202.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
アリスたちに突然配られたのは、中級魔術師昇級試験の受験票。ただし、これはただのチャンスではなく、「合格できなければ強制退学」という条件付きで……。
昼休みを告げる鐘が鳴ってすぐ。
アリスたち仲良し六人組は五年生のクラスへと向かった。もちろん、中級魔術師昇格試験対策講座に出席することを、それぞれのリーダーに伝えるためだ。
「そう言えば、上の学年の教室に行くのって初めてかも……」
ポロッとこぼしたアリスに、「確かに」とアダンが同意してくれた。
このチームは基本、先輩たちが二人の所に来てくれる。良くも悪くも、アリスもアダンもマイペースだから、あちらの方が早く支度が終わるからだ。それに、リーダーであるパウラと、補佐役の皓然が同じクラスにいる関係上、あちらで何かが決まることが多い。アリスたちを尋ねに来るのは、その報告と確認のためでもあった。
そんなアリスたちは、深呼吸をしてから、そっと五年生の教室のドアを開けたのだが……。
その瞬間、代表してドアを開けたユーゴの頬をかすって、花瓶が飛んできた。背後から「ガチャンッ」と陶器が割れる音がする。
「テメーら生意気なんだよ! この『あまりもの』が!」
「……全く、君も飽きないね」
恐らく花瓶を投げつけたのであろう男子生徒に向かって、パウラは机に肘をついてため息をついた。
「それより、いいのか? また備品壊して。それに、——後輩たちの前だぞ」
どうやら、パウラはアリスたちの存在に気付いていたようで。
パウラの言葉に、怒鳴っていた男子生徒は何も言わなくなった。代わりに、アリスたちを睨みつけてから鼻息荒く教室を後にした。彼に続いて、クラスの大半も。
残ったのは、パウラたち『あまりもの組』の四人、ヒュー、クレア、ニャットの七人だけだった。
「ごめん、ビックリしたよね。怪我とかしてない?」
真っ先にアリスたちの元に駆け寄ってくれたニャットに「だ、大丈夫です……」と、ユーゴは呆気にとられたように答えた。
「それより、その、お取込み中、でした……? すみませんでした?」
「別に、『お取込み中』でも何でもないよ」
ポケットに手を突っ込んだレオは、肩をすくめて見せた。
「いつものことだから、慣れちまえば平気。お前らは、何の用? こっちに来るなんて珍しいじゃん」
「えっと、実は……」
パウラたちに今日来た目的を話すと、リーダーたちは快諾して、応援までしてくれた。
「それにしても、その……」
セレナは、チラリと教室の中を覗いた。
教室の中は、荒れ放題。並べてあるはずの机とイスはあちこちを向いているし、ひっくり返っているものもある。
それに、パウラたちが使っている机や椅子には落書きがされ、足も曲がっていた。特に、パウラのものが酷いありさまだ。
「……さっき花瓶を投げてたの、モーリッツ先輩ですよね? モーリッツ・フォン・ウェーバー先輩。アメリのお兄さん」
「よく知ってるな。さすが、コルデーロ嬢」
腕を組み、こんな状況なのにヒューは誇らしげな表情を見せた。
このやり取りをしている間、皓然とクレアは、せっせと教室を綺麗に片づけていた。
その様子を見て、アリスは「私も手伝うよ」と一歩を踏み出すことが出来ずにいた。
——知っている。この光景を。
『化け物の子!』
『化け物だから、親に捨てられたんでしょ』
『近寄らないでよ!』
頭に、ニヤニヤと笑う人たちの顔が、記憶の底から浮かび上がってきた。
『あの子に近づくと、怪我するよ』
『呪われてるんだって』
『ほら、ランフォードさん家の……』
『ああ。癇癪もちなんですってね』
『あの子、気味悪いよね』
『うわっ! 触んなよ、呪いがうつる!』
『近くにいると、変なことばかり起きるんだって』
ひそひそ話をする人たち。
こちらの様子を探るような、嫌な視線。
明確な拒絶。
そして——。
アリスの脳裏に、骨が付きだした腕ったものを抑える青年の画像が浮かび上がった瞬間、アリスは肩を揺さぶられてハッとした。
「アリスってば! どうしたの、さっきから何度も名前を呼んでるのに。体調、悪いの?」
「あ……」
心配そうに自分を見つめるローズ。「大丈夫?」と声をかけてくれる、桃子とセレナ。
——大丈夫。ここはもう別世界じゃない。
自分は『呪われた子』じゃない。
「——大丈夫だよ」
そう言って笑ったアリスを、皓然は教室を片付けながら見ていた。
「まあ、ボクらが気に入らないってだけ」
何でもないように言ってのけたパウラは、鞄を手に立ちあがった。
「一年の時から……、というか、この王宮に来てからずっとあんな感じ。対魔術師の子供なのに推薦で上がってきたボクが、気に入らないんだよ」
「でも、その……。これって、いじめですよね?」
桃子は首をすくめながらパウラを見つめた。
「担任の先生、ご存知なんですか?」
「知ってるよ。それで、毎回ボクらの側に立ってくれる。モーリッツたちは、何度もポイント没収されてる。でも、懲りないんだよねぇ」
「『懲りないんだよねぇ』って……!」
「アイツらにとって、対魔術師の子供に推薦枠をとられたことは、大恥だ。それこそ、家名に泥を塗るようなこと。実家にいても、両親からの圧力とか凄いんだと思うよ。これは、そのストレス発散でもあるんだろ」
パウラはそういうが、アリスはどうしても納得がいかなかった。それは、桃子たちも同じようだ。みんな、眉をひそめている。
アリスは、パウラ側の気持ちがよくわかる。だからこそ、どうしてこんなにも、のんびりとしていられるのか、不思議でならなかった。
アリスなら、とっくの昔に音を上げて両親の元に帰っていただろう。推薦だとか、関係なく。
「そのモーリッツって人たち、カウンセリングの対象にならないの?」
少なくとも、別世界ではそうだった。問題があるのは、いじめた側だから。
アリスの言葉に、レオは「もちろん、カウンセリングを受けてる」と答えた。
「魔法使いの時代からずっと。でもまあ、対象者が多いしなぁ。それに、アイツらはアイツらで仲間意識があるんだろ。集団の意識を変えることほど、難しいことはないからな」
「禁止されてなかったら、喉笛をかっぴいてやるんだけど……」
困り顔のローズが、恐ろしいことをボソッと呟いた。野生時代は小動物たちを狩って、食を繋いでいたらしい。そのせいか、いまだに精肉店の前を通りかかると目を爛々と輝かせている。
……そのことは、ひとまず置いておいて。
パウラはカバンを肩にかけると、アリスたちに笑って見せた。
「ほら、こっちのことは大丈夫だから。お昼に行っておいで。午後から対策講座があるんだろ?」
「でも……」
「心配性だなぁ。ボクらの『大丈夫』ほど、信用できるものは無いよ。ボクらだって、ただ黙っているつもりはない。だから、心配しないで。今は、自分たちのことを考えな」
「そうだよ。昇級試験、落ちたらクビになっちゃうんでしょ?」
パウラとニャットの言葉に、アリスたちはしぶしぶ頷いて五年生の教室を後にした。
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