199.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
依頼は達成できたものの、皓然とアダンの情報収集組の様子がいつもと違っていた。それに加え、アエラスの国宝でもあるキュプリアの帯を持ちだした犯人は、アダンの母親であるイザベラ・トゥータンであると、アダン本人が言い出して……。
結果から言うと、キュプリアの帯は本物だった。
アエラスでは盛大に盛り上がり、このお宝は「とある女性から寄付された」と報道された。レオが女装してコンテストに出場していた、という事実を出せば、とんでもない大騒ぎになるだろうから。
それから数か月もすると、アエラスに冬がやってきた。
キュクノスは雲と同じ高さに浮かんでいるから、地上ほど雪が積もることはない。けれど、時々、雲の中に入ってしまった時には酷い吹雪に見舞われる。
そして、そういう時こそ魔術師たちの出番というもので。
魔術師たちは吹雪の中キュクノスを走り回って、凍結防止の魔術をかけたり、除雪をしたりして、交通網がマヒするのを防ぐ。そうでなくとも、地上からは「雪かきを手伝ってくれ!」という依頼も舞い込んでくるから、てんてこ舞いというのは、この時期のことを言うのだろう。
そんなある日。
アエラスの国中は、色めきだっていた。国を挙げてのお祝いなので、あちこちで街が飾り付けられ、露店が立ち並び、賑わっていた。
国王夫妻の結婚記念日を明日に控えているからだ。
この日が祝日に設定されているのには、国王夫妻のような仲睦まじい夫婦になれるように、という意味があるらしい。それに乗じて、告白シーズンでもあるのだとか。
「——ま、バレンタインみたいなもんだよね」
桃子はアリスにそういうと、廊下に埋め込まれているテレビを指さした。
テレビには、『今年の占い発表』という文字。
「何の占い?」
「一年の時はアゴーナスのことで忙しかったから無かったし、去年はアリスがいなかったもんね」
桃子の言葉にさらにアリスが首をかしげると、セレナが「男性が女性に想いを伝える日でもあるのよ」
と教えてくれた。
「誕生日、生まれ年、血液型から占って、その人に一番相性のいい花が発表されるの。その花を想い人に渡して、受け取ってもらえたら恋愛成就。受け取ってもらえなかったら、その時は良縁が巡ってくる。——なんて言われてるわ。もうパートナーがいる人は、これからも両陛下のように仲睦まじくいられますようにって」
「はー……。なるほど……?」
道理で、王宮中も色めきだっているわけだ。
アリスは、胡散臭いとしか思わないけれど。
だって、占いだ。
誕生日と生まれ年と血液型を使って占うというが、同じ生年月日、血液型の人はいっぱいいるだろう。その全員が同じような人生を送るわけなどない。
例えば……、そう。手相だとか、占い学で使うような水晶だとかを使った占いなら、まだ信用できる。少なくとも、アリスの中では、だけれど。
「お花屋さんが繁盛するための売り文句?」
「お前、ロマンねぇな」
「……超現実主義者」
ユーゴと俊宇のことは睨みつけて、アリスはフンと鼻を鳴らした。
——……まあ、今年は? 何かあるかもしれないけれど?
だって、少なくとも二人ほどにアリスは心当たりがあるから。
そんなアリスたちの前を、花束を持ったよく知る男性が通りかかった。
「——あっ?」
「……お父さん?」
最近、杖もなく自分の足だけで歩けるようになったばかりの父は、アリスたちからの視線を受けて顔を真っ赤にした。
それから、アリスたちの視線はテレビへ。ルイスの生年月日、血液型の花は——。なるほど。確かに、苺となっていた。ルイスが手に持っているのは、まさにその苺の花だった。しかも、苺の実まで付いている可愛らしいミニブーケ。
「まあ!」
隣でセレナが嬉しそうな声をあげているが……。
アリスはなんだか、複雑な心境と言うか……。正直、父が母に花を贈っている場面を見たことはなかったし、その現場に立ち会うのもなんだか気恥ずかしいというか……。
「えーっと、今後ともお幸せに?」
「……どうも」
親子なのに他人行儀な挨拶をかわし、そそくさと医務室へ向かうルイスの背中をアリスたちは見送った。
「……ごめん、なんか変な場面を見せちゃった」
「どうして!? 素敵じゃない!」
セレナは興奮して頬を紅潮させ、両手をぶんぶんと振っていた。
「いいじゃない! お父さんとお母さん、仲が良いってことよ!? 理想の夫婦像じゃない!?」
「えーっと……。正直、私は自分が結婚するとか考えたことが無いというか……」
「私、恋愛漫画よりバトル漫画派。グロかったらなおよし」
そんなアリスと桃子の返答を受け、セレナは「えー!?」と不満そうな声をあげた。
セレナは、超が付くほどのロマンチスト。恋愛ものが大好きで、よくクレアと流行りの恋愛漫画がどうのこうのと盛り上がっているのを見かける。
そんなセレナは、この中で唯一、自分に味方してくれるだろう友人——アダンに視線を向けた。
「アダン、そう思うわよね!?」
「思う、思う! というか、今からぼくの花を三人分買ってくるから、受け取ってよ!」
「それはいらない」
女子三人の声が重なり、アダンは悲鳴に近い声をあげた。
——良かった。アダン、いつも通りだ。
アリスは再び前を向き、小さく息をついた。
あの淑女コンテストの辺りから、何となくアダンの雰囲気が変わった。それに、なぜだか皓然とあまり話さなくなった。
いや、会話はするのだが、今までのような「気の許せる友達」感がない。二人の間に、何となくだけれど、距離が出来てしまったように感じられた。
何があったのかは、聞いてはいけないような気がした。だから、聞いていない。
それから、アリスたちはそれぞれ部屋に帰って、いつも通りの生活をした。
そう、いつも通り。
次の日——つまり、国王夫妻の結婚記念日を迎えても、いつも通り。花なんて一本ももらわずに終わった。
公爵家の娘であるパウラは式典に出席するため留守にしていたから、他のみんなで一緒にリビングでのんびりお茶をして、ためていたアニメを消化して、ちょっとした買い物をしに売店へ行って、終わった。
いつも通りの休日を過ごして終わった。
——いや、なんで!?
夜も遅い時間だというのに、アリスはベッドの中でカッと目を開いた。
——皓然、私に告ったよね? シオン、私のことが好きだってアゴーナスで言ってたよね?
なのに、どうして花の一本もくれないのだろう? 一本くらい、くれても良いではないか。
シオンは外国人だから、まあ、分かる。会いに来れなかっただけかもしれないから。
でも、皓然は別だ。今日一日、ほとんど一緒にいたというのに、その気配すらなかった。
レオもそうだけれど。ローズがそれとなく花の話題を出しても、二人揃って一つも食いつくことは無かった。
そんなことを考えていたら眠れなくて、やっと寝付けたと思っても、何度も目が覚めてしまった。そうこうしている内に、朝の六時。
——ダメだ。一回お水飲んでリセットしよう。
しばらくベッドの中でもんもんと考えてから、アリスはそう決意した。今日は授業日。授業中の睡眠欲求を少しでも軽減するために、一分でも多く寝なければ。
そう思ってアリスが部屋から出たのと同時に、玄関ドアが開かれた。
見慣れた黒髪の青年が、白い花束を持って外へ出て行った。
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