第五話「回収記録:#0003」
現場に着いたのは、通報から十九分後だった。
いつも通りだ、と田中は思った。渋滞がなければ十五分。今日は少し引っかかった。誤差の範囲。
助手席の新人——入って三ヶ月の永井——が、窓の外を見ていた。黙っている。賢い子だ、と田中は思う。最初のうちは喋らないほうがいい。喋ると、余計なことを考える。
車を停めた。荷台から道具を出した。袋、タグ、仕切り板、計測器。いつものセット。
「行くぞ」
永井が頷いた。
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現場は、開けた場所だった。
戦闘跡が広範囲に残っている。地面が抉れている。壁が崩れている。上位種と交戦した跡だ、と田中はすぐに判断した。数体はいたはず。市民への被害はなかったようだ。
対象は、その中心近くに倒れていた。
仰向けだった。目が開いていた。
外傷は、少ない。
田中はそれを見て、まず計測器を出した。数値を確認した。損耗率を読んだ。読み返した。
「……当たりだな」
声に出たのは、独り言だった。でも正直な感想だった。
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「#0003、確認」
田中がタグを照合した。永井が手帳に記録した。
「状態、良好」
永井が、少し止まった。
田中は気づいたが、何も言わなかった。
良好というのは、そういう意味だ。傷が少ない。形が残っている。回収できる量が多い。この仕事での「良好」は、そういう意味だ。最初はみんな止まる。慣れる。
「右腕、使えるか確認しろ」
永井が動いた。計測器を当てた。数値を読み上げた。
「魔力結晶、付着確認。再利用可です」
「心核は」
少し間があった。
「……残ってます。損耗、三十二パーセント。再利用、可」
田中は頷いた。
「今日は補填が楽になるな」
永井は何も言わなかった。
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作業を始めた。
田中は手際がよかった。何年もやっている。どこから始めるか、どの順番で分けるか、袋をどう使うか、体が覚えていた。考えなくてもできる。考えないほうがいい。
袋は、今日は三つ使った。
#0001のときは一つだった。右腕だけだったから。
#0002のときは袋がいらなかった。何も残らなかったから。
今日は三つ。
田中はそれを、良いこととして処理した。それ以外の処理の仕方を、田中はもう持っていなかった。
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作業の途中、永井の手が止まった。
田中は見ていた。
永井の視線が、顔にいっていた。目が開いたまま、空を向いている顔。夜明け前の白い空が、その目に映っていた。
「……若いな」
永井が、小さく言った。
田中は何も言わなかった。
若い。そうだ。みんな若い。この仕事を始めてから、田中が回収してきた対象は、全員若かった。一人も例外がなかった。それが何を意味するのかを、田中は考えないようにしていた。考える訓練を、自分に施してきた。
永井はすぐに視線を戻した。作業に戻った。
賢い子だ、と田中はまた思った。
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三十分かからなかった。
袋をトラックの荷台に積んだ。タグを確認した。記録票に数値を書き込んだ。田中が書いた。永井が横で見ていた。
「覚えておけ」
田中が言った。
「記録票は正確に書く。数値は丸めるな。部位ごとに分けて書く。あとで照合が入るから」
「……はい」
「感情は書かなくていい。書く欄がない」
永井が、一瞬だけ田中を見た。
田中は記録票を閉じた。
荷台を閉めた。
次の現場の座標が、端末に入っていた。
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回収記録 第三号
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対象番号 :#0003
現場到着 :通報より十九分後
作業時間 :二十七分
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■回収結果
回収率 :高
再利用率 :高
右腕 :再利用可(魔力結晶付着)
心核部 :再利用可(損耗率32%)
その他部位 :再利用可(損耗率平均41%)
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■市民被害 :0
■処理区分 :回収完了
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■担当回収員
田中 ██(ベテラン)
永井 ██(補助)
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■備考
対象の損耗率は過去三件中、最低値。
良好な状態での回収を達成。
補填物資として優先的に活用予定。
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参考:過去回収記録との比較
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#0001 回収率:低 再利用率:低 (右腕のみ)
#0002 回収率:なし 再利用率:なし (全損)
#0003 回収率:高 再利用率:高 (大部分)




