冒険者になります(前編)
朝、目を覚ますと奈々葉に抱きしめられていた。
いや、もうこれは抱きしめられるというか絡められているって感じだな。
足と腕で俺をホールドしている奈々葉は幸せそうな顔で寝ている。
少しでも動いたら起きそうだな。
気持ちよさそうに寝ている奈々葉を起こすのも悪いし……もう少しこのままでいるか。
いや、別に奈々葉の胸の感触を楽しんでいる訳じゃないですよ。本当ですよ。
「……」
俺が奈々葉の胸の感触を楽しんでいると、目の前に羽の生えた小さな人型生物が飛んできた。
……。
めっちゃビックリしたが、声を出さなかった俺を褒めて欲しい。
なんだこいつ、妖精さん? だけど、この世界でも妖精は架空の生物のはずだ。
「起きるのね」
「……あぁ、喋れるのか」
「当たり前なのね。フェアちゃんを馬鹿にしないのね」
うむ、このフェアちゃん。
差し詰め、奈々葉の家の住人なんだろう。
魔王を二人も住まわせているんだ。
妖精の一匹位なんら可笑しい話じゃない。
「ん……、あぁ、おはようミーナ」
丁度、奈々葉も目を覚ましたし聞いてみるか。
「なぁ、奈々葉。この妖精っぽいのって奈々葉にペットか何かか?」
「んん……? 妖精? 何を言ってるのミーナ。ふふ、妖精なんているわけないじゃない」
奈々葉は可愛く微笑みながら言う。
じゃあ、目の前にいるこいつはなんだ。
「フェアはペットじゃないのね。フェアはハウス妖精なのね」
「ハウス妖精……」
俺がそう呟くと、奈々葉が俺を絡めている手足を解いて起き上がる。
「ミーナ! ハウス妖精が見えるの!?」
「え、あぁ、見えてると思うぞ……」
このちんちくりんが本当にハウス妖精ならだけど。
「ハウス妖精って家を大事にする家主の前に出てくる繁栄の妖精なのよ」
「そうなのね! フェアはとってもありがたい存在なのね!」
「家主は私なんだけど……まぁ、ミーナなら仕方ないわ!」
「そうですね。ミーナ様なら仕方ないですね」
「うおっ!?」「あら、カナムラおはよう」
いつの間にかいたカナムラに話しかけられて俺はベットから飛びあがった。
カナムラの顔を見てみると、どことなく得意げだ。
うん、分かった。こいつわざとやってる。
「しかし……この家に来てまだ三日目のミーナ様にハウス妖精が……」
「日数なんか関係ないのね! 私とご主人様は赤い糸で結ばれてるのね!」
「ふむ……つまり一目惚れという事ですか?」
「そういう事なのね」
「あれ、もしかしてカナムラも見えてるの?」
「一応魔眼持ちなので」
魔眼……この世界にはそんなものまで存在するのか。
思っていたよりファンタジーだな。
「まぁ、ハウス妖精がミーナに付いたのは本当にラッキーね」
「はい、ハウス妖精は魔力補助と魔法詠唱代行などの能力を持っているので、今日から冒険者になるミーナさんにはもってこいの使い魔です」
「フェアは使い魔じゃないのね! 使い妖精なのね!!」
似たような物です。とハウス妖精を足蹴にするカナムラ。
真逆なのね! と怒るハウス妖精のフェア。
なるほどな。この世界に魔法が存在する事は薄々気づいていたが、色々と種類があるんだな。
フェアの能力があれば、俺も魔法を使えるって事か。
まぁ、俺も今日で冒険者になるみたいだし、力は使えるに越したこともないだろ、う……うん?
「あの、私が冒険者になるというのはどういう事なのでしょうか?」
俺がそう聞くとカナムラはキョトンと首を傾げた。
うん、可愛いけど、とぼけてる顔が少しウザい。
「ナナ様から聞いてないんですか。今日はミーナさんの冒険者登録を行う予定なのですが」
「へ、へぇー、聞いてないですね。どういう事なんですかね。奈々葉さ~ま~?」
「うっ、ジト目も可愛いけど怖いよミーナ。ほら、笑って、伝達ミスってあるじゃない?」
「やっぱり伝え忘れてたんじゃないですか奈々葉さま」
俺は、奈々葉から素で話すように命令されている。
だが、俺は今、奈々葉に敬語で喋っている。
俺は怒ると敬語になる事があるので、これは素だ。
「ほら、ミーナ! 素で話してよ。昨日みたいに男の子みたいな口調に戻ってよ!」
「ふふ、何を言ってるんですか。これが私の素ですよ水月様」
「なんで苗字呼びー!?」
さて、奈々葉をからかうのはこのくらいにして、ちゃんと話を聞くか。
「で、どういう事なんですか。私が冒険者って?」
「はい、昨日のナナ様のいつでも一緒にいたいという願いをかなえる為に冒険者登録が必要なのです。ナナ様の職業は冒険者なのですが、冒険者の仕事に同伴するには『冒険者に依頼をする』もしくは『同じ冒険者』である必要があるんです」
「なるほど、奈々葉と俺が一緒にいるには俺が冒険者登録しないといけないって事か」
『イエス』と指を変形させて文字を書くカナムラ。
うわっ、そんな事も出来るのか。スライムって凄いな。
俺は、横でごめんなさいと言い続けている奈々葉を横目に、カナムラのかくし芸に驚く。
「という訳で、朝食を頂いたらすぐに向かいましょう。予約は入れているので」
あぁ……これはあれだな。拒否権無しってやつだな。
まぁ、冒険者になれば盗賊とかの情報も入るだし、復讐にうまく使えるだろう。
これは、思いがけない収穫かもな。




