203.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
中級魔術師昇級試験の対策講座を受けたいことを、リーダーたちに報告しに行ったアリスたち。しかし、そこでパウラをはじめとした先輩たちのクラスでの立場を知ったアリスたちは……。
納得したのか、と聞かれれば、答えはもちろん「ノー」だ。
ずっと自分たちのことで手一杯で、先輩たちのことまで頭が回っていなかった。アリスたちだって、最初はルイーズたちに嫌がらせをされたのだ。同じ『あまりもの組』であるパウラたちだって、同じ目に遭っていてもおかしくなかった。
「——私、決めた」
いち早く食事を終えたセレナは、皿を見つめながら静かに口を開いた。
「絶対に、試験に合格する。それで、リーダーたちは間違っていないんだって証明したい。ここで落ちたら、リーダーたちの力不足なんだって、あの人たちに言われちゃうと思うの」
「私も、そう思う」
食事の手を止め、桃子も険しい顔で頷いた。
「ニャットくんたちは、何も間違ってない。というか、先輩たちをバカにされていい気分はしないな」
「……俺、キレそうだった」
「だな。——同じ中級魔術師になれば、例え先輩相手でも、俺らもあの人たちに口出しできるようになる」
ユーゴは拳を固く握った。
「今度は、俺らの番だ。リーダーたちのこと、助けに行こう。俺らだって魔術師だ」
その言葉に、アリスたちは一斉に頷いた。
お昼を挟んで教室に戻ると、手紙を受け取った生徒のほとんどが席についていた。
その中には、ルイーズとアメリの姿もあった。こちらには見向きもしなかったけれど。
対策講座の中身は、とにかく魔術がメイン。魔術の構成から、効果的な組み合わせ、連続で魔術を使うにはどうすればよいのか……。
魔術実技で本来は習うべきことなのだろう。だが、実践がメインの魔術実技と違って、こちらは座学がメインだった。「構造を理解していなければ魔術を扱えない」ということで、山ほどの魔導書が課題図書として課された。そして、それらに関するレポートも。
夏休みに、ダリアと一緒に勉強した時のようだ。アリスは久しぶりに、何時間も机に拘束されて本を読み漁ることになった。
それは、部屋に帰ってからも同じだった。
パウラたちに「あまり、根をつめすぎるなよ」と言われても、アリスたちが魔導書から顔をあげることは無かった。
「——お兄ちゃん、ここ教えて」
「んー?」
アリスに指さされた部分を覗き込み、レオは驚きの声をあげた。
「『古代魔術』!? お前、こんなんやってんの!?」
「うん。レポート書かなきゃ。これ、魔術史学でしょ? お兄ちゃんとメアリー先生の専門分野でしょ?」
「そうだけど……。先生たちも、すごい力の入れようだな……」
そう言いながらも、レオは勉強を教えてくれた。
「——なるほど。分かった、ありがとう」
「分かってくれたのはいいんだけどさ……」
レオの視線は、テーブルの上に積み上げられた二人分の課題図書に向けられた。
「これ、全部やるの?」
「やるよ」
「いくら詰め込んでも、実践できなきゃ意味ないだろ」
「それでも、やるの」
ペンを走らせながら、アリスはレオに答えた。
「——私、上級魔術師になりたい。絶対に。だから、この試験は死んでも落とせない」
その言葉に先輩たちは顔を見合わせ、まじまじとアリスを見つめた。けれど、勉強に夢中のアリスがその視線に気づくことは無かった。
魔術師養成課程に入学した時点で、みんなの最終目標は上級魔術師になることだ。
ただし、それはただの上級魔術師ではない。専門分野を持つことで、王宮に仕えてもいいし、王宮外で就職しても良いようにする意図がある。別世界で、就職活動を有利に進めるために資格を取ろうとするのと同じだ。
それに、上級魔術師でなければ就けない職業も存在する。それはいわゆる「専門家」と呼ばれる人たち。アリスたちに勉強を教えている教員を務める上級魔術師たちが、まさにその最たる例だろう。それから、守り人、魔術医師、錬金術師、裁判官、警備隊の上層部、などなど……。
もちろん、ただの上級魔術師として王宮に仕え、依頼をこなしていくタイプの人もいる。アリスたち学生がアゴーナスや長期休暇で留守にしている間、王宮を守り、依頼を受けてくれる人たちだ。一般的に「フリーの上級魔術師」なんて呼ばれている。決まった仕事があるわけではないから。
さて。アリスがなりたいと言っている「上級魔術師」というのは、一体どのタイプの上級魔術師なのだろうか。
一つだけ言えるのは、「アリスが上級魔術師になったら、確実にヘレナの討伐に向かわされる」ということ。
そのことを、アリスはきちんと理解しているのだろうか。
自分の夢をかなえることは、実母を殺すことに繋がるのだということを。
パウラたちからの視線を受ける中、レオは黙って積み上げられていた課題図書の一冊を手に取り、椅子に座った。
アリスはまだ小さかったから、ヘレナとカイルのことをあまり覚えていないのだろう。
レオとは違って。
レオは、おかしくなる前のヘレナのことも、行方不明になる前のカイルのことも、覚えている。まだヘレナがアリスを妊娠中だった時のことだって、かすかにだけれど覚えている。
『レオくんはね、もう少しでお兄ちゃんになるのよ』
大きく膨らんだ腹を撫でながら微笑んだ母に、レオはパッと顔を輝かせた。
『おにちゃん?』
『お兄ちゃん。お、に、い、ちゃ、ん』
首を傾げたレオに、ヘレナは笑ってその頭を優しくなでた。
『『お兄ちゃん』って呼んでもらえるような、優しいお兄ちゃんになるのよ。私とルイスみたいになってはダメ』
『お前らは特殊すぎる。参考にはならないだろ?』
そう言ってレオを抱き上げたのは、カイルだった。ヘレナの隣に腰かけ、レオは自分の膝の上に座らせた。
『アビーがいたら、兄妹を教えてやれたんだけどな』
『カイル……』
『気にすんな。アイツは今、ユリア様の所で両親と幸せに暮らしてるはずだから』
そう言ってレオの頭を撫でまわしたカイルの手は、ヘレナと違って大きくて、固かった。手のひらには、何の武器を使ってできたのか分からないが、マメがたくさん潰れた痕があった。
『ぱぱ!』
『うん?』
『れおね、まじゅしゅし!』
『そうか、魔術師になりたいのかぁ』
レオの丸い顔を両手で挟み込み、カイルは笑っていた。
——今思えば、少し悲しそうに。
『レオ。パパがこれから言うこと、絶対に覚えておくんだぞ。——』
「——アリス」
「ん?」
「……ごめんな」
ポツリとこぼしたレオの謝罪の言葉に、アリスが反応して顔をあげた。
「何がごめんなの?」
「色々」
「はあ……? よくわかんないけど、とりあえず許してあげる。いいよ」
再び勉強に戻った妹をしばらく見つめてから、レオも手元の本に視線を落とした。
けれど、記憶が邪魔して全く中身が頭に入ってこなかった。
お読みいただきありがとうございました!




