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第五話「回収記録:#0003」


 現場に着いたのは、通報から十九分後だった。


 いつも通りだ、と田中は思った。渋滞がなければ十五分。今日は少し引っかかった。誤差の範囲。


 助手席の新人——入って三ヶ月の永井——が、窓の外を見ていた。黙っている。賢い子だ、と田中は思う。最初のうちは喋らないほうがいい。喋ると、余計なことを考える。


 車を停めた。荷台から道具を出した。袋、タグ、仕切り板、計測器。いつものセット。


「行くぞ」


 永井が頷いた。


            ◆


 現場は、開けた場所だった。


 戦闘跡が広範囲に残っている。地面が抉れている。壁が崩れている。上位種と交戦した跡だ、と田中はすぐに判断した。数体はいたはず。市民への被害はなかったようだ。


 対象は、その中心近くに倒れていた。


 仰向けだった。目が開いていた。


 外傷は、少ない。


 田中はそれを見て、まず計測器を出した。数値を確認した。損耗率を読んだ。読み返した。


「……当たりだな」


 声に出たのは、独り言だった。でも正直な感想だった。


            ◆


「#0003、確認」


 田中がタグを照合した。永井が手帳に記録した。


「状態、良好」


 永井が、少し止まった。


 田中は気づいたが、何も言わなかった。


 良好というのは、そういう意味だ。傷が少ない。形が残っている。回収できる量が多い。この仕事での「良好」は、そういう意味だ。最初はみんな止まる。慣れる。


「右腕、使えるか確認しろ」


 永井が動いた。計測器を当てた。数値を読み上げた。


「魔力結晶、付着確認。再利用可です」


「心核は」


 少し間があった。


「……残ってます。損耗、三十二パーセント。再利用、可」


 田中は頷いた。


「今日は補填が楽になるな」


 永井は何も言わなかった。


            ◆


 作業を始めた。


 田中は手際がよかった。何年もやっている。どこから始めるか、どの順番で分けるか、袋をどう使うか、体が覚えていた。考えなくてもできる。考えないほうがいい。


 袋は、今日は三つ使った。


 #0001のときは一つだった。右腕だけだったから。

 #0002のときは袋がいらなかった。何も残らなかったから。


 今日は三つ。


 田中はそれを、良いこととして処理した。それ以外の処理の仕方を、田中はもう持っていなかった。


            ◆


 作業の途中、永井の手が止まった。


 田中は見ていた。


 永井の視線が、顔にいっていた。目が開いたまま、空を向いている顔。夜明け前の白い空が、その目に映っていた。


「……若いな」


 永井が、小さく言った。


 田中は何も言わなかった。


 若い。そうだ。みんな若い。この仕事を始めてから、田中が回収してきた対象は、全員若かった。一人も例外がなかった。それが何を意味するのかを、田中は考えないようにしていた。考える訓練を、自分に施してきた。


 永井はすぐに視線を戻した。作業に戻った。


 賢い子だ、と田中はまた思った。


            ◆


 三十分かからなかった。


 袋をトラックの荷台に積んだ。タグを確認した。記録票に数値を書き込んだ。田中が書いた。永井が横で見ていた。


「覚えておけ」


 田中が言った。


「記録票は正確に書く。数値は丸めるな。部位ごとに分けて書く。あとで照合が入るから」


「……はい」


「感情は書かなくていい。書く欄がない」


 永井が、一瞬だけ田中を見た。


 田中は記録票を閉じた。


 荷台を閉めた。


 次の現場の座標が、端末に入っていた。


            ◆


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回収記録 第三号


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 対象番号  :#0003

 現場到着  :通報より十九分後

 作業時間  :二十七分


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■回収結果


 回収率   :高

 再利用率  :高


 右腕    :再利用可(魔力結晶付着)

 心核部   :再利用可(損耗率32%)

 その他部位 :再利用可(損耗率平均41%)


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■市民被害  :0

■処理区分  :回収完了


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■担当回収員


 田中 ██(ベテラン)

 永井 ██(補助)


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■備考


 対象の損耗率は過去三件中、最低値。

 良好な状態での回収を達成。

 補填物資として優先的に活用予定。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


            ◆


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参考:過去回収記録との比較


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 #0001 回収率:低  再利用率:低  (右腕のみ)

 #0002 回収率:なし 再利用率:なし (全損)

 #0003 回収率:高  再利用率:高  (大部分)



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