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200.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 別世界のバレンタインデーに当たる、国王夫妻の結婚記念日。なんでも、想い人に花を渡す風習があるらしく、少し期待していたアリスだったが、全く何も起こらず……。悶々と考えすぎて眠れず、水を飲もうと部屋を開けたら見慣れた黒髪の人が玄関ドアを開けるのが見えて……。

 早朝の六時半。


 三本足の烏を肩にとめる中級魔術師は、白い息を吐きながら中庭を歩いていた。


 その手が持っているのは、白い花束。花の種類は様々で美しいことは確かなのだが、洒落(しゃれ)っ気はほとんどない。


 中庭の先、林を抜けた突き当りにある大木が目的地。


 魔術師はその木の根元に花を供えると、しゃがんだまま目をつむって黙祷を捧げた。


「——誰へのお花?」


詩織(しおり)


 振り返ることなく、魔術師はそっと目を開けて、供えたばかりの花を見つめながら答えた。


 つけられていることには気付いていた。前に、パウラにも同じことをしていたから、今回も話しかけ方が分からなくて、付いてきてしまったのだろう。


「ぼくの、大事な人」


「……へえ」


「でも」


 サアッと冷たい風が吹き、魔術師たちの髪を舞い上げた。


 烏を肩に乗せていた方の魔術師はゆっくりと立ち上がり、頭についていた枯葉を取って、それを色々な角度から見回した。穴が開いていて、正直綺麗ではない。


 でも、日の光を通して見ると、葉っぱの繊維が見えて、葉っぱも生物だったのだと気付かされる。


「——ぼくが、殺した」


「……」


 葉っぱを日に透かしていた手を下げ、黒髪の魔術師はゆっくりと振り向いた。


「珍しいですね、こんな早い時間に起きてくるなんて」


「……なんとなく、目が覚めて。お水を飲もうとしたら、皓然が出て行くのが見えたから」


 そう答えた金髪の魔術師——アリスは、皓然から目をそらして袖口を握った。慌てて出てきたから、身なりを整えている皓然とは違って、寝間着にカーディガンを羽織っただけの姿。寝ぐせだって直していない。


 それでも、追いかけてきてしまった。なんだか、皓然が遠くへ行ってしまいそうな気がしたから。


 引き留めなければと思った。


 たったそれだけの理由で、アリスは皓然の後を追いかけてきてしまった。


 そんなアリスをしばらく見つめてから、皓然はコートを脱いでアリスの肩にかけてくれた。


「風邪ひきますよ」


「は、皓然が風邪ひいちゃうよ!」


「寒い所の出身なので、これくらい平気です。マフラーもあるし」


「じゃ、じゃあ……。ありがとう……」


「どういたしまして」


 そう言って笑った皓然だったが、やはりいつもとは雰囲気が違っていて……。


 そのことに触れられず、アリスはかけてもらったコートを羽織り直した。


 聞けなかった。


 シオリという人のこと。


 殺したという言葉の意味。


 ——皓然の過去。


「……皓然、どこにも行かない?」


「はい? 今から、保安部にはいきますけど……」


「そうじゃなくて」


 アリスは、皓然のコートを握り締めた。


「どこか、遠い場所。私たちのことを置いて、どっかに行っちゃわない? ナーノスの実家とか……」


「——行きませんよ」


 アリスの問いに、皓然は笑って答えた。


「今のぼくは、アエラスの魔術師です。何より、ナーノスは今鎖国中。小人に育てられたとはいえ、アエラス国籍のぼくじゃ、受け入れてくれませんよ。元々、小人は魔力だの魔術師だのが大嫌いだし」


 マフラーまで外した皓然は、アリスの首にそれを巻きつけた。アリスの手が小刻みに震えているのは、寒いからだと思ったから。


「じゃあ、ぼくはこれで。本当に風邪ひいちゃうから、早く帰るんですよ。またあとで」


 アリスに笑いかけて、皓然はクロエを連れてさっさと行ってしまった。


 アリスには、その後姿を見送ることしかできなかった。


 部屋に帰ったアリスは、支度を整えて、いつも通りみんなと挨拶をかわして、朝食をとって、アダンと一緒に教室へ向かった。


 遅れて帰ってきた皓然は、いつも通りだった。朝に弱いアダンの世話を焼きつつ、みんなの朝食を用意して、パウラと軽口をたたき合って、教室へ向かっていった。


 だが、アリスは彼のことが気になって、気になって、仕方がなくて……。


「——今日は一段とボーッとしてんね」


 隣の席の桃子は、そう言って机に突っ伏すようにしてアリスの顔を覗き込んだ。それに、セレナたちも集まってきた。みんなして、朝からアリスの様子がおかしいので、心配してきてくれたらしい。


