラファエルは、ルイスの両肩を掴んで泣きそうな顔をあげた。


「結婚式ぶち壊したら俺、捕まるかな!?」


「……は?」


 話しが全く見えない。


「ラファエル、何の話?」


 エリスのもっともな問いに、ラファエルは「牡丹が!」と涙ながらに訴え始めた。


 だが、上級魔術師が廊下で父親と妹たち相手に涙ながらに話しているのは目立つので、ルイスはとりあえず家の中に子供たちを放り込んだ。


 音を立てて鍵を閉めたルイスは、「まずは落ち着け」とラファエルに肩をすくめて見せた。


「それで、みんな手を洗ってこい。話はそれからだ」


 みんな手を洗って、インスタントコーヒーとジュースをそれぞれ用意して、家族四人はソファに座った。相変わらず、エリスとイリスは隣同士にならないよう、ルイスを間に挟んで。


 そのことにすでに疲れを感じつつも、ルイスは「それで?」とラファエルに詳しく話をするよう促した。


「その、牡丹が梓睿と結婚することになって」


「へえ、めでたいな。アイツら付き合ってたのか」


「ちっがう! 翠蘭(スイラン)のババアが、無理やり二人を結婚させようとしてんだよ! つまり、策略結婚!」


「はあ、なるほど」


 それで、「結婚式をぶち壊したら……」などと言っていたわけだ。


 味の薄いコーヒーに眉をひそめ、ルイスが「淹れるの失敗したな」なんて心の中で思っていたら、ラファエルは「『なるほど』じゃなくて!」とまた声を荒あげた。


「なんで、親父もローガンも、そんな呑気なんだよ! 策略結婚だぞ!? 本人の意思はガン無視だぞ!?」


「今どの段階だか知らないが、策略結婚でも本人同士の意思がなければ成立しないだろ。ということは、牡丹も梓睿もこの結婚に同意してるってことだ。何が問題なんだ」


「大ありだよ! 牡丹はこの結婚を望んでないんだから!」


「まあ、策略結婚だしなぁ」


 それに、普段の牡丹と梓睿の関係性から考えるに、二人は互いに恋愛感情など抱いていないだろう。年の近い親戚であり、それ以上の関係はないことは、ルイスにもわかる。


 それなのに牡丹がこの結婚を承諾したのは、家族のため。弟の皓然を思ってのことだろう。そのことには、簡単に行きつく。


 ただ、ルイスにはどうしても分からないことがあった。


「お前、何をそんな感情的になってるんだ?」


「だから、牡丹はこの結婚を望んでいなくて……!」


「牡丹はそれでも結婚することを決めたんだろ? 正直に言わせてもらうと、それはお前に関係ないはずだ。ただのチームメイトだろ?」


 その言葉に、ラファエルがポカンとした顔をした。


「え……。いや、だって……」


「チームから抜けるとか、そういうことを言っている訳ではないんだろう? ここの王宮医を辞めるだとか……。そうじゃないのなら、お前が牡丹を引き留める理由がない」


「確かに、そうだけど……。そうじゃなくて……」


「『そうじゃなくて』?」


「……俺も、よくわからなくなってきた」


 ポツリとこぼしたラファエルは、コーヒーカップを手に取った。しかし、それを飲むのではなく、カップを手に持っただけだった。ルイスとお揃いのエメラルドの瞳は、カップの中に視線を落としている。


 ラファエルが黙ったのを見て、「策略結婚ってなに?」、「翠蘭のババアって誰?」とエリスが再び口を開きだした。


 それらを適当にあしらいつつ、ルイスはこの前アンに言われたことを思い出した。


『あなたとラファエルは、本当にそっくりね』


 ルイスはそれを、最初は見た目の話だと思った。確かに、ルイスとラファエルは目元がそっくりだとよく言われるし、背格好も似ている。違いと言えば、ラファエルの方が背が高くて、髪色がアン譲りの赤茶色だということくらい。


 ……と、よくチームメイトのゼノとエスコには言われる。


 それなのに、アンまで自分たちをそっくりだと言ってきた。ということは、もしかすると性格面まで似ているのかもしれない。


 そうだとしても、やはりルイスにはラファエルがこうも取り乱す理由が、分からないのだが……。


「もういい!」


 ルイスが話を聞いてくれないから、エリスは勢いよく立ち上がった。


「皓然の所に行く! 皓然に教えてもらうから、もういい!」


 そういうが早いか、エリスはルイスたちが止める間もなく家を出て行った。

お読みいただきありがとうございました!

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