204.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
これまで助けてもらった恩返しがしたい。アリスたちはその気持ちから「絶対に試験を合格しよう」と約束し合った。そんな試験勉強を頑張るアリスを前に、レオが思い出していたのは実の両親、ヘレナとカイルのことで……。
それから数日が過ぎ。
アリスたちはそれぞれで、昇級試験に向けての準備を進めていた。
魔術に関する知識は、対策講座で。それを、魔術実技で実際にやってみる。それを繰り返していた。
そのうち、アリスとアダンの二人だけで中級レベルの魔物を倒せるようになった。元々、魔力レベルの高い二人だ。コツさえ掴んでしまえば、すぐにそれを形にすることができた。アリスはこの時ほど、自分が上級魔術師の娘であることに感謝したことはない。
パウラたちに「これほどの完成度なら、問題ない」と、お墨付きをもらえるほどに、二人はレベルアップした。
しかし、なぜだかメアリーは一度も「問題ない」、「大丈夫」という言葉をかけてくれなかった。彼女の性格なら、パウラたちよりも先に「絶対に合格できるわよ!」と笑ってくれるのに。
そのことに気付いたのは、すでに中級魔術師になっている四人の方だった。
だから、アリスたちが眠りについた後、四人はリビングに集まった。
「まあ、大体の予想はつく」
腕を組み、パウラは目を細めた。
「試験内容が変わったんだ。アリスたちに不利な内容に」
「だから先生は、誰がどう見ても合格になるレベルまで、二人の能力を引き上げたい、と」
アルの鬣を撫でてやりながら、レオは小さな声でそう言った。
「まず、全世界魔術師育成委員会が、三年生の初級魔術師全員に受験票を送り付けてきた時点でおかしいけど」
「そう、そこだ」
パウラはレオに指を鳴らした。
「あんなお堅い組織が、アリスをクビにしたがるわけがない。ユリアを追い出したとはいえ、アリスの能力は未知数だし、ヘレナ先生——フォティア王家の血を引いていることに変わりはない。むしろ、何としてでも中級にあげたいくらいだろ」
「だからこそ、アリスたちに不利な内容に試験内容が変更されていると、矛盾が生じるわけですけど」
口元に触れながら、皓然は低いうなり声をあげた。
「三年生以外にこんな措置は取られていない……。明らかに、今の三年生の誰かを狙った試験内容の改変です」
「そして、その対象がアリスである可能性が極めて高い」
皓然の言葉を引き継いで、そう言い切ったローズだったが、「でも」と言葉を続けた。
「その対象が、アリスではなかったら?」
「どういうことです?」
「つまり、アリス以外の人をクビにしたくて仕込んだ、とか」
問いかけてきた皓然を見つめ、ローズはゆっくりと口を開いた。
「たとえば、そう。——桃子」
「……ありえますね」
思わず、皓然の口から鋭い舌打ちが漏れた。
「今の全世界魔術師育成委員会の会長は、土御門先生。保守派の代表格のような人ですから。千菊おばさんのこともあるし、桃子のことは気にいらないでしょうね。桃子が試験に落ちれば、斎家はかなりのダメージを負うことになる。親子二世代揃って、魔術師ではなくなるんですから」
「そんな私情を、会長ともあろう人が持ち込んでいいのかよ」
「会長だからですよ。パウラが言っていたように魔術師育成委員会はお堅い組織ですから、まず会長の言うことは絶対です。だからこそ、千夜族が会長になるべきじゃないのに……。千夜族の考えをあんな大きな組織に持って行ったら、均衡が崩れるに決まってるじゃないですか」
レオに答え、皓然は大きなため息をついた。
とはいえ、なにも土御門家だけが保守的な考えを持っているわけではない。どちらかと言えば、千夜族は全体的に考え方が保守的。王家とは別に、黄家を中心とした階級制度を持ち、千夜族同士の結婚を良しとし、より濃い血を、より強い魔術師を残そうとする。
斎千菊は、そんな千夜族たちからしたら異分子そのものでしかない。王の命令にも、黄家の命令にも従わない。自分の好きなように生きる。
他からすれば、当たり前のことなのかもしれない。しかし、それは千夜族の中では許されないこと。家を守るべき当主が、ずっと家を留守にしているなど、ありえないことなのだ。
そんな彼女を、千夜族が無理やりにでも家に縛り付けていない理由は、ただ一つ。
斎千菊に強制力のある命令を出せる黄家の当主が、いないから。
現在、黄家を切り盛りしているのは、先代当主の妻である黄蕈霸と、その娘である翠蘭。二人は黄家の権力を使って千夜族にあれこれと指示を出しているが、それらに強制力はない。
今もまだ、黄家の当主にして千夜族の筆頭として認識されているのは、黄皓宇だからだ。彼自身の言葉と意思でなければ、千夜族を動かす命令とはならない。
そんな黄家の人間である皓然だが、やはり千夜族の中でもその出生には賛否が分かれる。
特に、両親が駆け落ちしたことについて。
黄家は千夜族のトップなので誰も責めはしないが、安倍家は千夜族の中でそれほど高い地位の家ではない。だからこそ、母親のことで後ろ指を指されることがある。
「——まあ、色々と言いましたけど。試験内容が変更になった裏には、アリスか桃子のどちらかに関する何かがある。という説が濃厚ですね」
「だとしても、やっぱり引っかかるよな」
ついに、パウラは立ち上がって部屋を歩き回り始めた。
「アリスを中級にしたくない意図が分からないし、桃子をクビにしたいのなら別の手段を使った方がいい。まあ、試験内容が変更された、っていうのもボクらの憶測でしかないけど」
「限りなく現実に近い、だけどな」
そう言って、レオは肩をすくめた。
そんな四人は、気が付いていなかった。
アリスの部屋のドアが、薄く開いていることに。
「……」
足元で不安そうにアリスを見上げるフィンレーは、小さな鳴き声を上げた。「大丈夫?」と主人のことを気にかけて。
けれど、床の一点を睨みつけるフィンレーの主人は、それに気付いていなかった。
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