「何かあったの?」


「えっと……」


 セレナの問いに、教科書を握り締めたアリスは「その」と小さな声を漏らした。


「……シオリさん、って知ってる?」


「シオリさん?」


「えっと、その、ちょっと小耳に挟んだんだけど、聞いたことのない名前だったから……」


「ふーん?」


 桃子たちは顔を見せあって、「知らないよ」と首を横に振って答えた。


「そっか……。名前の雰囲気的に、千夜族かなって思ったんだけど……。私には馴染みのない音の名前というか」


「確かに、千夜族っぽい名前だけど……」


「……少なくとも、千夜族ではない。……その名前の人はいない」


 桃子の言葉を受け、口元を袖口で隠した俊宇はそう断言した。


「……千夜族は、……一部を除いて植物関連か虫関連の名前」


「『一部を除いて』?」


「それこそ、然兄とか、俊宇とか」


 桃子はそう言って、肘をついた。


「理由は知らないけどね。まあ、古い風習というか。黄家の男の子は必ず『皓』の字を名前に入れるって決まりがあるんだよ。李家は、次男から下の男の子には『俊』の字を入れるって決まりがあるんだ」


「……桃子なんて、そのまま。……果物の『桃』」


「桃は縁起物だもん。花そのものが名前になっていることもあるよ。牡丹姉や楪ちゃんはまさにそう」


 首をかしげるセレナたちに、桃子は「別世界の千夜族のほとんどは、漢字っていう文字を使うんだよ」

と説明し始めた。


 桃子の漢字に関する説明を聞き流しながら、アリスは小さなため息をついた。


 謎に満ちた『シオリさん』。皓然の親戚である桃子と俊宇なら、何か知っているのではないかと思ったのだが……。


「——へえ。まるで小人みたいね」


 セレナのその言葉に、アリスは現実に意識を持って帰ってきた。


「小人も、その『カンジ』に似た文化を持っているじゃない。一文字一文字に意味があることとか」


「言われてみれば、そうかもな」


 そう言って腕を組んだユーゴは、衝撃的な言葉を発した。


「千夜族は元々、小人の系譜なわけだし。かぐやの血と一緒に文字文化も受け継がれていても、おかしくはないよな。実際、俺らと名前の構成も違っているわけだし」


「それだ!」


 桃子は勢いよく立ち上がり、ユーゴの手を握った。


「さすがユーゴ! 俊宇、黄家の始祖は『百何(バイホー)』だったよね!?」


「……そ、そう。……ユリって意味」


「それだよ! 千夜族が植物関連の名前を付けるのって、百何さんの影響だよ!」


「……黄家が『皓』を使うのは、……『(ひかる)』さん由来?」


「そう!」


 ユーゴの手を離し、桃子は笑顔で腰に手を当てた。


「虫由来の名前と、俊宇のは分かんないけど……。でも、『皓』の字と、植物由来の名前はきっと皓さんと百何さんが関係しているんだよ! それに、元々の百何さんの名前はイベリス。ほら、きっとそう!」


「えーっとさ、桃子」


 桃子の勢いに押されつつ、アダンが控えめに手をあげた。


「それ、小人の文字文化とシオリさんと、どう関係してんの?」


「……」


 急に黙り込んだ桃子は、何も言わずに椅子に座り直した。


 頭に思いついたことをただ並べただけだったので、話しが脱線してしまっていた。


 確かに大発見をした桃子だったが、真っ赤に染まった顔を両手で覆って動かなくなってしまった。


「えっと、大発見であることに変わりはないんじゃない?」


 セレナのその言葉に、パッと桃子は持ち直して顔をあげた。「そうだよね!」なんて、いつもの笑顔を浮かべて。


 そんな桃子に笑って見せてから、セレナは「あ」と声をあげた。


「皓然先輩に、聞いてみたら?」


「えっ!?」


 思わず声を裏返して、アリスは「なんで!?」と飛び上がった。


 それに首をかしげながらも、「だって、ナーノスに住んでらしたじゃない」とセレナは続けた。


「『小人と千夜族は似た文字文化を持っている』と仮定して。鎖国状態のナーノスがどういう状況にあるのかを一番よく知っているの、皓然先輩じゃない。普段だって小人言葉を話されているし」


「待てよ。それで言ったら、その『シオリさん』、小人になっちゃうだろ」


 ユーゴのもっともな言葉に、セレナは「あ、そうよね」なんて言っていたが……。

お読みいただきありがとうございました!

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