冒険者になります(後編)
「おい、嬢ちゃん。可愛いな。俺と遊ばねぇか?」
ミーナ(元男)、転生して初めてナンパをされました。
時間は冒険者登録をするために冒険者協同組合『王都ギルド』に来る少し前に遡る。
「なぁ、フェア。お前ってハウス妖精っていう家につく妖精なんだろ? 家出て大丈夫なのか?」
「そうなのね。でも、なんか出れたのね」
なんだそのふわふわとした理由……。
王都ギルドというところに向かっている馬車に乗っているのは俺と奈々葉とフェアだけだ。
カナムラは家でやらないといけない事があるからと、着いてこなかった。
正直、意外だった。カナムラは俺に、その、好意を持ってくれている……。
結構強引だし、無理やりでも着いてくるかと思っていた。
それにしても、馬車の乗り心地は相変わらず悪い。
横に座っている奈々葉はあれからもずっと落ち込んでるし、そろそろ許してやるか。
「あの、奈々葉……」
「――王都ギルドに到着いたしました」
馬車の御者が俺の言葉を遮って、到着を知らせる。
た、タイミングェ……。
「はぁ、下りましょう……はぁ、ミーナ……はぁ…………」
「お、おう」
奈々葉のため息の数がどんどん増えていく。
ショック受けすぎだろ……。
ちゃんとタイミングを見て許さないとな。
好きな奴の落ち込んでいる姿なんか、ずっと見てたくない……まぁ、原因俺ですが。
「うわぁ、でけぇな……」
奈々葉ん家ほどじゃないが、デカい門だ。
看板には『王都ギルド』と書いてある。
中からは男の笑い声と怒声が聞こえる。
なんだろうか……今更だけどすげぇファンタジーって感じだな。
「それでは私はここでお待ちしております」
「わかったはぁ……。ミーナの登録が終わったはぁ……。戻るはぁ……」
さて、そろそろ奈々葉のため息が語尾化してきたな。
はぁはぁ言いながら王都ギルドに入る奈々葉。
俺も続いては入ると、中からは煙草と酒の匂い、そして前世振りに感じる男臭さ……。
かえりたい……。
「登録の準備はぁ……してくるからはぁ……待っててはぁ……」
とぼとぼと重い足取りで受付に行く奈々葉。
まぁ、待ってても何も二、三メートルしか離れてないけどな。
俺は待っている間にギルドの中を見回す。
臭いの割には綺麗だな。受付も従業員も綺麗なお姉さん方だ。
受付は二つに分かれていて、食事や酒なんかを売っている受付と奈々葉のいる冒険者用の受付。
「おい、嬢ちゃん」
しかし、見れば見るほど男だらけだな。
まぁ、俺はハイパー美少女だが、まだ十歳だし危ないこともないだろう。
「お、おい、嬢ちゃん」
流石に、いくら美少女といえど、十歳の子供に欲情する大人なんていないだろう。ハハハ!
「おい! 嬢ちゃん!!」
「…‥ん、もしかして俺?」
先ほどから聞こえる声の方に振り向いてみると、そこにはいかにも屈強そうな風方をした男が立っていた。
「おい、嬢ちゃん。可愛いな。俺と遊ばねぇか?」
あぁ、あれか…‥もしかしてナンパか…‥。
女として生まれ変わって十年経つけどナンパをされたのは初めてだ。
うぅ、何が悲しくて男にナンパされにゃならんのだ。
仕方ない。ここはこんな子供を口説きに来た勇気に免じてやんわりと断ってやるか。
「えぇ、もしかして鬼ごっこですか? それともかくれんぼ?」
純粋な子供をアピールして欲情を防ぐ作戦。
流石にこんないたいけな美幼女をナンパするなんて気は。
「ぐへへ、いいじゃねぇか。俺と真夜中の鬼ごっこしようじゃねぇか」
へ、変態だぁーーーーーー!!!!!
なんだこいつ、なんでさらに興奮するんだ。
変態か! …‥変態でした。
男は俺の手を掴もうとしてくる。
が、その手は俺に届かずに止められる。
「ん、なんだてめぇ?」
男の手は奈々葉によって止められた。
「その子に指一本触れるな…‥」
先ほどまでの覇気のない声とは真逆の低く威嚇するような声。
な、奈々葉さんこえぇぇぇ。
「は、なんだお前! いきなり「――殺すぞ?」ヒッ!?」
フードを被っている奈々葉の目がチラッと見える。
ほ、本気で殺す目をしてらっしゃるー!!
大柄の男も怯んで足が震えている。
俺が止めなきゃ本当にヤバい。
「お、おい、奈々葉…‥それくらいにしとけよ。俺、何もされてないからさ」
「…‥…‥うん、ミーナがそういうなら」
そう言って、奈々葉は男の手を離す。
「ひ、ひぃぃぃーーー!!!」
男は奈々葉に離されるとすぐさまその場から逃げ出した。
「な、何もんだあのフードの女…‥」
「さっきのやつ、Cクラスの冒険者だろ…‥それを気迫だけで…‥」
「Aクラス…‥いや、Sクラスの冒険者か…‥」
ギルドにいる全員の視線が奈々葉に集まる。
全員の目から、警戒の色を感じる。
「あっ…‥」
先ほど逃げ出した男が勢いよくギルドの扉を開け去る。
その時、ギルド内に風が入り、その風は綺麗に奈々葉のフードを外した。
「なっ…‥黒髪の女…‥」
「なんと、おぞましい…‥」
「本当にあんな気持ちの悪い髪色のやついるんだな」
「黒髪で女……まさか、あいつ勇者なのか…‥!?」
先ほどまで賑やかだったギルド内は静かになる。
その視線は奈々葉に集まり、そのほとんどが軽蔑や嫌悪の視線だった。
なんだこいつら…‥なんで、奈々葉が黒髪ってだけでこんな…‥。
俺は拳を強く握り、怒りを抑える。
出ないと、一番近くにいる冒険者を殴ってしまいそうだ。
「クソッ…‥」
「いいのミーナ…‥。これが正しい反応なの…‥ほら、手続きは済ませたから帰りましょう」
「あぁ…‥…‥」
奈々葉が我慢しているんだ。
俺が怒りを声に出しても、さらに奈々葉の評価を下げるだけ…‥。
分かってはいたが、俺は無力なんだな…‥。
好きな女が傷つくのを見ているしかないなんて…‥。
「うぅ…‥」
自分が情けなくて涙が出てくる。
「ありがとう、ミーナ…‥」
奈々葉はそう言いながら俺の頭を撫でる。
その顔はとても、とても優しい。
「私のために悲しんでくれてありがとう」
何が…‥ありがとうだ…‥!!
俺は自分の無力さを噛み締め、涙を拭いて奈々葉に手を引かれる。
絶対にいつか、奈々葉をこんな状況から助ける…‥俺はそう心に決めた。




